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第十八話 放射状の作戦

────私の名前はラミール・ガリス。ユトネル王国の総裁師(そうさいし)、のちに世界を統べる者だ。


 現在、私はユトネル王国を目標達成のための基盤にしている最中だ。


 つい最近、王手となるものを入手した。過去最大の成果だった。これで私の世界を創るために必要な駒があと一つとなった。


 「さて、上将たちよ。今日集わせたのは他でもない。私の世界実現まであと少しとなった。もう詰みの盤石だ」


 大聖堂の上座にて私は四人の上将を見下ろす。四人はそれぞれ一列に並び私を見上げている。四上将(しじょうしょう)が全員揃ったのは約数年ぶりだ。


 一番右。片膝をつき礼儀正しくしている煉獄のような髪をし、白銀の眼をもち笑っている男。マントのように長い真っ黒なコートから対照的な白のインナーがのぞいている。


 その男が上将の頭。ガヴァネス・テヴァルス。私が直々に手ほどきした者だ。


 その隣、ぼんやりとしたアホヅラの男。この国では異端者とされる黄土色の髪に、霞のような瞳。正教騎士団の象徴であるスミレ色の襟やら丈の長いねずみ色に縁取られた堅苦しそうな正装に身を包んだ者。


 ティヌ・ハーバール。正教騎士団の団長、四上将の第二の刃。アホそうな顔してるが、やるときはやる。


 そしてその隣。ティヌとともにセンターにいる者。


 仏頂面のあさげ色をした髪に澄んだ金木犀のような瞳をした感情のない能面のような男。青緑色のジャケットを着て、内には鉛のようなシャツ、手には薄いタクティカルグローブ着用し、シャツと同じ色のズボンを履いている。


 才能は最も長けている。名前はシン・バレストラ。


 そして最後……と、言いたいのだが……。


 「相変わらずだな、ククール・サマレ」


 私の言葉とともにククールは手に持っていた干し肉を口に運ぶのをやめた。

 隣には数えきれないほどの骨の山。そしてニマニマとこちらを見る。

 オレンジ色の髪には二つの耳がある。丸い半円の耳、かつて差別されていた熊族の一族。


 毛皮に身を包み、紫色の瞳を輝かせてこちらをじっと見続けている。


 俗にいう……なんと言ったかな。く、く……あぁ、そうだ。クソガキだ、クソガキ。魔獣使いだ。世界でも屈指の怪物。私の懐刀と言ったところか。


 「まぁまぁ、硬いことはやめて、楽しくしましょうよー」


 「ククール、場をわきまえろ」


 「ガヴァネス君、だったかな? 何年ぶり?」


 「黙れ、殺すぞ」


 「ククールうるさい。ラミール様の前」


 「ティヌ君もつめたいな。めんどくさいなぁ。よしよし落ち着いて、テガール。暴れるのは後だよー。

 で? バレストラ君は相変わらずだんまりー?」


 「……」


 「ねぇ、僕が話してるんだけど。無視するって何? 僕のことバカにしてるの?」


 「黙れ。私の小太刀が貴様の小汚い生き物を皆殺しにするぞ」


 「何それ? やる? 僕も、僕のみんなも全然いいけど?」


 「おー、バレストラとククールやるの? じゃあ俺審判ね」


 「もう良い。やめろ、お前たちが優秀なのは知っている」


 私の言葉で全員がその場の争いが止まった。


 全く……四上将全員が集うことの良くない点がここだ。やつらは全員強いことは強いのだが、自尊心が高すぎる。そのせいでいつもこうだ。前回、本当に殺し合いになった。


 それゆえ、個々に指示を出し、全員集合とすることはやめていた……のだが、面倒くさい。実に面倒だ。


 そろそろ仲良くして欲しいのだが……。


 「ラミール様、お許しを。四上将筆頭である私の不届きです」


 「ガヴァネスずるーい」


 「ガヴァネス君かっこつけないでよー」


 「………」


 まぁ良いさ。直属の部下四名全員集結か。まぁいい……これでようやく会議が始められる。


 「さて、お前達にそれぞれ役割を与える。ガヴァネス!」


 「はい」


 「お前は掌握可能な王都軍全てを動かし、あの子どもを見張れ」


 「分かりました」


 この国に入って数年。ようやく王都軍のほとんどを我が掌へ収めた。その全てを使う。この国の王がどうとか、どうでもいい。


 「次にティヌ」


 「ほいほい」


 「お前は私と行動しろ」


 「ほい」


 あと少し、もうあと一つで私の悲願が叶う。器だ、器さえあれば完成する。探知に長けたティヌとともに私はそれを探し出す。


 「シン、ククール」


 「はい」 「はーい」


 「お前たちには聖獣を探せ。但し、見つけても必ず戦うな。方陣の中に入れろ」


 おそらくこの中でククールを最も扱うことができるのがシン・バレストラだと、私は信じている。私の懐刀、上手くやって欲しいものだ。


 「とは言ったものの、如何(いかが)しますか? 先ほどからゼル議員がラミール様と話がしたいと待機しています」


 その中で口を開いたのはガヴァネス。ゼル議員がか、しつこいものだ。何度言えば分かるのか……。

 諭しても不可能とあらば、解決の道はただ一つ。


 圧倒的暴力による支配と恐怖。だが、それでは王都軍は私の言うことを聞かないであろう。例え軍全体が反抗しようが我ら五人には及ばないが……。計画に支障が出る。


 「ゼル議員は待機してどのくらい経過している?」


 「はい、およそ」


 「ざっと三時間らしいでーす」


 それを遮ったのはククール。それを軽蔑の目でガヴァネスが見つめる。これが喧嘩の原因となるのだが……。全く……曲者の扱いは本当に骨が折れる。


 まぁ良い。にしても三時間か、そうかそうか。それほど待たせてしまったのか。


 というよりも、そんなに私たちの会議に入りたいのか。

 ならば招待しよう、我らの領域に。


 「シン」


 私が名前を呼ぶとシンは立ち上がった。

 コツコツと歩き出し扉の外へと出ていった。


 私たちはそれを黙って見届ける。

 その数十秒後、なにやらガヤガヤとわめき散らかす声が聞こえてきた。

 耳障り…というのが共通認識なのだろうが、全員顔をしかめることもなくその場に立ちすぐしていた。


 そしていざ、大聖堂の神聖な大扉が開かれシンと、ドスドスと偉そうに歩き、眼を血走らせた頂点ハゲ。まるまると太った腹には大量の脂肪が蓄えられている。

 そいつが汚らしく唾を吐き散らかしながら私を見上げ、言う。


 「おい! いい加減にしやがれ! 今すぐに! 近衛兵を返せ!」


 「………」


 もう私の耳にタコができるくらい聞いた言葉だ。

 ざっと今日で五回以上は聞いた。近衛兵を、王都軍ね。はいはい、返す―――なんてことはない。


 さて……どうしたものか。何度も返還の要求は断っているのだが。どちらとも正義だ。私にとって王都軍の掌握は正義。だが、このデブにとって近衛兵の奪還は正義。正義と正義の衝突。正しいことの主張、議論をもって解決すべきことが解決できなかった。


 ならば次にできる解決法。簡単だ


 「ガヴァネス」


 私の言葉とともにゆっくりとその官僚に歩み寄る。

 静寂にあるこの大聖堂、しかし次の瞬間にはそれも破れることととなるのだ。


 眼前に迫った直後。時空がほんの少し、本当に少し歪んだ直後だった。


 ―――ビシャビシャビシャ!!


 液体の滴る音とともに純白の床が紅色に染まる。

 それがゆっくりと広がっていく。ビシャっ、その音ともに官僚はうつ伏せに倒れ込む。黄色の官服が血に染まる。


 ────殺せばいい。


 「死体処理は任せろ。お前たちは役目を果たせ」


 そうして、私の直属の部下全員はこの部屋を後にした。

 これで本格的に私の計画が始まる。長かった……何年だったか、三百年以上の月日を使った。いや……これも実現のための必要な代償、そう思えば大したことない。


 くくく………この数年で一気に実現に近づいた。それは間違いなくバカな王様と、「あの子ども」だ。まずはバカな王様。簡単な口車に乗りおって。精神操作に対する防御魔法が一切施されていない。いままでよく滅ぼされなかったものだ。


 まずは最も位の低い下級文官となり、実績を積む。審判の判決に関わり、街の人心を掴む。

 

 それを行い、上級文官へ取り入る。そして、推薦を勝ち取る。その上級文官でも国の政策へ関わり、時には武官として前線へ。

 もちろん勝利するがな。そして総裁師。


 文武両道。まさにその実績を持つ者だけがその地位へと就く。そしたら簡単だ、あとは都合のいいように王に進言する。王の本心を読み、やりたいことをやらせる。人の心とはなんて愚かなんだろうな。


 百代以上にもわたり続いたこの国もあいつの代で滅ぶ。さすれば私の国だ。幾千年もの続く時代を、永遠に私が君臨する。その算段もできている。


 私自身の圧倒的な力、忠を誓う最強の臣下。やつら自身、世界規模で見ても誰も敵わん。


 くくく…………先ほどから、笑いが止まらぬ。


 「たかが上級文官を取り締まる貴様ごときが私の計画を崩すことなどできるわけがないだろが」


 上座から降り、床に横たわる小汚い男を足で踏みつけ、その背中へ乗る。


 天井に広がる透明なガラス、そこから天より降り注ぐ眩い光がラミールを照らす。


 彼はいつも黄金の鎧を身につけている。そのため、降り注ぐ光を反射しキラキラと輝く。やや歳のある、ほりの深い顔には白い髭がある。しかし、彼の肉体は老いてなお盛んなのだ。


 「貴様は私のための生け贄だと思うがいい」


 ―――


 さて、主人からの指示を聞いた四名はユトネル王国の国門に揃っていた。

 それぞれの顔は緊張や焦りなど一切ない。なぜなら彼はみな、ラミールの元で戦い抜いてきた歴戦の強者だからだ。

 

 「私はここで」


 そう言ってシン・バレストラは団体から外れ、個人行動を始めようとしていた。しかし、それはダメだとククールが止める。それもそのはず、彼はククールとともに行動しろと言われていた。


 だが、それを止めたのは四上将筆頭のガヴァネス。


 「行かせろ。シンは団体よりも個人で動いた方が良い」


 「でもさーガヴァネス君、僕たちは団体で行動しないと。そうじゃないと怒られちゃう気がするよ」


 「いや、良い。団体で行動しろ、とは言われていない。結果さえ良ければ過程などどうでも良い。俺が保証する」


 まさかの発言にティヌとククールは少し驚いていた。筆頭である彼がなぜ、そこまでシンを優遇するのか。二人は共通の疑問が浮かんでいた。


 だが、彼の言う通りである。

 これまでシンは幾度も個人で活動していた。その度に予想外いや、考えている結果以上のものを叩き出していた。


 それを可能にしているのは彼が強いからだ。口先だけで相手を納得させるのは難しい。しかしその度に彼は実力で結果で相手を黙らせてきていた。


 「さらばだ」


 その言葉とともに「ヴォン」という低音とともに彼はその場から立ち去った。


 「へぇー、まぁ僕ちゃんはラミール様と行動するからさ」


 「私は軍を率いるからな」


 「うげっ、結局全員別じゃん。つまんな―まぁ良いよ。じゃあねー」


 そうして各々、作戦通りに行動を始めたのだ。

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