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第十五話 偽りのチームメイト

 「……なぁ、少し腹ごしらえしないか?」


 俺たちは様々な店が連なる通りを歩きながら会話をする。相変わらずだが、あまり活気に満ちていない。下を向く者たちばかり。


 「金ないよ、そのためにクエストやるんだし」


 「あー、そうだった。じゃあベビーボアーを倒してそれ食べるか」


 えっ、ベビーボアー食うの? 嫌なんだけど。魔獣ハンバーグを避けたくらいだし……。まぁ、それ以外でお金を使わずに食べる方法知らないし。


 なんだかんだ、魔獣って美味しいって読んだことあるし。食べたことはないけどルイが少し嬉しそうにしてる。いやいや、忘れたのか? このお猫様は肉が大好物なことを。


 ともかく俺たちは事件が発生している現場へと歩き出した。その中でも俺たちは軽い話をする。


 「そういえば名前は?」


 彼が髪をサラッと揺らしながら聞いてくる。そういえば互いの名前を聞いたことないね。


 まずはこういうのは先に名乗ることが礼儀、だったかな?  


 「俺はヘルデン。ヘルデン・オブリオ」


 「ヘルデンか、僕はイミュ・グレムスだ。よろしく」


 そう言うと手を差し出してきた。その手はまだ幼いながらも手はマメだらけだ。いかにも剣ばかりを握っている剣士の手だ。


 俺はこれからもよろしくの意を込めて手を握る。シェイクハンドだ。


 「よし、行くか!」


 そして俺たちは畑を荒らしまわっているというベビーボアーがいる現場へ向かった。


 と、言いたいのだが。


 「おい、早く行くぞ」


 俺は肉屋に並べられている色とりどりの形をした肉を立ち止まり、眼をキラキラと輝かせて見ているルイの手を引っ張って行った。


 「えぇー、あっ! あのお肉ほしいー!」


 その瞬間、俺はグラリと体軸がずれた。なんと不思議なことに俺は引っ張っていたはずの手が引っ張られるように感じた瞬間、俺は地面と接触して引きずられていた。


 凄まじい力だ。そういえばこのお猫様は聖獣だ。名前からしてすごいパワーを秘めているに違いないのに……。


 「あがががかっ!!」


 「お、おい! ヘルデン! どこ行くんだ!」


 「がががかっ! だずげでぇーー!!」


 それを見た歩いている人たちは足を止めて俺を見つめている。中には笑いを堪えている者や、俺が呪われていると思っている人もおり手を合わせてブツブツ何か言っていた。


 きっとルイが小さいから、見えなかったんだろう。


 「おい! 待てよー! ヘルデンー!!」


 「ちょっ、おぃ! ごの……! どまれぇぇ!」


 俺の後ろには追いかけてくるイミュがいるが、どんどん豆粒になっている。


 いや、速すぎだろ! いくら聖獣とはいえ時速何キロだよ! 


 「………?」


 俺は一度落ち着いて周囲を見る。このお猫様が俺を引っ張る力や速度やらに焦点を当てすぎて気が付かなかったが、ルイがさきほどまで見ていた肉屋などとうに過ぎている。


 「……お″い、どごむがっでんだ?」


 「しーっ、静かに」


 そう言ってそのまま、どこに行くのかも分からず連れて行かれる。待てよ、イミュは良いのか?


 あいつは俺とクエストをこなすはずなのに……。置いていったままで何か言われないか心配だ。


 俺はゆっくり後ろを振り返るが、もうイミュの姿は見えない。この速度のせいでとっくに人混みの中へ置いて行かれてしまったのだろう。


 それも大事なんだけどさ……


 「この運び方なんとかしてくれよ!!」


 「あ、ごめん」


 そう言うと俺を握っていた手を離した。頬は摩擦のせいで熱を帯びている。それだけで済んでいるのはきっとルイが何かしていたからであろう。


 多分普通なら肉がえぐれている。というよりも肉だるまになっている。これじゃあルイは聖獣という気高い存在ではなくひきこさんだ。悪魔だ、悪魔。


 俺はゆっくりと立ち上がり、ポンポンと土を払いのける。運び方が雑、ということを除けば今まで最も速い移動方法だった。


 「で、どうしたんだよ」


 「感じたんだ、ベビーボアーはこっちにいるよ」


 そう言って地面から離れて宙に浮いた。そして小さな指を正面に向けて指した。俺はその方向を注視する。


 そこはもう人里離れており、やや廃れている家が立ち並んでいる。廃墟になった村みたいだ。本当にこんなところにいるのか?


 そもそも、畑なんてあるのか?


 「良いのか? イミュのやつを置いてきて」


 それを言った直後、ルイは固まった。そしてこちらを見て少し冷や汗をかきながら、らしからぬしかめっ面で重々しく口を開いた。


 「あれは……人攫い。近寄ってはダメだ」


 「……いや、え? 何言ってんだ?」


 人攫い? あいつが? 子どもだぞ? それか、あれか? やっぱり魔獣を食うっていう提案に納得できなかったのか?


 そんな理由で……。


 「……人質だよ。金を限界まで搾り取った親元へ返す代わりに、新しい人質をつくるんだ。そして、同じ工程をする……。よくある手段だよ」


 「どうしてそう言い切れる?」


 「簡単に言えば殺気だよ、消し方が子どもだから未熟すぎるんだ。君を騙せても僕は騙せないよ」


 なんか心外だな。最後の言葉以外はまあまあ、良いだろう。いや、ここは俺の経験不足と言っておこう。


 俺はルイに全面の信頼を寄せている。だからルイが嘘をついていることはない、そう思っている。今、俺が頼れるのはこのお猫様だからな。いや、ほんとにお猫様。


 「じゃあ、全部……」


 「そう、君を守るため。手荒いけどあれが一番だったんだ」


 なるほどね。それじゃあ、イミュが来る前にクエストを片付けるとするか。


 ベビーボアーが何体いるか知らないけど、さっさとやるか。戻って来て厄介ごとになるのはごめんだ。


 「行こうか」


 そう言って俺はルイが示した方向へ駆け出した。もう、人々の視界はゼロに等しかった。


 ……このところ落ち着かないよね。ほんの数日前までは家があって、安心できる場所があって、師匠がいて……。普通の生活を送っていたはずなのに。


 ルミアやルイと知り合って、家を燃やされて、師匠もいなくなって、今度は人攫い。何か呪われているのかも知れない。だとしたら、神社か何かに行ってお祓いでもしてもらわないと困るな。


 この場合はなんだ、家内安全か? いやいや、家なんてないし。交通なんて……いや、ルイに雑に扱われなくなるか。どのみち、命優先だ。死ぬことがないようにしないといけない。


 少しずつ、天災にあったかのような廃屋たちが近づいてくる。近場で見ればその凄惨さが細部まで見えてくる。何かしらによりつけられた傷、穴の空いた屋根。崩れた家、カラスのように黒い鳥や虫が蔓延り、人っ子ひとりいない。


 まるでこの別世界にやってきたかのように……。


 「ほんとうにここにいるのか?」


 「そのまま真っ直ぐだよ、そうしたら大きい畑が見えてくるはず。そこにいるはずだよ、大した敵じゃないから倒せるはず」


 なるほどねぇ……。あのデーモンベアーだったっけ? あれほどでないなら余裕だ。


 俺はそのまま垂直方向へと進んだ。いくつもの家々を視界から消えていき、一つの大畑へと辿り着いた。その背後には大きな森があった。


 「……あれー、おかしくない?」


 「あはは、なんでだろうね?」


 その畑の作物を荒らしているというベビーボアーはルイによると大したことがないとか。ということは小さいし、数も少ないはず。


 その畑にいた者……それは


 「何で……何もいないんだ?」


 「うーん……ヘルデンの足が遅いからじゃない?」


 いや、そんなことはないだろ。もしそうなら、ルイが運んでいるはずだからね。


 まさかルイが気配探知をミスった? いや、そんなことはない。悔しいけどルイは聖獣……そんなケアレスミスをしてしまうことはないだろう。


 「……この先の森?」


 「いや、そんなことはないよ。確かにここで合ってるよ」


 ……ではどうしてここにいないのだろうか。もしかしてあれか? この畑の下に何かダンジョンみたいなのがあるのかな。それとも、透明化? いや、そんなこともないか。


 「あっ、ごめん。これだ」


 そう言ってルイはその場にしゃがみ込み、とある物を申し訳なさそうに見ていた。


 「……しょーもねぇぇ!!」


 そこにあったもの。それは………


 「角かよぉぉぉお!」


 ベビーボアーが残したであろう鋭い角。ルイはその隣に座り込み「あはは」といって苦笑いしている。


 どうやら、どんなにすごい者でも簡単なミスをしてしまうらしい。俺はそのとき身をもってそれを知った。



 ***


 その同時刻、イミュは人気のいない裏路地でとある人物と対話をしていた。


 「……失敗か」


 「聖獣に悟られました」


 「聖獣使いとは……これはかなりのやり手だ。加えてその聖獣はどんな様子だった?」


 「はい、大したことはないです。魔法を使える様子もなかったです」


 「これはたんまりと搾り取れそうな僕ちゃんだ。きっと良い家の出に違いないだろう。くくく……この国に来てからというもの良いことしかない。イミュ、何としてもあの子どもを捕まえろ」


 そう言ってイミュの隣にいる人物はニヤリと怪しく笑う。


 「はい」


 そう言ってイミュはその場を後にし、流水の如く動き回っている人混みの中に入っていく。


 その場に一人残された怪しげな人間はイミュが向かった方向とは逆の方向へ歩き出す。


 「国とは結局は臣下で成り立つもの。王とはお飾りに過ぎないのだよ。一人では何もできない赤子も同然。もうこの国の未来は私のものだ」


 その言葉をその場に残してその人もまた人混みの中へと入ってしまった。


 


 


 


 


 

 

 

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