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第043話「番外編『ギルド職員さんは元聖女』:依頼完遂!冒険?作業?」


 紆余曲折を経て、私は晴れてD級冒険者となった。

 だが、ギルド職員を辞めたわけではない。


「二足のわらじ」という名の、実質的な労働時間の倍増である。


 そんな私の冒険者としての初仕事は、トレハの手伝いから始まった。


「グレースっち…ごめん!

 これお願いしたいっす!」


 トレハがドサッとデスクに置いたのは分厚い紙の束。

 そこには『未達成』『期限切れ間近』『放置案件』といった不名誉なスタンプが見える。


「これは?」


「ギルドの不良債権……じゃなくて、みんなが敬遠して残っちゃってる『滞留依頼』っす!

 新人の仕事といえば、まずはコレの処理っすよ!」


 要するに、他人の尻拭いである。

 まあ、地道な作業は嫌いではないけど、量多すぎない?


          ◇


 かくして、私たちの『冒険』が始まった。

 いや、これを冒険と呼んでいいのかは甚だ疑問だが。


「迷い猫の捜索依頼っす!」

「特徴は?」

「雄の白猫8歳で右目が黒いブチだそうっす。」 


 …30分後


「確保」


「はやっ!

 まだ30分っすよ!?」


 屋根に登り、視力を強化し特徴的なブチの白猫を発見。

 身体強化で距離を詰め、逃げる間を与えず首根っこを優しく捕まえる。

 はい、終了って感じ。


「次は隣町の婆ちゃんへの届け物っす!」


「荷物は?」

「これっす!」


 トレハが荷物をひょいと持ち上げ、こちらにみせる。


「じゃ、行くわよ」


 パッと荷物を引き取ると、猛ダッシュで飛び出していく。


「待って、依頼遂行は2マンセル!ペア必須っすよ~~~!」


 先行する銀髪お団子、後を追う深緑サイドポニー。

 馬車を追い抜いて走り去っていく二人の少女を、馬車の御者が二度見していた。


 …1時間後。


 無事にお届け完了。


「次は用水路のドブ浚いっすね!

 単純に詰まってるゴミを取るっす!」


「任せて!」


 スコップようなものを使い、地道にゴミを取り除く。

 

「ちょっ!?

 なんでこれだけ普通なんすか!

 もっとバァッっとかバシャーンとかやるんじゃないんすか!?」


「だって、泥跳ねたら汚いじゃない…」


 ちょっと油断したら、跳ねた泥がトレハに飛んで滅茶苦茶怒られた。


 ごめん!

 終了で。


 それにしても……なんだろう。

 私の想像していた冒険者ライフは、未知のダンジョンに潜ったり、ドラゴンと戦ったりするものだった。


 現実は、ただの高スペックな便利屋でしかない訳なのだが…


「グレースっち、次っす!

 農家さんからの依頼で、畑の害獣駆除っすね」


 街外れの畑に到着すると、そこはボコボコと土が盛り上がり、無惨に荒らされていた。

 犯人は『ジャイアント・モール(巨大モグラ)』と『アイアン・ワーム(鉄ミミズ)』だ。


「よし、殲滅依頼ね!」


 私が拳を鳴らして地面を殴りつけようとすると、トレハが慌てて止めた。


「ストーップっす!

 全滅させちゃダメっす!」


「え?

 駆除でしょ?」


「春先は仕方ないんすけど、こいつら完全にいなくなると土が固くなっちゃうんすよ。

 適度に土を耕してくれる益獣でもあるんで、あくまで『減らす』のが目的なんす。

 加減が大事っすね~」


「……農業、深いな」


 結局、私たちはモグラ叩きのように頭を出した個体だけをデコピンで気絶させ、間引いていく地道な作業に従事した。

 生態系への配慮。SDGsである。


     ◇


 日が傾きかけた頃。

 最後の一枚をめくり、私は眉をひそめた。


「えーと……『旧街道の廃墟を占拠した集団の排除』?」


「ああ、そこっすか。

 最近、質の悪い連中が住み着いて、街道を通る商人を脅してるらしいっす」


 現場に行ってみると、崩れかけた監視塔のような廃墟に、薄汚い男たちがたむろしていた。

 武器をちらつかせ、酒を飲んで騒いでいる。


「……なるほど」


 私はポキポキと指を鳴らした。


「また『駆除』か……。

 今度こそ『殲滅』でいいんだよね?」


「グレースっち!

 殲滅しちゃ駄目っす!」


「え?

 また間引き!?」


「そうじゃないっす、人は駆除しちゃ駄目っすよ!

 アタシたちが憲兵にドナドナされちゃうっす!」


 トレハが真っ青になって私の袖を掴む。


「モグラやミミズみたいに『間引き』とかも考えちゃダメっすよ!

 あくまで退去させるのが仕事っすから!」


「わかってるわよ。

 要は、ここからいなくなればいいんでしょ?」


「言い方が不穏っす!

 肉片にするような物言いはダメっす!

 穏便な方で! お願いだから穏便な方で頼むっすよ……!」


 私はため息をつき、廃墟の入り口へと歩み寄った。

 男たちが私に気づき、ニヤニヤしながら近寄ってくる。


「あ?

 なんだ嬢ちゃん、迷子かぁ?」


「ここから先は俺たちのナワバリだぜぇ?

 怪我したくなきゃ……」


 男の中でも特に強面の一人が、肩に大剣を担いだまま、馴れ馴れしく私の肩に手を伸ばしてきた。


「あ、触らないでください」


 私は反射的にその手を躱すと同時に男の足を払う。

 進行方向にある小石を横に蹴り払う程度の、ごく軽い動作で。


 バシィィッ!


 蹴り飛ばされた良い音とともに、男の体が風車の羽根のごとく回転して宙にまう。

 持っていた大剣は危ないので右手でキャッチ。

 その間に男は慣性にしたがって落下するも、回転の勢いが殺せず足元の床をゴロゴロと転がっていく。


「こんな鈍らの剣、使うと危ないですよ?

 こちらで処分しておきますね」


 バキッ、バキバキッ!!


 身体強化を発動し、手に持った大剣を焼き菓子のように手折って小さくしていく。


「「「ヒィッ!?」」」


 残った男たちが引きつった悲鳴を上げた。


「あっ、ごめんなさい!

 これ、壊しちゃったけど、大丈夫ですか?

 こういう作りの悪い品をみると許せなくって…」


 私は口元に手を当てて、可愛らしく謝罪した。


「ひぃぃぃ!

 すみませんでしたぁぁ!」


 男たちは転がっている仲間を引きずって、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

 逃げ足の速さも三流だ。


「……ふぅ。

 ほらトレハ、穏便に終わったわよ。

 誰も大怪我してないし」


「……グレースっち。

 いつの間にゴリラになったんすか……」


 トレハが遠い目をしている。

 失礼な。

 これでも可憐な美少女職員のつもりなのだが?


 こうして、私の冒険者としての初日は平穏無事に幕を閉じた。


「……帰って伝票整理しなきゃ」


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