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第三話 ハードな生活

 「ガァ……いってぇ」


 「ほら、さっさと立ち上がれ。この道はお前が選んだ道だぞ」


 「は、い。まだ、やれます」


 あの後、すぐに本当に基礎の基礎から教え込まれた。まずは剣の構え方やら、使い方、簡単な技など。昼までは一通り教えられた。


 だが、全てを覚えられることなんて無理だ。ところどころ忘れてしまっているところがある。その度にレアンにダメ出しをされる。


 とてつもなく悔しい。吸収力のない自分の才能を深く恨むことが多い。だが、今更だ。そんなことを恨んでも仕方ない。


 「はぁ……はぁ」


 「もうバテたのか? 早いぞ、本当の戦闘はいつまで長引くのか分からないぞ」


 「はい、すみません……!」


 身体が小さいという言い訳もあるが、元から体力がない。部活は陸上をしていたが、体力は部員の中でも少ない方だった。


 「戟刃公の宮唐斬り(みやのからぎり)だ、前腕に力を集中させろ」


 宮唐斬りは威力重視の技、力を一点集中してターゲットを切り裂く。本当に基礎の基礎だ。レベルが上がるごとに普通の斬撃が宮唐斬りになる。


 打ち込み台と対面する。木剣の柄の部分に力を入れる。ただ力任せに剣を振ったら怒られた。手に力を入れて切るだけではない。前腕全体に力を入れて、最後まで振り抜く。


 目標を打ち込み台をぶっ壊すこと。正直に言わせてもらう。無理に決まってる。ついさっき木剣を握ったばかりの子どもに台を一撃でぶっ壊せって無理だろ……。


 俺は前腕全体に力を入れる。子どもになったために筋力は随分と減ってしまい力の限界が、今まで出せて当然の力だったのに今ではかなり衰退した。


 「……そういえば、魔力を力へ変えているか?」


 「魔力を力に?」


 「まさか、知らないのか?」


 「知らないです、魔力がそもそもあるか分からないので」


 「問題ない、魔力はお前にもある。あのバカが、言ってなかったのか」


 「そうですね、特になにも言われてないですね」


 「お前がこの世界に来たことで、この世界の魂が一部お前の魂に入り込んだ。本当に偶然だがな、魔力は感じられるか?」


 「うーん、よく分からないです」


 「なるほどな、いまから剣術から魔術を教えることにする」


 突然の変更。その理由はきっと先ほど言っていた魔力の変換であろう。そのことについては読んだ本には一切書かれていなかったが、きっとそれはこの世界では当然のことだから書かれていなかったのだろう。


 この世界の常識が俺にとっては異常なことに近い。まだまだ知らないことが多すぎる。レアン師匠に教えてもらうか……。


 ゆっくりと俺の方へレアン師匠が歩いてくる――


 そして俺の頭に手を乗せる。とても大きく硬く、力強い手だった。百戦錬磨の武将、という感じだった。


 その手から何か不思議なものが流れている気がした。血液の中に何か同じ液状のものが入ってくる、そんな感じだ。それはきっと魔力であろう。その『何か』が俺の中に入ってくる度に力がみなぎる。


 「これほど増やしたら、分かるか?」


 「はい、みなぎる気がします」


 「よし、その魔力でまず身体全体を包んでみろ」


 身体全体に……。全神経、全血管に意識を配りながら魔力を内から外へと出すイメージ。


 魔力なんて扱うのは初めてだから初心者の俺は魔力のコントロールは複雑で使えない。


 しかし、師匠が何かしたことで体内に溢れている魔力の流れを感じることができた。あの感覚をそのまま、具現化していけばいい。ただ、それだけ。


 血管の中に流れる血液を全て傷口から溢れ返らせるとんでもイメージだけど、これが今俺ができる最もわかりやすいイメージだ。


 「もっと細かく、より微細の箇所まで意識しろ」


 「はい」


 細胞単位で全ての魔力を感じ取れ!

 

 魔力への意識を全集中すると、身体中に流れる魔力を感じ取ることができた。しかし、流れを感じ取るだけで体外への放出は厳しかった。


 皮膚のすぐ下、そこまで魔力を出すことができるが身体を覆うことはやはり難しい。あと少し、本当に少しなのに……!


 「力任せに出そうとするな、魔力の流れは流水の如く滑らかだ。無理に出そうとすると詰まって形を変え、体外へ出ることが困難になるぞ」


 水か……。なるほど、パワーで閉じられているダムの入り口をぶっ壊すことよりも隙間を通って微量の水でもいいから外へと逃すイメージか。


 確かにその方がやりやすい気がする。正面の入り口だけを見て外へ出ようとすることよりも、視野を広げて綻びを見つけてそこへ入りに行くことの方が外へと出やすいのか。


 俺は外へ力技で出すことをやめて生理現象で発生する汗のように自然に、意識せずに出てしまうイメージを持った。あまり綺麗なイメージではないが、より分かりやすい気がする。


 優しく、自然と出るイメージだ。ゆっくりと水が流れて外へ出るイメージ、スーッと出ていく、雨漏りしてしまう感じだ。


 その時、魔力が外へと放出されていく気がした。


 「もっとだ、部分的にしか出ていない。全てを覆え、全てだ」


 ゆっくりとだが、どんどん魔力が身体の上に乗っかっていく感覚を覚えた。できてる、できてるぞ! ゆっくりとだけで確実にできている、頭からつま先まで全てだ、全部覆いつくせ!


 そして、再び魔力が体外へと出ていき、何か、膜のようなもので覆われている気がしてきた。


 「そうだ、できているぞ」


 そして、身体全体が細胞膜のように薄い膜で覆われている不思議な感覚へ成った。完成した、完成したんだ!


 髪の毛に至るまで全てが覆われている!


 だが、見た目には何の変化もない。手や足を触ってみても、なんの変化もない。いつもの自分があるだけだ。


 「目には見えないが、確実に覆われている。それで宮唐斬りをあの台へやってみろ」


 そう言って指をさした。先ほどまで打ち砕くことができなかった台。たかが魔力で覆っただけだが、力が少し増した気がする。というよりも身体能力が向上した気がする。


 俺はゆっくりと、台へと近づく。落ちていた木剣を拾い上げゆっくりと、少しずつ剣の間合いへと入る。


 いける、いける気がする!


 俺は無言で地面を蹴り抜いた。その踏み込みは先ほどまでの威力よりも少しだけ上がっていた気がする。それにより、空気を裂き、迫る速度も上昇する。


 みるみるうちに距離が縮まる。前腕に力を!


 木剣を振り上げ、斜め袈裟に落とす!


 先ほどもよりパワーが速度が上昇している! 


 空気を裂いて木剣が振り落とされる!


 バギッ!


 その音とともに木製の破片が周囲に飛び散る!


 飛び散った元は俺の木剣!


 ではなく、台が後方へ崩れ落ちながら撒き散らし地面へと倒れていく!


 そしてドサっと倒れながらバラバラになってしまう。俺はその正面に立ち尽くす。


 成功の高揚感と不思議な気持ちが入り混じった複雑な心境に陥る。


 たかが魔力。されども魔力。魔力は純粋な力に還元することができる。本にも記述されてなくて全くもって分からなかったが、自分の体で実際に体験して分かった。純粋に強くなりたいと思うなら、技を極めること以上にこの魔力の扱い方を知り、実際に使うことができるようにならなければならない。


 「これは将来化けるかもな」


 これなら、俺はどんなことでもできる気がしてきた。身体能力の向上はさまざまな場面で使えるな。剣士として必要不可欠の補助役だ。


 「はーっはっはっは!!!」


 最高に気分が良い! 今! この瞬間だけ! 俺は!


 世界最強に成り上がった気分だ!!


 魔力がみるみると湧き上がり、体外へと放出されていくのを感じる!!


 「バカみたいに騒ぐな、落ち着け。慢心するな、死ぬぞ」


 それと、同時。みるみるうちに覆っていた魔力が朽ちて落ちていくのが感じられた。


 それはまるで、木の枝から葉が落ちていき、全てが枯れてしまうような感じだった。


 そしていつしか、魔力は完全に無くなった。同時にとてつもない疲労感に襲われた。


 体が鉛のように重く、手足に枷をはめられ、今までの疲れが出てきたようだった。俺はその場に倒れ込む、意識が混沌とし、強烈な睡魔に襲われた。


 「バカが、だから言ったであろう」


 その言葉を聞いたと同時、俺は意識を手放した。



 ***


 気がつけば、俺はベッドで目を覚ました。バッと、布団を飛ばし隣の窓から差し込む夕陽を見て、かなりの時間が経過していることを知った。


 「……何があった?」


 俺は何が何なのか分からなかった。だが、もしかすると魔力が枯渇した?


 高揚で夢中だったから、気が付かなかっただけで俺は自分が抱える魔力を全て使いきったのかもしれない。まだこの世界の魔力が一体何なのか俺は知らないが、きっと人の体を支えている重要なものであることには違いないであろう。


 「まだ、疲れてる」


 俺はそのまま再び仰向けになった。


 感情の制御ができなかったなぁ。嬉しさのあまり、狂ってたのか……。仕方ないよね、だって嬉しかったんだもん。


 はぁ……。でも、今日できることはもう本を読むことだけか……。ていうか、師匠は一体何処に?


 多分俺をここに寝かせたのはあの人だろう。俺をここに置いたきり、帰ってこないな。まぁ、いいか。


 俺は立ち上がり、本棚に収納されている分厚い本のうち何冊かを手に取りベッドへと戻った。


 そのうち、一冊はしばらく放置されていたのかホコリがすごかった。ポンポンと払いのけ、タイトルを眺める。


 「魔神イグナシル外伝」


 いかにも厨二くさい、感じだ。しかし、きっとタイトルから推察するに伝記かな? うん、悪くないね。俺は伝記は嫌いではない、むしろ大好きだ。人の生き様を見ることがこの上なく楽しい。


 俺はその本の表紙をめくり、中へ淡い期待を抱きながら開く。流石に中まではホコリが被っていなかった。しかし、年季を感じさせる紙の材質と、黄色に変色していた。

きっとだいぶ昔の本であろう。


 そして内容を読むのだが……。


 「何だこれ」


 読めなかった。見たことのない文字が尽きることなく並べられていた。ローマ字が組み合わさったかのような文字が並べられていたために、読めそうで読めない。


 見たことがない言語だ。タイトルに『魔』の文字が入っているから、別の人種の文字なのだろうか。だとしてもおかしいな、タイトルは読めたぞ。作成者は何を考えてるのやら……。


 「仕方ない、今度はこっちだな」


 俺は外伝の書を隣にずらし、次の本を置いた。


 だが、しかしここでも問題が発生する。


 「……これも読めんな」


 今度はタイトルすらも読めなかった。数字とアルファベットが混合になっている複雑な文字だ。


 俺は最後の書を持ってくるがこれも同様に読めない。文字の形は魔神のやつと同じだ。


 俺はまさかと思い、昨日読んだ書物を本棚に探しに行った。そんなはずはない……! 俺は薄い希望を持ちながら焦りながら探す。


 「これだ」


 俺は手に取り、タイトルをみる。本の色や年季を見るとこれは冒険譚だと推察できる。


 だが、昨日まで読めた文字が読めないのだ。中を開いて確認しても分からない。読めない文字が並んでいる。


 そんな時、ある言葉を思い出した。


 「一日だけ、文字を読めるようにするから、言語学習をするんだぞ」


 それはあの死神の話。


 「忘れてたぁぁぁぁ!!!」


 俺は本の内容が面白くてすっかり言語学習をするのを忘れていたのだ。


 それは剣術や魔法以上に深刻な問題だった。


 

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