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第四話 深刻な問題

 「あーもう! あの野郎! 何回も言ってくれよ!」


 俺はあの死神野郎に不満がたまりに溜まっていた。いやいや、俺が悪いか。夢中になって学習を忘れていた俺が悪かったわ。はぁ、まぁでも本の内容は部分的に覚えてるから何とかなりそうだ。分かんない時は師匠に聞くか……。


 俺はとりあえず昨日読んだ本だけを残し、残りの本は本棚へと戻した。


 本棚に戻しながら俺は思う。


 (まだこっちに来て日が浅いけど、適応はできている気がする。でもやっぱり常識を知ることができないと俺は変人扱いを受けるなぁ……。)


 そう思いながら、棚へと戻しているとリビングに続く扉が開いた。中から出てきたのは師匠だ。相変わらず少し怖い顔をしている。


 「起きたか、魔力の使いすぎだ」


 「はいすみません、現在はある程度回復しました」


 「まだお前の総量は少ない、ゆえに短時間で総量が回復する。しかし、今後は総量が増えていく。意味は分かるな?」


 「はい、今後は注意して使います」


 総量はきっと魔法の使用回数に比例して増えていく、それと同時に回復の時間も同様に長くなっていく。もし、総量が多い状態で枯渇してしまうと、しばらく行動不能になるのか……。


 なるほど、意外と単純で良かった。


 「さて……文字は読めたか?」


 「っ! なぜそれを」


 「あのバカがわざわざ伝えに来たぞ、お前が読むことに夢中で学習していないと」


 「えぇ……見られてたのか」


 「ほら、これをもっておけ」


 そう言って師匠が差し出してきたのは、新品に等しいほど美しい一冊の本。あの棚にある本と比べても大変新しい。


 俺はそれを両手で受け取る。その書は重く、もらった直後がガクッと前に倒れそうになった。俺はそれを開く。


 中はこれまでの書と全く変わらない。数字とアルファベットの羅列がただ並んでいるだけ、それにグチャグチャの文字が書かれている。なんか、平安時代の日本の文章を読んでいる気分だ。


 だが、その文字の上にルビが振られているかのように俺の知ってる言語が書かれていた。日本語だ。あの神、日本語分かるんだ。


 「どうやら、お前専用にしたらしい。今度会ったら感謝を伝えておけ」


 「はい、分かりました」


 そう言って師匠は扉の奥へと消えていった。俺はしばらくその場に立ち尽くし、本の中を読んでいた。


 すると、部屋を出たばかりの師匠が戻ってきた。


 「どうしました?」


 「飯はもう置いてある。好きな時間に食べろ」


 そう言うと再び扉を閉じた。


 本当になんか、お母さんみたいだな。いや、全然違うけど……。


 まぁ、お腹がすいたら食べよう。それまではとりあえずこの本で学習するしかない……。


 「ありがとう死神」


 俺はベッドの上で本を開き、言語学習を始めた。



***


 渡すべきものを渡したレアンは辺境の地の建物の中で死神と話をしていた。


 「渡したぞ」


 「助かった、俺は中々そっちには行けないから」


 「お前だな?」


 突然レアンの目つきが変わる。


 「何が?」


 「あいつをここに連れてきたのはお前だろう。なぜ連れてきた」


 レアンの目つきはこれまで以上に鋭く、まるでナイフのようだった。その目つきにも屈することなく死神は淡々と話し出す。


 「仕方ないのさ、これも決まりごとだ。避けられない運命」


 「運命だと? お前とあいつの関係は何なのだ」


 レアンは席を立ち上がり、窓の外を眺める。いつの間にか外は暗闇に覆われ、星が輝き、月が地面を照らしていた。


 それをよそに死神は机に足を乗せてコップを手に語る。マナー違反にも程がある。


 「関係? 遡ればそれはもう大変な話になるな」


 「あれは俺の知らない文字。お前もあの世界の住人だったのか?」


 「そうだ、もともとはな。だが今は俺はれっきとしたこの世界の人間……いや、神だ」


 「そうか。運命と言ったな、あの少年が選ばれたのは完全なランダムで、それを受けれる必要がある。それとも、意図的にあの少年を選んだのか……どっちの運命だ?」


 「うーん、そうだなぁ。どっちとも言えるんだよね。あの少年以外の代わりではないけど、他にも該当する可能性を持ったやつはいた。だけど、運悪くもあの子が当たってしまった。それだけだよ。でも、本人はこの世界に来て大喜びしてたじゃないか。あっちの世界で平凡に暮らすことよりも随分楽しそうにしていたじゃないか」


 「今後あいつの教育はお前ではなく、俺がやるんだぞ。お前が勝手に連れてきて人任せにも程があるぞ」


 「何言ってんだよ。俺だって手伝うときは手伝うよ。現に今日はあの本を与えただろ?」


 「そうだな、俺たちは互いにできない部分を補うことができる。今後も助け合う必要がある、と言いたいがお前のことは信用できん。それによって俺はあいつのことも何者なのかよく知らん」


 その言葉に死神はやれやれと言いながらコップを口に運ぶ。


 「つまり、真実を話せと?」


 「そうだ、俺のためではない。この世界であいつが生きていくために知る必要がある」


 「………まだだ、もう少し。もう少しだけ待ってくれ。そうしたら全てを話す。約束する」


 「……話すなら良いが、もし嘘だと言ってみろ神であろうとお前を許さん」


 「大丈夫だ、神は嘘をつかん」


 それを聞いたレアンを建物を後にした。


 一人残った死神は月光に照らされながらコップを揺らしていた。


 「我が一族の運命は変えられない。神の血を引く私たちはこの世界に来る運命なんだよ、それを知らないお前には申し訳ないことをしたな康孝(・・)


 そう言うと彼もまたその建物を後にした。


 ***


 「なるほどね、ていうか書くの難しいよ」


 とりあえず簡単な言葉は書けるようになってきた。俺が見た時に思ったアルファベットと数字の混合文字が全てに当てはまることはないが、ほとんどがそれに該当する。


 「よーし。あっ、もう夜か」


 さっきまで夕陽が差し込んでいたのにもう外は真っ暗だ。はやいなぁ、ていうかこの世界の一日ってどれくらいかな?


 24時間なら良いけど、せっかくならもう少し、数時間だけ一日が長いと良いな。時間の計測の仕方はある程度立てることができそうだが、それには大規模な魔法の知識がいる。今はとりあえず無理だ、これもまた俺の中でちょっとした問題だな。


 そうだ、ご飯食べないと。師匠がもうすでに作り置きをしてくれていた。俺はベッドから起き、体を伸ばす。


 「ふぅ……あぁ疲れた」


 俺はリビングへ向かい、イスに座る。今日のメニューは何かわからない肉のソテーと色とりどりの野菜たち、そして豆と野菜のスープだ。


 「あー、米が欲しい!」


 ダメだこれはもう深刻な問題だ! 日本人の魂の米がないことは大きな問題だ!!!


 もういっそのこと稲作でもやろうかな。この世界に米なんてないに等しいし、俺が作ったらきっとみんな気にいるでしょ。


 「まぁ適応するしかないか」


 俺は一人、淡々と食べた。味はいつものことだが最高に美味い。特にソテーはバターの味がほんのりと残り、かと言って油がありすぎているわけではない。絶妙なバランスが保たれていた。


 俺はその後、ベッドへと戻り言語学習へと戻る。


 この本は実践形式のものがほとんどだ。なんか師匠の稽古のやり方に似てるんだよね。


 「あぁー、標準語がこれって大変だ。でも生きていくためには必須だから、頑張らないと」


 言語学習において大切なことはとにかく覚えたら載っている文を訳す。助かることは話す時に知らない言語でないこと。これが本当に助かる。


 待てよ、ていうことなら。なんで、この本送ったんだ?

めんどくさいからに尽きるよねー。もし、俺があっちの立場だったら同じことするかも……。


 まぁ、とりあえず言語はこれで頑張るしかないか。


 俺はその後少しだけ言語を学び、睡魔が来たため身体を休めることにした。


 


 「師匠」


 「なんだ?」


 俺はイスに腰掛けながら、対面に座る師匠に話を始めた。


 「師匠は一ヶ月とりあえず基礎を教えると言いましたが、なぜ一ヶ月なんですか?」


 「そういえば言っていなかったな、お前は俺と旅をする。世界を歩き回り、さまざまなことを知れ」


 「ですが、学校とか行かなくて良いんですか?」


 「いく必要があるのか? お前は見た目は若いが中身はいい年齢をしている。加えて魔法や剣術が俺が叩き込む。必要な知識は書から学べば良い。期間は決めていないが何年かは放浪する」


 「なるほど」


 「お前が育ったら俺との旅は終わりだ。お前は自由に生きればいい」


 「旅が終わったら師匠はどこに行かれるんですか?」


 「そうだな、決めてないな。だが、今やるべきことはあのバカの代わりにお前が生き抜く力を身につけさせることだ。その先は後々考えれば良い」


 そう師匠は言った。なるほど、やはり実践形式と。だが、俺は実践形式の方が伸びる気がするし、そこは気が合うというか、助かる。


 いつもとは違い金龍が描かれたコートを身にまといながら語り出す。


 「それゆえ、最低限の基礎を叩き込む必要がある。この一ヶ月は苦しいだろうが、お前の今後のことを考えれば必要不可欠だ」


 確かに、この世界で生き抜くためには今やっていることがベース。身につけるしかない。


 俺はイスを立ち上がり、木剣を構えた。それを見た師匠も席を立ち上がり、こちらを見て構える。


 「堅月公、流岳の葉(りゅうがくのは)は受け流しだ。攻撃が当たる直前に流す、これだけだ。四つある防御のやり方のうち最も難しいが、注視すれば簡単だ。昨日、魔力で能力を底上げしただろ? それを今度は眼に集中させろ」


 受け流しを成功すると相手は大いに態勢を崩し、隙が生じる。その隙を攻撃に繋げるための技だ。


 四つの防御とは、受け、避け、弾く、受け流す。この中でも受け流すことは高等テクだが、これができれば他の技術もできる可能性が高い。


 きっと師匠は俺ができることを見込んでこの技をやってみろと言ったのであろう。そうであれば、俺はその期待に応えないとな。


 俺は木剣を構え、昨日の感覚を頼りに魔力を操る。だんだんと、眼に魔力が集約するのを感じる。集約していく度に目の前にある風になびかれ、揺れている青々とした草の動きがゆっくりとなっていく。


 そして、師匠はこちらへと踏み込んで来る。一瞬でその距離がゼロになり、剣が振り落とされる。


 (集中だ! よくみろ!)


 俺は師匠がもつ木剣の刀身を見る。


 それが当たる直後! 俺はゆっくりと力を抜き、振り抜かれる方向に剣を下ろす!


 すると剣はスッと当たることなく通り抜け地面に衝突した!


 師匠は剣を振り抜いたまま動かず、俺に語りかけた。


 「流石だ、一度で成功するとは」


 師匠からのお褒めの言葉に俺は少し嬉しかった。自分よりも格上の人間に褒められることはとてつもなく心地良い。さぁ、次の技もやるとしようか!


 


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