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第七話 午後の部 探索

「今日で二週間、お前はこの二週間でこの世界に十分に適応し、武人として成長した。故に、今のお前がどのくらいの実力なのか知りたい。本気で俺を殺す気でかかってこい」


 「はぁ……?」


 「む? なにか引っ掛かるところがあったか? 簡単だ、殺す気でかかってくれば良い」


 朝一番、飯を食べてからいつもの練習場へと向かった直後にそう言われた。


 もう二週間か……。途中から期間を測ってなかったな。早いな、もうそんな時間が経過したのか。毎日同じ仕事(タスク)をこなしているかのようで、一日が終わるのが早かった。


 「別に卑怯なことでも良い、周囲の状況を利用しても戦っても良い。実際の戦闘になるべく近づける」


 そういうと師匠は木剣を投げてきた。どうやらまだ真剣は使わせてもらえないらしい。もう、早速開始するらしい。


 だが、これはあくまで俺の実力を図るためのテストのようなものにすぎないが、やるならガチだ。俺は本当に師匠を殺す気でかかるつもりだ。


 体格に言い訳をするつもりも、経験にも言い訳をして事前に保険をかけるつもりは全くない。今の自分の全てを師匠にぶつけ、一撃でもいれること。それがとりあえずの目標といったところか。


 俺は手に握られているブラウン色の木剣を見つめる。もう握り慣れた物だ。


 一方の師匠は構えずリラックスしている。黒髪が風になびかれ、太陽光に照らされた銀色に縁取られ、龍がデザインされたコートが彼の強者感を増強させる。


 「いいぞ、いつでも」


 俺は少しの間、頭の中で考える。ただ学んだことをぶつけるだけでは意味がない状況や場面に応じて技を使うべきだ。



 

 だが、どうせ今更だ。ここで考えていても常に思考を飛ばしながら最適解を選択するのは不可能だ。反射的に技がでるに決まってる。


 俺は覚悟を決めて右手の木剣を握りしめ、左手へ魔力を送り込み土の塊を作り出す。ここ最近覚えたばかりの五大元素の土の中でも簡単な魔法だ。


 「土石(アースラック)


 だが、ただの石ころではない。俺はその石の一部分を尖らせ刺さるようにアレンジした。


 俺はそれを指に装填するとデコピンのように弾きながら、魔力で身体を覆いながら突っ込んだ。


 その飛礫は空気を割きながら猛スピードで飛び、師匠へと迫る。しかし、それはやはり外れた。


 首を横へずらすだけで簡単に避けられた。それでも俺は目の前の標的に向かって距離を縮めていく。


 「来い!」


 師匠は足を止めて応戦する構えを取り出した。だが、俺の今回のもう一つの作戦は相手の意に反して戦うことと決めている。


 師匠は足をとめて乱撃に立ち向かう意思を見せている。俺はそれを無視して左足を跳ね上げる。いつのまにか互いの距離はもうかなりの距離まで迫ってきていた。


 俺の左足はもちろんのこと師匠の顔に届くことはなく、横腹あたりが限界だった。


 その時俺のつま先から、銀色の煌めく何かが突出する。俺は以前師匠に体のどこかに武器を入れておいた方が良いと言われていた。それから俺は毎日体のどこかに武器を隠し持っていた。だが、俺は稽古中に使うことはなかったため、師匠はきっと俺が武器を入れていると思ってはいないだろう。しかし、師匠はそれを化け物のような動体視力で身体を捻り避け出した。


 その反応があまりにも早く、俺の隠し武器は簡単に避けられてしまった。


 だが、俺はもとより攻撃が当たらないことを前提にしている。


 師匠が身を捻るその一瞬のうちに魔力を足へ移動させ俺は天高く飛び上がっていた。そこから師匠の脳天目掛けて振り下ろす計画だった。


 師匠は一瞬俺を見失ったものの空から急降下してくる俺をノールックで感じとったようで、前方へと回避した。


 ドォォォン!!


 時間差で俺が着地する。


 俺は膝を上げ、師匠と対面する。未だ師匠には怪我を負った形跡は一つもなく先ほどと同様に無表情を決めて強者の余裕を見せていた。


 「最初に言ったな、実践に近づけると」


 そういうと地面を見ている師匠の右手から煙が立ち上がった。それは煙のように息苦しさを感じることはなく、黒煙でもない。ただ、霞のように周囲の視界を悪くしていく。そこには煙の要素は感じられなかった。


 「俺の知らない魔法……!」


 超一流の戦闘者が使う魔法のスケールはものが違う。現に数秒前に発生させたばかりのミストはもう周囲を完璧に覆い尽くし、視界が悪くなっていた。


 それに紛れ師匠は忽然と姿を消した。殺気も何も感じ取ることができない。


 どこからともなく低い声が聞こえてくる。


 「打破してみろ」


 師匠がそう言うからには俺には打破できる術があるということ。俺はその場に留まり改善策を考える。


 (霞のせいで視界が悪い、風か水で飛ばせば良、っ!)


 

 刹那


 

 死の突きが俺の心臓目掛けて飛んできた。その突きは神速の如く、素早く俺は完璧に交わすことができず、避ける際に服を破られ、皮膚を掠められた。


 深く切られた訳では無いが、そもそもの話これは木剣だ。

人の服を破り出血させることはできない。しかし、俺の師匠はそれすらも可能にしてしまう。


 「まじか……!」


 俺は避ける時に大きく態勢を崩していたためその場に倒れ込むようになっていた。


 だが、これで終わる人ではない。次があるはずだ。俺はそう考えすぐさま態勢を戻そうと起き上がろうとする。


 そして案の定ある音が入ってくる。


 ザザザ!!


 土を払い、草をも薙ぎ倒す勢いの足が少しずつ現れる。俺は避けようとするも、霞のせいで認知が遅れた。それにより、俺はそれをモロに喰らってしまった。


 鋭い足が足に深々と刺さる。


 突如襲ってきたのは凄まじい激痛と吐き気。胃を蹴り上げられ、胃酸が逆流する寸前だった。


 後方へと飛ばされながらも俺は右手にもつ木剣に左手を添えて風を宿す。


 俺は立ち上がり、剣を上段に構える。そして、霞を切り分けながらも突き進んでくるものがある。


 「戟刃公 月廉巻き(げつれんまき)


 月を描くように剣を捻りながら対象を切り裂く技だ。だが、今木剣には風が巻き付いており、目の前には師匠がいる。つまり、霞を撒き散らすことと攻撃するのを同時にこなすことができる。


 「ガァァァァ!!」


 俺は雄叫びを上げながら十分に振り下ろした。師匠はいつの間にか消えていた。

 それが地面につくと同時に俺たちを包んでいた霞が消えていき、視界がクリアになっていった。


 「フフフ、良いぞ。もっと見せてみろ」


 クリアになったばかりの視界の大部分を師匠が占めていた。なんとミストが消え失せると同時に突っ込んできていたのだ。


 木剣が斜め上から、迫る。それは頭から肩にかけて狙い放たれていた。


 「堅月公 撃極壁(げききょくへき)


 俺は両手で木剣を力いっぱい握ると身体を大きく捻り、迫りくる木剣を弾き飛ばそうと狙った。


 それは見事命中し、木剣どうしがギシギシと悲鳴を上げながら至近距離で師匠と対面していた。


 木剣どうしの鍔迫り合いが始まる。もちろんのこと体格差により俺が下、師匠が上だ。体重が乗せられみるみるうちに追い込まれていく。


 ゆっくりとだが確実に追い込まれていき、いつの間にか自分の木剣が体に触れ、あと少しでも押し込まれたら吹き飛ばされるところまで迫っていた。


 「雷撃風(らいげきふう)


 雷と風の混合魔術だ。難易度にして俺的に中級くらいだ。俺はそれを手に纏わせる。手にはビリビリと麻痺したかのような感覚に襲われて、その中に涼しげな風を感じる。


 俺はそれを至近距離にある師匠の腹目掛けて放出する。


 ほとんどゼロ距離。避け切ることができないはずだったが、師匠は木剣を持っていない手の肘でなんとそれを受けると混合魔法は消え失せていった。


 さらに俺は追い込まれる。師匠の鋭い眼差しが俺に直接(ダイレクト)に入ってくる。


 だが、これも想定済みだ。俺はフッと師匠の額目掛けて息を吐いた。ただ息を吐いた訳ではない、俺は開戦前から土石(アースラック)を口に含んでいた。


 先ほどよりも距離が近くなった状況での攻撃。


 「む……!」


 そのときようやく師匠の表情が崩され険しい顔つきになった。


 俺が放った飛礫はまともにヒットすることはなかった。師匠は最初と同様、首を横へ避けることでその攻撃を避けていた。


 だが、先ほどと違うことがある。


 スーッと赤い血液が師匠の頬に現れていた。なんと先ほどの攻撃を完璧に交わし切ることができていなかったのだ。


 「……!」


 師匠もそれを理解していたのか、押し込まれていた木剣が鳴らすギシギシとした音は止み、師匠はゆっくりと離れていった。


 その瞬間俺の身体の緊張は解け、ドッと汗が流れた。


 「終了だ」


 その一言で俺は「はぁ」と息を吐く。時間にしてわずか30分くらいだが、過度の緊張、全身の運動、など多くの要因が重なり俺の体はドッと疲れた。俺はその場で仰向けに倒れ込んだ。


 「良かったぞ、だが少し珍しい戦い方だったな。お前の世界では一般的なのか?」


 「いえ、俺が考えたものです……」


 「ほう、なるほど。珍しいゆえ、この世界の戦闘者の多くは不慣れで対応しづらいと思うぞ。そのような戦い方は今後も続けると良い」


 「はい……分かりました」


 そういうと師匠はその場を後にした……はずなのだが、何かを思い出したかのように師匠は後戻りしてきた。毎回何か忘れているな、この人。


 「午後は街へと行くぞ、お前はまだこの村を出ていないだろう」


 そういうと再び後にした。


 「……確かに、村の外は知らないな」


 そう思うとこの戦いで感じた疲労がぶっ飛んだ気がした。俺は跳ね起きると、ルンルンになった。


 村の外に出れるのか、あぁー! 楽しみだ!


 俺は家へと入り、自室へと入る。


 「……とりあえず、今までの技術について良い評価をもらうことができたのかな」


 ていうか……稽古仲間がほしいな。師匠に相談しようかな。でも、一対一で教えてもらうことができるのはすっげぇでかいメリットだが、それを捨てることが少し勿体無いかなぁ……。


 「まぁいいや、とりあえず寝よう」


 俺はそのままベッドに倒れ込むと、一瞬で意識を失った。二週間の成果は如実に現れていた。


 俺はもっと強くなる。ヘルデンの名前に恥じない人生を歩むことができるよう生きていく。そのためならばどんな苦境も乗り越えてみせる。


 

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