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第五話 名前と弟子の誕生

今日も稽古をやり尽くした。日に日に難易度が上昇していくことに焦りを覚えているがなんとか食らいついている。


 ベッドの上で俺は今日も言語の学習を始める。ここ最近は身体を激しく動かすことが多くなっているから、ベッドを見ると反射的に眠くなる。


 「ふぁーzZZ、眠いなぁ、少しだけやるか」


 言語を勉強する上で大切なことは毎日コツコツと取り組むこと。毎日やることがとても大切だ。英語の先生もそう言ってた。


 「……元気にしてるかな」


 もうこの世界にきて一週間くらい経過した。まだ一週間そう思っている。されども、もう一周間経過している。早い、とてつもなく早い。いや、それほど充実しているのかもしれない。


 確かに友達や家族が恋しくなることはあるが、それ以上に俺は魔法や剣術を体に叩き込み、確実に成長していく日々の方が俺は楽しくて仕方ない。


 俺って最低なのかな……。急に消えたのに、親族や友達へ謝罪の気持ちを持たず、むしろ楽しい日々に充実感を得ていることに……。


 「起きていたか」


 俺の頭の中の世界にもう聞き慣れた低い声が割って入ってきた。墨のように黒い髪に、白銀のコートを纏った師匠だ。


 この人ほんとにいつも気が付かないんだよなぁ。なんでだろう、戦国時代の忍者みたいに足音が全くしない。まじで突然現れる。


 「そろそろ名前を決めろ。こちらとしても呼びにくい」


 「あっ、はい」


 確かに、そういえば名前を決めてなかった。後で後での繰り返しで結局決めていなかった。確かにそうだ俺は名前で呼ばれてなかった。


 「今夜中に決めろ、明日答えを聞く」


 そういうと師匠は外へと出ていった。


 俺はその場で考えた。


 名前か……人に呼ばれやすい名前が良いな。康孝(やすたか)っていう名前は絶対にないない。どうしたら良いかな、簡単な名前でいいけど、それを一生背負って生きていくというなら……。


 なんか変だな、父親にでもなるわけでもないのに名前を考えてるなんて……。父さんと母さんもこんなふうに悩んだのかな。難しい、物語のキャラクターの名前が多く出てくるからそのままパクるのも嫌だなぁ。


 「……そういえばドイツ人の友達がヘルデンは英雄っていう意味があるって言ってたな」


 よし! ヘルデンにしよう! 俺はこれから英雄の意味を持つヘルデンだ!!


 ヘルデン! 中々悪くない! かっこいいじゃないか!うぉっしゃー! なんか燃えてきたぁ!!


 俺はその日の夜、名前が決まったことになぜか胸が高鳴りその後の言語学習を頑張ることができた。



 ***


 

 「決まったのか?」


 「はい、ヘルデンにします」


 「ほう、意味はなんだ?」


 「俺がいた世界で英雄という意味があります」


 「なるほどな、では一族を示す名前はなんだ?」


 えっ……あ、忘れてた。そういえば、そんなのあったな。もう名前が決まった時点で満足してた。多分名字なのかな……?


 もう正直このさいなんでも良いかな、名前に満足しちゃったし……。


 俺は周囲に何かないか探す、こういう場合に助かるのは周囲にあるものだ。なんでもいい、草でも木でも、山でも川でもなんでも良い。何かないかなぁ?


 そうしてしばらく俺はキョロキョロと周囲の状況を見ていると、生えそろっている草の中に烈火のごとく咲いている一輪の花が眼に止まった。まるで、周囲の環境に流されず自分を貫いている者のようだった。


 「師匠、あの花の名前分かりますか?」


 俺はその花に向けて真っ直ぐ指を指した。それを見た師匠は少し考えた様子で固まっていたが、何かを思い出したかのように口を開いた。


 「あれはオブリオだな、とても気高く美しい花だ。それにするのか?」


 「はい、それにします。あの花は周囲に緑しかないのに自分を貫いて真っ直ぐ咲いています。そこに惹かれました。ヘルデン・オブリオ……これが名前です」


 「なるほどなヘルデン、良い名前だ」


 「はい、ありがとうございます」


 「これで名前は決まったな、それでは今日の稽古を開始する。今日は魔法が主となる。剣術も大事だが魔法も必要最低限できる方が良い。魔法の五大元素は分かるな?」


 「はい、火、水、雷、風、土、ですよね?」


 「そうだ、中でも火、水は日常生活においても多くの場面で役立つ。今日はこの二つの元素の基礎を覚えてもらう」


 そういうと師匠は右手を広げると、炎のボールができた。その炎は煌々と燃え上がっていた。炎というのは恐ろしく万物を溶かしてしまう。


 俺の世界では火が人間が発明した最大の功績の一つとして挙げられていたが、この世界では一体どうなのだろうか。魔力と常に生活してきていたこの人たちにとって、火を起こすことは意外と簡単なことで、重要視されていなかったのかもしれない。


 「さて、では早速やってみせよ」


 そういうと師匠は右手をギュッと閉じた。それと同時に炎も消え失せた。まるで手品みたいだな。あっちの世界の手品がこの世界では魔法にあたるのかな。


 魔法……。身体能力向上には使ったことがあるが、魔術に使うことは初めてだ。身体を魔力で覆うことと、魔力を別のものへ変換することは難易度が大きく違うと思う。


 俺は師匠と同じように手を広げて魔力を右手に集中させる。この感覚は以前からやってきている。そのため、もうほとんど慣れていると言っても過言ではない。


 〈右手に魔力が集約する〉


 (さて、ここから変換の作業になる。イメージはエネルギーの変換だ、扇風機のように電気を運動エネルギーに変える。あれを人間の身体で再現……くそっ、難しいな)


 滝のように流れる水をイメージしても、轟々と燃え盛る大炎をイメージしても、魔力の変換ができなかった。


 ライターで火をつける時のように何度も火花が散るだけで本命の炎が立たない。


 それを見かねた師匠が口を開いた。


 「魔力の変換、そのように難しく捉える必要は全くない。見た目が変わるだけで中身は結局魔力でできている。人でいう変装だ、外から見たら見た目が変わり性質が変化しているだけ。しかし、内から見れば魔力であることに変わり無い。そのように考えてやってみよ」


 「はい」


 なるほど、変装か。それだったら、いけるかもしれない。俺も変装はしたことある。変な意味ではなく、学校の文化祭でお化けの変やらメイドやらをやらされた。


 確かに外から見たら変わっているが、俺からしたら『俺』

 という存在は一切変更されていない。


 俺は魔力の変換から、変装のイメージにした。流水への変更、ではなく変装!


 外側を変えるだけ、それを俺の右手に集約させる!


 こい! 化けた魔力! 水に! なれぇぇぇえ!!




 刹那




 水に打たれたかのように右手に雫が落ちていた。見れば右手には青く澄み渡った美しいブルーの水が出来上がっていた。


 「きた! 水だ!!」


 「同じように火もできるはずだ、やってみろ」


 俺は右手の魔力を体の中へと一度戻した。きっと手慣れている人は水の状態から火へと変化させることができるのであろうが、まだビギナーの俺には高等テクだ。


 俺は今度は左手に魔力を集める。


 (……ん? 利き手じゃないからかな、集まりが悪いな)


 右手と比べて左手で物事を行うことが全くないからか、中々上手くいかず、少し時間がかかってしまった。


 そして、俺は同じ容量で火を出すことに成功した。


 「おぉー、できた」


 「よし、ではあれに向かって打ってみろ」


 師匠が指差したのは俺が普段使っている打ち込み台だ。うぉっ、まじか台、ごめんよ。お前に恨みは全く持ってないが、許してくれ。


 「先に火を放ち、燃える台を水で鎮静させてみろ」


 なるほど、これはとても良い練習だ。一度で多くの水を作り、鎮静させるか一度に大きな水を作り、鎮静させるか……。


 俺は左手に残る、火を台に向かって飛ばす。それは見事に台へと命中し、台は燃え上がった。


 俺はすぐさま左手と右手に魔力を送り込み、水を作成する。


 (いや、待てよ。せっかくなら……)


 俺は右手で水の玉を作成し、飛ばす。それは台に命中にジュウ、ジュウ、という音とともに火の威力が少しずつ低下していく。


 だが、こんなものでは無い。俺はやや時間差のある左手から水をホースから噴射するかのように飛ばした。


 絶えず浴びせられる水に引火していた火はすぐさま鎮静させられた。


 謎の達成感が感じられた。普通にやるのではなく、どうせなら右手と左手で違うことをやる。なんとなくで思いついたが、中々に面白い。我ながら見事なり!


 台は結局黒焦げになってしまったが、これに関しては仕方ない。恨みはない、すまないな。


 「ほう、水玉(アクアボール)噴水(ウォータージェット)を同時に使うとは中々に器用だな。少し意外だったぞ」


 師匠からの折り紙つきだ。これは嬉しいな。師匠は少し考えごとをしているかのように天を仰いでいる。


 一体何を考えているのかは俺には全くもって分からない。人の行動や表情からどのような気持ちか、推察するのは難しい。時々読み取ることができるが、それはもっと大胆な行動をしている時だけだ。


 そして師匠が何かを決したかのように口を開いた。


 「これほど伸び代があるなら、本格的に俺の弟子にしても良いな」


 「で、弟子にする……? 俺は弟子ではなかったんですか?」


 「お前には師匠と呼ばせていたが、俺の中ではあいつからの預かり人としていたが、弟子にしても良いかもな」


 な、なんじゃそりゃ。ということは今までの関係はなんだったのやら……。やはり、この人の行動は全くもって読めないな……。


 そう思っていると師匠は腰から一つの真剣を取ると俺に渡してきた。


 「うぉっ、おもっ!」


 「これが弟子の証だ。大切にせよ、その剣は中々に貴重な宝剣だ」


 「は、はい」


 「他の剣よりも切れ味が良い、なによりもそれに乗ってお前は移動することができる」


 「の、乗る? 剣に乗ることができるのですか?」


 「この剣だけだがな、だから言ったであろう。この剣は貴重な宝剣だと」


 なるほど、宝剣か。これが俺の剣。その剣は、周囲の草よりも少しだけ濃い色をしてとても透き通っている。鞘にもいくつかの赤い宝石がはめられている。


 俺はそれを腰につけた。やはり真剣ともなると木剣に比べてとても重い。これは移動が大変になるな、だがその分乗ることができるのはありがたい。


 こうして俺は師匠の正式な弟子になることができた。

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