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第022話「合流報告!魚頭?剪定?」


 目的の「武力保険」として、当初の剣王ソーマチンではなく、そのソーマチンを倒したサッカリンを確保(雇用)し、無事に宿場町の広場へと戻ってきた。


 そこで、別行動をとっていたソルビットとステビアに合流。


 私の予想では、ソルビットはパイ上の魚頭に食欲を奪われ、青い顔で胃を押さえているはずだったのだが……


「お嬢様! お帰りなさいませ。

 お待ちしておりました!」


 ソルビットは満面の笑みで私を出迎えた。

 顔色は薔薇色。

 口元には食べカスすらついていないが、その表情は幸福そのものだ。

 隣にいるステビアも、ニコニコとご満悦な様子だ。


「お嬢様! レシピ、概ね再現できそうです!」


「……あ、そう。

 というかソルビット、アンタ大丈夫なの?

 食べたんでしょう? あのパイ」


「はい!

 いただきました!

 いやあ、素晴らしいお味でした。

 見た目も愛らしく、甘さも控えめで……」


「見た目が愛らしい……?」


 私が首を傾げると、ステビアが興奮気味に説明してくれた。


「はい! 土台はサックサクの四角いパイで、中にはほぐした川魚の身と根菜が、とろっとしたチーズ入りのホワイトソースで煮込まれているんです。

 魚の臭みなんて全然なくて、少しスパイシーな香りが食欲をそそるんですよ~」


「ほう、本格的な惣菜パイじゃない」


「でも、すごいのはそこからです!

 その上に、甘さ控えめの特製クリームが詰まった『魚の頭の形をした別のパイ』が6個、まるで星空を見上げるようにちょこんと突き刺さってて!

 仕上げにたっぷりバターを塗って、大粒のザラメを振って焼き上げているので、表面はキラキラしててカリッカリなんです!」


「……なるほど?」


「熱々のホワイトソースの塩気と、ザラメとクリームの優しい甘さ。

 それをバターの香りがまとめていて……その『甘じょっぱい』バランスがもう、最高でした~!」


「……へぇ」


 なるほど。

 私が想像していた、本物のニシンの頭が突き刺さっている狂気の料理そのものではなく、形状だけを模した創作料理だったらしい。

 塩気のあるパイと、クリーム入りのパイ。

 パイ生地にバターにザラメ。

 甘じょっぱい組み合わせなら、確かに美味しそうだ。


(……流石に本物の魚の頭は使ってなかったようね。

 残念)


 少しだけ期待していたグロテスク要素がなくて、私はほんのり落胆した。


 ステビアがこっそりと私に耳打ちする。


「ソルビット様、甘いものもお好きみたいで、食の好みが合うみたいです~」


「……そう、よかったわね」


 私は生温かい目で二人を見た。


(なんだ、追加で食べたのはただの甘いパイっぽいわね。

 パイだけに乙なほうで乳くりあってなくて良かったわ。

 って……よくよく考えたら、二人とも育ちの良い坊ちゃん嬢ちゃんじゃない。

 昼日中から情事に走るような育ちじゃないわよね。

 下世話が過ぎたわ……)


 自分の心が汚れていることを少しだけ自覚し、私は咳払いをして話題を変えた。


「さて、こちらも『用事』は済んだわ。

 帰りましょうか」


「はっ。

 馬車を回させます。

 ……おや? お嬢様」


 ソルビットが、私の背後に立っている大男の存在に気づいた。

 血まみれの服こそ何とかしてもらったが、隠しきれない凶悪なオーラを放つ男、サッカリンだ。


「そちらの、いかにも柄の悪そうな男は……?」


「ああ、紹介するわ。

 新しい庭師のサッカリンよ」


「は? 庭師?」


 ソルビットが眼鏡をズレさせた。


「彼が? 庭師……ですか?

 どう見ても堅気ではありませんよね!?

 どういう経緯でそうなったのですか??」


「拾ってきたんだけど?」


 驚きながらも冷静に質問するソルビットに対し、説明が面倒臭いので適当に返す。


「拾って……って猫でも犬でもそれはダメです!

 ましてや人で、そのような身元の知れない者を屋敷に入れるなど、執事長として許可できません!」


 ソルビットが珍しく声を荒らげて私の前に立ちはだかる。

 職務への責任感か、あるいはステビアへの愛で勇気が湧いているのか。

 すると、見かねたサッカリンが面倒くさそうに頭を掻く。


「眼鏡の兄ちゃん、ちょっといいか?」


「ひぃっ!?」


 サッカリンがギロリと睨んだだけで、ソルビットは小さく悲鳴を上げて後ずさった。

 やはりヘタレだ。


「何もやってねぇだろ。

 ビビんなよ。

 ……まあ、アンタの言う事はもっともだ。

 俺も見た目こんなのだから、仕方ねぇとは思ってるけどよ」


 サッカリンは意外にも理性的だった。

 暴力で解決しようとせず、淡々と言葉を続ける。


「とは言え、雇われてる側が、雇用主の決めたことを頭ごなしに駄目ってのはいただけねぇよな。

 ちゃんと調べて検討してみてくれよ。

 傭兵ギルドなり冒険者ギルドなりに『サッカリン』と聞いて貰えば、ある程度しっかりした身元は出して貰えはするから。

 ま、そんなに心配すんなって」


「そ、そうよ?

 駄目って言っても雇うわよ?

 ね、ステビア」


 私はステビアに話を振る。


「そうですよソルビット様。頭ごなしなんて駄目ですよ。

 この方、お話してみると意外と良い方みたいですし」


「た、たた確かにそうですよね!

 屋敷に戻ったら調査だけはさせてください。

 こればかりは仕事なので……勿論善処しますよステビアさん!」


 手のひら返しが早い。

 ステビアの一言ですべてのセキュリティが解除される執事長、大丈夫なのだろうか。


(ソルビット、アンタの雇い主はウチの家(私)だからね?)


          ◇


 帰りの道中。

 少し休憩をとるために、街道沿いで馬車を止めた時のことだ。


 サッカリンは「馬車みたいな箱に入ると酔う」と言って、帰りは御者台の横に座っていた。

 私は外の空気を吸いに馬車を降り、彼らの様子を見ていた。


「わりいな兄ちゃん、狭くねぇか?」


 サッカリンが、御者兼護衛の兵士に話しかけている。

 兵士は引きつった笑いを返しながらも、恐縮しているようだ。


「い、いえ! 大丈夫です!」


 サッカリンが太い手を差し出す。


「よろしくな。俺はサッカリンだ」


「は、はあ……」


 兵士がおずおずと手を出し、握手をする。

 すると、サッカリンの目が少しだけ真面目なものに変わった。


「……アンタ、結構鍛えてるな。剣の筋は良さそうだ」


「えっ?」


「手でわかる。

 ただ、少し体のバランスが悪いな。右足の重心が甘い。

 今度見てやるよ」


「あ、ありがとうございます……!」


 兵士の顔から警戒心が消え、尊敬の念が浮かぶ。

 どうやらサッカリンは、荒くれ者に見えて、意外と面倒見の良い兄貴肌らしい。


 その様子を見ていたサラヤ(彼女も帰りの足として同乗している)に、サッカリンが視線を向けた。


「……なんだ?

 アンタの方がお嬢の用心棒か?」


 藪から棒に聞かれ、私は横から口を挟んだ。


「なんでそう思うの?」


「いや、所作が堅気じゃないだろ。

 歩き方、気配の消し方。

 こいつ(兵士)よりよっぽど手練れだ。スカウトか?」


 流石は元・中ボスクラス。

 腐っても暗部の人間であるサラヤの実力を、一目で見抜いたようだ。


「違うわよ。

 コイツは金でしか動かないドケチ情報屋よ。裏の方のね。

 今回のソーマチン探しの報酬貰ったら、自分のところに帰るわ」


 私の説明に、サラヤが「え?」という顔をしてこちらを見た。


「お嬢様、私、クビですか?」


「何言ってんの、アンタ。

 そもそも依頼しただけで雇用関係結んでないわよ」


「……確かにそうでした。

 てっきりクビになったのかと……」


「なるクビがないわよ」


 サラヤは残念そうに肩を落とした。

 どうやら、居心地の良い(お菓子が出る)タダ飯スポットを失うのが惜しいらしい。

 まあ、今後も情報は買いつづけるつもりだから、腐れ縁にはなるだろうけれど。


          ◇


 数日後、私たちは無事にアスパムテール領本邸へと帰還した。


 屋敷の訓練場では、早速サッカリンの「実力テスト」が行われていた。

 テストと言っても、庭師としてではなく、護衛としての腕前を見るものだ。


「……参りました!」


 ガキン、と剣が弾かれる音が響く。

 屋敷の護衛兵数人がかりで挑んだ模擬戦だったが、サッカリンは息一つ乱さず、全員を地面に転がしていた。

 圧倒的だ。


「ふぅ……。

 思ったより鍛えてあるな、ここの護衛は」


 サッカリンが感心したように言う。

 その様子を見ていたソルビットが、悔しそうに、しかし納得したように頷いた。


「……父、ソルビトールが指南しておりましたので」


「なるほどな。

 だがそのなんだ、ソルビトールって人が抜けて、今は指導者がいねぇって感じか」


「……お恥ずかしながら。

 私も剣術にはそこそこ自信があるのですが、彼らを教えられる程の腕とは思っておりません。

 今後、訓練のための教官は外部から雇おうと思っていたところです」


 ソルビットが正直に打ち明ける。

 執事としての能力は高いが、武芸の指導までは手が回らないようだ。


 私はパンと手を叩いた。


「じゃあサッカリン、アンタ兼務しなさい」


「あん?」


「庭師と兼務で、この護衛たちの『特別教官』もやるのよ」


「おいおい、働かせすぎじゃねぇか?

 俺は庭師に応募したんだぞ」


「両方給料でるわよ?

 教官手当、弾むわ」


 私が指を二本立てて見せると、サッカリンはニヤリと笑った。


「悪くねぇな!

 じゃ頼むわ」


 交渉成立だ。

 これで我が家の防衛力は格段に跳ね上がった。


 その後。

 サッカリンは、屋敷に古くからいる庭師の爺さんに弟子入りした。

 あの巨体で、凶悪な顔面で、小さな園芸バサミを持って、爺さんの後ろをついて回る姿はシュールの一言に尽きる。


「ここはこうじゃ」


「こうか? ……む、意外と難しいな」


 サッカリンは変に気張ることもなく、淡々と教えられた通りに、パチン、パチンと丁寧に生垣を剪定していく。

 その顔は、戦場で見せた虚無感とは違い、どこか穏やかだった。


「筋がいいのう。

 アンタ、庭師の才能あるよ」


 爺さんに褒められ、サッカリンは満更でもなさそうに鼻の下を擦った。


「へへ、そうか?

 こういうのも悪くねぇな……」


 平和だ。

 最強の庭師兼、護衛教官の誕生である。

 見た目は怖いが、どうやら彼はこの屋敷に、意外とすんなりと馴染んでくれそうだ。


 ソーマチンには悪いが雇えたのがサッカリンで結果オーライ、剣王よ安らかに眠れ。

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