ベテラン冒険者は若者についていけない~捕獲方法についていけない~
街から少し離れた草原。
のどかな草原にも、モンスターは生息している。
そして、意気揚々と歩くベテラン冒険者と初心者の一行がいた。
「今日受けてもらったクエストは、モンスターの生態調査だ」
「生態調査ですか?」
「そうだ。この辺りの生態系を定期的に知っておくことで、起こりうる危機を未然に防ぐことができる。そのための調査だ」
「わかりました。具体的に何をするんですか?」
「まずはここ一帯に生息している小型モンスターを捕獲してもらう。捕獲方法については、知っているか?」
「はい!捕獲用ボールで捕まえます!」
「その通り。それじゃあ、実際に捕まえてこい」
「わかりました!まず荷物を取りに行ってきます!」
そう言って駆け出していく初心者を見送るベテラン冒険者。
すると、どこからか目的の小型モンスターがベテラン冒険者の30m先にやってきた。
タイミングが悪いなぁと思っていると、そこに近づいていく謎の影が一つ。
よく見ると、自分の身長と同じくらいのカバンを背負った初心者である。
そろり、そろりと近づいていく。
まだ気付かれていない。
そして、近くにあった草むらに身を隠し、ボールを取り出す。
「あー、やりがちだよな。戦って弱らせなくても、取り敢えず投げたら捕まるだろうって」
もちろん可能性はゼロではないが、結果的にボールを幾つも使わないといけない。そのため、コストがかかりすぎる。
結果的に、弱らせてから捕まえた方がコスパがいいのだ。
「まあ、何事も経験だよな…ん?」
なんか慌ただしく動いているように見える。
目を凝らし、よく見てみる。
そこには、ひたすらにボールを投げ続ける初心者の姿があった。
最初、小型モンスターにバレない位置からボールを投げ、捕まえれなかったらボールから出てくる瞬間に、またボールに当たるように投げる。
これをひたすらに繰り返している。
目の前で起きていることが理解できないまま、ただその様子を見ていることしかできなかった。
そしてようやく捕まえたのか、満足したように戻ってくる初心者。
後ろには、ボールの残骸が転がっている。
「やっと捕まえました!」
「ああ、よくやった。だが…」
ベテラン冒険者は、初心者の後ろに目線を送る。
「流石に使いすぎじゃないか?あれは」
「?」
初心者は振り返ったが、何が悪いのかわかっていない。
「無駄遣いは良くないな。最初に弱らせれば、節約できる上、あれだけあれば、よりグレードの高いボールが買えるだろうから、そっちを使ったほうがいいぞ」
「いえ、そんなつもりはなかったんです。だって…」
「だって?」
「最近できた仕事で、結構話題になっていたので知っていると思ったのですが、ボールを回収する仕事をクエストで受けれるようになったんです」
「はい?」
「なので、ボールをたくさん使っても一部は自分のところに返ってくるので、無駄にはなっていません。さらにボールを使う時は、ボール回収クエストも受注しておけば、一石二鳥です」
「いや、それマッチポンプやんけ…」
「あとグレードの高いボールを使うのは、マナー違反と冒険者学校で学びました。それではボール回収に行ってきます!」
そうして飛び出していくのを何も言えずにただ見送るマナー違反な冒険者。
「ちょっと…ついていけないかもしれん」
*
「それで、ボールは集め終わったか?」
自分の背丈ほどあるカバンをパンパンにした初心者冒険者を見ながら、ベテラン冒険者は聞いた。
「おかげさまで、使ったボールの半分くらいは回収できました!」
「じゃあ、次は大型モンスターの捕獲方法についてだ」
「大型モンスター?ボールじゃダメなんですか?」
「そうだ。ボールだと、モンスターが大きすぎて入らないんだ。そこでこいつを使う」
ベテラン冒険者は、カバンの中から何かを取り出す。
「なんですか?それ?」
「大型モンスター捕獲用トラップと言われている、いわゆる落とし穴だ」
「これがですか?」
「そうだ。捕獲方法は、まず弱らせる。そして、十分にモンスターが弱ったと思ったら、こいつを地面にセットする」
ベテラン冒険者の説明などお構いなしに、トラップを弄る初心者。
「モンスターの攻撃パターンや進路を予測してセットするか、もしくは寝床に行かせ、寝ているモンスターの下にセットし、罠にかけるかが上手くいくコツだ」
すると、話を無視してトラップを弄っていた初心者は、突然その場にトラップを仕掛け始めた。
「おい、何をしている!」
慌てて止めに入るベテラン冒険者。
「え?あっ、ちょっと試しにやってみたくて…」
「だからといって、話の途中で設置するんじゃない」
「すいません。でも…」
「でも?」
「さっきボールの回収ついでに大型モンスターが居たので、弱らせておいたんです。もしかしたらそいつがここにくるかなって…」
サラッとよく意味のわからないことを口にしたので、唖然とするベテラン。
「そう…か…、まあいい。それより1点注意しなければならないことがある」
「? なんですか?」
「それは、このトラップは一度設置すると、回収できないということだ」
「そうなんですか?」
「ああそうだ。だからカバンの中には、トラップを入る分だけ入れる。さらに足りなくなった時のことを考え、トラップの材料も入れておき、現場で作ることも重要になる」
「え?そうだったんですか?」
「だからさっきみたいに、カバンの中をボールでいっぱいにするのは良くないということが分かったな」
「はぁ、…あ!」
急に指をさしながら声を上げる初心者。
指し示す方向には、先ほど言っていたであろう大型モンスターが歩いている。
「さっきのやつです!私が弱らせた…」
「あれか…、ちょうどいいな。こっちには来そうにないが、試しに捕獲してみよう。ただ、君はもうトラップを持っていないだろうから、この材料でトラップを作りなさい」
そう言って材料を渡そうとするベテラン。
が、あのモンスターを見た初心者はその場にしゃがみ込み、先ほど設置してしまったトラップをいじり始めた。
「何を…しているんだ?ほら材料を受けとれ」
「いえ、大丈夫です」
何か作業を終えたのか、顔を上げる初心者。
その瞬間、足元にあったトラップはスルスルっと元の状態に戻っていく。
「はい?」
「最近のトラップは回収可能だと冒険者学校で学びました。数年前に変わったそうです。それでは、捕獲しにいってきます!」
そう言って駆け出していく初心者。
それをただ呆然と目で追うしかなかったベテラン冒険者。
「えぇ…、ついていけないかもしれない…」
ついていけないながらも、なんとかクエストは完了したのは言うまでもない。




