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第048話「商魂襲来!独立?強奪?」


 私は、震える手でエリスからの手紙を再度読み直した。


 文末に記された日付は、今日から遡ること3日前。


 王都からこの辺境パプリカ領の町ピメントまでは、荷馬車を連れた行軍であれば通常1週間。

 順調にいって7日の行程だ。


 これは私自身も追放(左遷)された時に辿ったルートであり、実測として概ね間違っていない。

 ただ現在、パプリカ領内の道は私の事業により舗装が進んでいるため、7日のうち1日ほどは早く着くだろうと予測される。

 つまり、6日で到着する。


 早馬の使者が死に物狂いで馬を乗り継ぎ、3日で届いたということは……。


「……計算上あと3日」


 ポツリと絶望的な数値を呟く。


 あと3日もしないうちに、エリス――いや、独立し新興貴族となった、『エリスリトール・グルコース男爵』ご一行様が到着するということになる。


 ただの友人エリスとしてではない。

 今回は正式な爵位を持つ『エリスリトール・グルコース男爵』としての公式訪問となる。


 アセスルファム公爵家の寄子よりことしては、私の実家であるアスパルテーム伯爵家より家格下になるが、エリスは男爵家の当主になったのだ。


 対して、現状のパプリカ領を表向きで治めているのは誰か。

 そう領民に聞けば、皆が口を揃えてこう言うだろう。

 アスパルテーム伯爵令嬢であると。


 だが、実際の統治構造は異なる。


 かくして私とは何者なのかを問うた場合、その答えは『伯爵・令嬢』、そう、あくまで『貴族の娘』でしかない。

 父の名代としての「領主代行」という肩書きはあるが、それは建前だ。

 実質的には、元執事のソルビトールこそがパプリカ領の代官であり、ピメントにある領主館のあるじ

 私、パルスイートは、その統治に口を出す『アスパルテーム伯爵家の娘』であり、法的な権限で見ればほぼ部外者同様なのである。


 身分制度が絶対のこの世界において、当主(男爵)と娘(令嬢)では、明確に立場が違う。

 友人だからといって、貴族家の当主に対し『なあなあ』の対応をとっては家の恥をさらすようなもの。

 それは絶対に許されない。


 そもそもが公爵令嬢と伯爵令嬢という家格の差がある関係だ。

 過去には言葉遣いの失態により、物理的に顔を腫らす事態になった痛みも忘れてはいない。


 相手が公式に爵位を掲げてくる以上、こちらもアスパルテーム家の顔に泥を塗らないよう、相応の格式で迎え入れなければならないのだ。


 迎賓館の整備。

 歓迎式典の準備。

 滞在中の食事の手配。

 儀仗兵の選定。


 先日のチクロ・ズルチン侯爵令嬢の訪問により、領主館の迎賓体制はかなり消耗している。

 そこから間を置かず、これらを?

 たった3日で?

 

「……ソルビトール!

 いる!?

 大問題よ…」


 私は弾かれたように振り返り、控えていた老執事を呼んだ。


「はい、お嬢様。

 ここに」


 ソルビトールは眉一つ動かさず、静かに佇んでいる。


「緊急事態!

 あと三日でエリス……じゃなくて、グルコース男爵様がいらっしゃるわ!

 書面的に『当主』としての公式訪問よ!

 すぐに迎賓館のゲストルームを整え直して!

 シーツとカーテンは取り替え!

 あと、歓迎の晩餐会のメニュー構成を!

 ワインは?

 お茶菓子は?

 当家より格下の男爵位でも、エリスは公爵家で育ったお嬢様よ。

 高価すぎない範囲で品質を重視しなさい」


 私は矢継ぎ早に指示を飛ばした。

 3日あれば、死ぬ気でやれば間に合うかもしれない。

 そう、物さえあれば。


 私は頭を抱えた。

 だが、嘆いていても時間は戻らない。

 ないならないなりに、やるしかないのだ。


「……ソルビトール。

 いけそう?」


「はい。

 かろうじて、お客様用ではなく自家消費用として保管していた中級品のシーツと、裏の畑で農民達が試験栽培していたハーブ、それに料理用のワインならば残っております」


「上等よ!」


 私は顔を上げた。

 パルスイート・アスパルテームは、転んでもただでは起きない女だ。

 最高級品がないなら、技術と演出でカバーするまでだ。


「ソルビトール、サラヤとサッカリンに集合掛けて。

 その他、手の空いている者も全員集合で!」


 数分後、庭先に集まった皆に作戦を伝える。


「先日、『エリスリトール・アセスルファム侯爵令嬢』が男爵位を叙爵され独立貴族『エリスリトール・グルコース男爵』となられました。

 今日より三日後、その『グルコース男爵』様が、急遽ピメントを訪問されるとのことです。

 現在、本領主館には男爵様をお迎えするに足る準備が整っておりません。

 そのため、それまでの3日間を三交代勤務にて夜を徹してて準備に掛かります。

 ではこれより、『おもてなし準備作戦』を決行します!

 アスパルテーム家の意地を見せなさい!」


「「イエッサー!!」」


     ◇


 そして、3日目の昼下がり。

 私たちは、疲労困憊の身体に鞭を打ち、ピカピカに磨き上げられた玄関ホールに整列していた。


 馬の嘶き、車輪の響き……。

 遠くから、馬車の走る独特な音が聞こえてくる。


「パルスイートお嬢様へ伝達、見張りからお客様の馬車を視界に捉えたとの報告です」


 ノックされたドアの向こうから、大きめの声で報告が上がる。


「とうとう来たわね……」


 私はドレスの乱れを直し、顔に貼り付けたような「完璧な領主代行の微笑み」を作った。

 心臓が早鐘を打つ。

 粗相はないか…

 いや、やるだけのことはやった、人事は尽くした。

 あとは堂々と天命を待つだけだ。


 現れたのは、2名の騎馬と1台の馬車、そして2台の荷馬車に護衛数名だった。

 以前のエリスとの交流から、公爵家の大名行列が来る可能性も考慮していたが、今回は予想外に小規模だ。

 アセスルファム家の紋章が入った騎士が2名、続く馬車の護衛として先行している。

 その後ろに、落ち着いた色合いの上質な馬車が1台。

 さらに後ろには、冒険者風の護衛たちに守られた、生活物資を積んだ荷馬車が2台ほど続いているだけだ。


 少ない。


 本当に「単身」独立したということか。

 その事実に驚きつつも、私は背筋を伸ばして馬車を迎えた。


 馬車が静かに停止した。

 御台から降りた従者が扉を開け、踏み台を置く。


 そこから現れたのは、長旅の疲れなど微塵も感じさせない、完璧に整えられた銀髪の令嬢だった。

 深紅のドレスは一点の汚れもなく、手には繊細なレースの日傘。

 彼女はまるで王宮のテラスに降り立つように、コンクリートに舗装されたピメントの大地に、優雅な所作で足を下ろした。


「ごきげんよう、パルスイート・アスパルテーム嬢。

 約束通り、参りましたわ」


 扇子で口元を隠し、鈴が転がるような声で微笑む。

 エリスリトール・アセスルファム……いいえ、エリスリトール・グルコース男爵。

 その姿は、かつての儚げな『悪役令嬢』となる予定の少女ではなく、一人の自立した貴族としての『格』を纏っていた。


「ごきげんよう、グルコース男爵様。

 ようこそ、パプリカ領へ。

 このような辺境の町ピメントまでお越し頂きありがとうございます。

 心より歓迎いたします」


 私がスカートの裾をつまみ、臣下としての礼儀を尽くしたカーテシーを披露すると、彼女はパチンと扇子を閉じ、優雅に頷いた。


「お出迎え、感謝しますわ。

 長旅で疲れましたの。

 まずは中へ案内してくださらない?」


「ええ、もちろん。

 どうぞこちらへ」


 私は恭しく手を差し伸べ、彼女を館へと招き入れた。

 私の背後ではエリスの従者たちが荷物を搬入している。

 エリスはそんな彼を一瞥すらせず、当然のように私のエスコートを受けて歩き出した。


     ◇


 通されたのは、領主館で一番格式高い応接室だ。

 重厚な扉が開き、エリスと、護衛の騎士二名が入室する。

 私は対面のソファに腰を下ろすよう促した。


 エリスは部屋の中央まで進むと、くるりと振り返り、付いてきた騎士たちを見据えた。


「貴方たちは別室で休んでいてちょうだい。

 友人でもあるパルスイート嬢とは積もる話もありますの。

 少し外していただきたいのですけれど、よろしくって?」


 その声には、拒絶を許さない威厳があった。

 騎士たちは一瞬顔を見合わせたが、すぐに姿勢を正して敬礼した。


「はっ!

 では、扉の外にて控えております」


「ええ、それで構いませんわ」


 騎士たちが退室し、重厚な扉が音もなく閉まる。

 カチャリ、とノブが戻る音が響いた瞬間。


「ふぅ……。

 パルスさんも、これでやっと一息つけるのではありませんかしら?」


 エリスは大きな溜息とともに、ドサリとソファに身を沈めた。

 先程までの張り詰めた空気が霧散し、いつもの親友の顔に戻っている。


「サンキュー、エリス。

 やっぱ堅苦しいのよね~貴族の挨拶って。

 あの人達ってやっぱ公爵家の人? 席外すように言ってくれて助かるわ~」


 私は苦笑しながら、対面のソファに深く座り直した。

 ドレスのコルセットが少し緩む気がする。


「ええ、お父様が付けてくれた護衛ですのよ。

 優秀ですけれど、四六時中監視されているように感じてしまうのが問題ですわね。

 少し窮屈と感じてしまいますわ」


 エリスは肩を回しながら苦笑する。

 そこへ、お茶の準備を終えたソルビトールが近づき、テーブルにティーカップを置く。

 中には琥珀色ではない、薄い黄金色の液体が湯気を立てている。


 エリスはカップの中身を見て、少しだけ眉を上げた。


「あら……紅茶ではありませんのね?」


「ウチの茶葉なら、チクロが来て全部飲んでったわよ」


 私が即答すると、エリスは目を丸くし、それから「ぷっ」と吹き出した。


「全部……ふふっ、あの方らしいですわね。

 先日うちでも『美味しいお茶が飲みたい』と仰って沢山お飲みになられてましたもの」


「おかげでこっちは在庫ゼロよ。

 ……まあ、でも。

 今飲んでるそれはそれで自信作なんだけどね」


 私が視線で促すと、エリスはカップを手に取り、香りを確かめるように鼻を近づけた。


「……あら。

 これは……柑橘系?

 でも少し違う……爽やかで、とても良い香りですわね」


 彼女はそっと一口含んだ。

 口の中で転がすように味わい、ゆっくりと飲み下す。


「……美味しい。

 酸味と苦み、渋み、甘味のバランスが絶妙ですわ。

 それでいて後味はすっきりしていて、旅の疲れが解れていくようです。

 王都でも味わったことがありませんわ。

 どこのブランドですの?」


「この領地の特産よ!」


 私は胸を張って答える。


 内心では(農民達の誰かが見つけて飲んでた野草なんだけど……エリスがここまで評価するならいけそうね…値段どうしようかな)と電卓弾いていたのだが。


「名前はまだ決めてないけど、ピメントの山奥に自生しているハーブの一種よ。

 リラックス効果と、美肌効果がある……らしいわ」


「まあ、美肌効果!

 それは素敵ですわね。商品化なされば、王都のご婦人方が飛びつきますわよ?」


「ええ、そのつもりよ。

 ……で、商売の話が出たところで。

 そろそろ本題に入りましょうか、グルコース男爵…でいい?」


 私がニヤリと笑うと、エリスもまた、扇子をテーブルに置き、真剣な眼差しに戻った。


「ええ、そうですわね。

 手紙にも書きました通り、私はアセスルファム公爵様から叙爵され男爵位を賜りました。

 家名「グルコース」については家長権で付与いただきましたのよ?」


 彼女は革鞄から二通の手紙を取り出し、テーブルの上に滑らせた。

 一通はアセスルファム公爵家、もう一通はアスパルテーム伯爵家の封蝋だ。


「王家と公爵家を手玉に取って、被害者ポジションを最大限に利用した独立劇。

 見事な手腕ね。

 公爵家の手紙には、貴女の独立とこれまでの非礼への詫び、そして『娘を頼む』という親心が書いてあったわ」


「ふふっ、お父様も甘々ですわね。

 で、もう一通、伯爵様の方は?」


「うちのお父様からの手紙ね……」


 私は嫌な予感を覚えながら、実家の封蝋を割った。


『パルスイートへ。

 元気か? 

 王家および公爵家との協議の結果、パプリカ領の最西端、魔獣の森の一部を分割・割譲し、グルコース男爵領とすることとするとの辞令があってな、公爵様から直々に頭を下げられた。

 断れるわけがないのをわかってくれ。

 父さんも胃が痛い…

 そういうわけだから、エリスリトール様の独立を全力でサポートするように。

 父より

 追伸

 詳細は別紙参照』


「……は?」


 私は思わず素っ頓狂な声を上げた。


 領地の割譲?


 パプリカ領はアスパルテーム伯爵が管理する領地の中でも辺境の飛び地だ。

 それを分割する?

 この『ど田舎』と『ど田舎』を合体させた『ど田舎』の、いったいどこが欲しいと……。


 私は添付されていた地図を広げた。

 赤いインクで囲まれたエリア。

 そこは、二週間前にチクロが魔槍のガス抜きで消し飛ばした、あの『魔獣の森』の跡地周辺だ。


「お父様の手紙には『割譲』って書いてあるけど……。

 エリス、この『魔獣の森』は魔境よ?

 隣国との緩衝地帯で、魔獣がうようよ出る場所なのよ?

 しかも、つい最近チクロが大暴れしたせいで、半分更地になってるし……」


 私が地図上の赤いラインを指差しながら言うと、エリスはニコリと淑女らしく優雅に口角を上げた。


「ええ、勿論知っていますわ。

 チクロさんがお越しになった時にお話を伺いましたもの。

 パルスんとこの『魔獣の森』、ズールティンのガス抜きで『綺麗にならしておいたから、あそこで森に沸く魔獣使ったビジネスやるといいわよ』って」


「……は?」


「まず、直径二キロメートルに渡る平地。

 しかも周辺は高熱で地盤がガラス状に溶解し、固まっているとか。

 つまり、面倒な『伐採』も『整地』も『地盤改良』も不要。

 おまけに雑草も生えてこない、天然の巨大な基礎工事済み物件ですわ」


 エリスは瞳を輝かせながら、熱弁を振るう。

 まるで、最高級の宝石を見つけた時のように。


「これほどの好条件な土地はありませんわ!

 本来なら、鬱蒼とした森を切り拓くだけで数年単位の時間と、莫大な費用がかかります。

 でも、あそこなら。

 明日からでも建物を建てられますし、防壁を作るのも容易です。

 だから私、お父様とアスパルテーム伯爵様にお願いしたんですの。

 『どうせ使い道に困っている土地でしょうから、私が引き取って差し上げますわ』って」


「なっ……!?」


 私は絶句した。

 引き取って差し上げる?

 あの更地を?


 私の脳裏に、先日思い描いた計画が走馬灯のように過る。

 あの巨大な穴を利用した保養施設。

 あるいは、広大な更地を利用した新工場の建設。

 さらには、ガラス状の大地を利用した太陽光発電(魔法的)施設の実験……。

 そして本命の大規模魔獣無限討伐拠点、これに限る。


 チクロがやったスールティンのガス抜き、アレは確かに災害だった。

 だが、冷静になって見れば、あれはチクロがくれた莫大な『開発済み用地』というプレゼントだったのだ。

 私は、事後処理の面倒さと、日々の忙しさに忙殺されて、まだ手を付けていなかった。


 それを、このお嬢様は王都にいながらにして、チクロからの情報が提供されてるやいなや、すぐに根回しを済ませ、正式な書類をもって掠め取っていったのだ。


「魔獣が出る危険地帯を引き受ける殊勝な娘」という皮を被って、最も美味しい部分を!


「……くぅぅ、ズルイ!

 私も狙ってたのに!

 あの更地、どうとでも活用できる優良物件じゃない!」


 私が思わず本音を叫んで地団駄を踏むと、エリスは「あらあら」と余裕の笑みを浮かべた。


「こういった物は取った者勝ちなのですわ、パルス。

 貴女が本当の価値に気が付く前に、私はチクロさんのヒントを得てすぐに手続きを全て済ませましたもの。

 ビジネスの世界では、速度こそが命。

 貴女がいつも言っていたことではありませんか?」


 ぐうの音も出ない。

 まさにその通りだ。

 私は「前世の知識」にあぐらをかいていた。

 だが、彼女はこの世界の「貴族としての知識」と「商才」をフル活用して、私を出し抜いたのだ。


 まさか、商売敵ライバルがこんな身近に、しかも親友という形で現れるとは…

 彼女の淑女の仮面の下にある、計算高い商人の顔がハッキリと見えた。


「……はぁ。

 完敗。

 ま、こればっかりは仕方ないわね。

 こっちがどんなに手を回しても、今回の件については割譲は避けられない。

 そういう根回しだしね」


 私は椅子に深く持たれかかり、天井を仰いだ。

 悔しい。確かに悔しい。

 だが、それ以上に……胸の奥から湧き上がってくるのは、頼もしさと興奮だった。


「でも、まあ。

 エリスだから許すわ!

 チクロでも許すけど。

 他の誰かのだったら、鉄甲イノシシと一緒に猪姫(いのき)の箱に放り込むところよ」


 私が不敵に笑うと、エリスもまた、扇子で口元を隠しながら目を細めた。


「ふふっ、ありがとうパルス。

 それに、私一人ではあそこを開拓できませんもの。

 私にあるのは、男爵位と手切れ金、そしてこの土地の権利だけ。

 見ての通り、人手も資材もありませんの」


 エリスが小首を傾げる。

 その目は、完全に獲物を狙う肉食獣のそれだった。


「まずは整備のため、貴女のところの『コンクリート』をお安く譲っていただけませんこと?

 あと『建設部隊』に『建設機械』……当然、お安く貸してくださいますわよね?」


 彼女は分かっているのだ。

 私が開発した技術がなければ、あの土地を活かしきれないことを。

 そして、私が『金』になびく女だということを。


「……そこはビジネスの話よね?

 男爵様」


 私は姿勢を正し、商人の顔になった。

 ここからは友情ではない。領益と領益のぶつかり合いだ。


「資材の提供、技術協力、建設部隊に建機の派遣。

 全て承るわ。

 ただし、代金はきっちり頂く。

 お友達価格で定価の二割引き!

 これで手を打ちましょう」


「お友達価格なら四割りは引くものではないかしら?

 ワタクシ、親友ですものね?

 でしたら半額、五割引きでお願いいたしますわ」


「駄目に決まってるでしょ!?

 本当は値引きしないんだから…

 お友達で二割、親友なら三割!

 これ以上は譲れないわよ!

 コンクリートの原材料費だってタダじゃないんだから!」


「四割! あと、美味しいお茶菓子もつけますわよ!」


 私たちは視線を交錯させ、バチバチと火花を散らしながら笑い合った。


「……わかった。

 四割引きで手を打つわ。

 お菓子は要らないけど書面にしておいてね」


「わかりましたわ。

 では」


 交渉成立。


 互いに手を差し出し、固い握手を交わす。


 こうして、パプリカ領の西端に、愛すべき隣人が住み着くことになった。


 窓の外を見ると、夕日が沈みかけている。


 残すは夜のお持て成しを残すのみ。

 これさえ凌げば、なんとか接待は乗り切れそうだ。


「ソルビトール、晩餐の準備は?」


「抜かりありません。

 熟成イノシシ肉のロースト、ソースは特産ハーブ仕立て。

 ワインも空気を含ませ、最高の状態になっております」


「よし。

 じゃあ男爵様をお呼びして、宴の始まりよ!」


 私は高らかに宣言した。

 新たな隣人との楽しい生活と、これからの商売繁盛を願って。

※2026/03/12

 微修正

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