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第十四話 クエスト

 「おい! 坊やたち大丈夫か!」


 延々と立ち上る黒煙と炎が人々を集めたのは俺たちが火災発生を知ってから数十分後のことだった。もうその頃にはほとんど家の原型など留めておらず、あるのは灰のみ。


 「おい、やべぇぞこれ!」


 野次馬が次から次へとあらゆる方向から人が集まってくる。村の住人なのだろう。みな、顔には一雫の汗や焦りの顔を持って現れる。


 そんな人たちとは裏腹に俺とルイはもう冷静になっていた。なぜなら、もう諦めているから。俺は野次馬の中からこのことについて何か知らないか尋ねる。


 「誰でも、なんでも良いです。何か知りませんか?」


 明らかに場違いだが、人々は互いに顔を見合わせてブツブツと何かを言っている。


 普通ならこの群衆の中で誰かしら名乗りをあげて情報を出すのだろうが、誰も何も言ってこない。


 まさか、誰も知らないのか? いや、そんなことはないはずだ。これだけの被害があったんだぞ。


 「ダメだ、相当なやり手だ」


 ルイがやや諦めの声で言った。一体どこから来たんだ、そんなやつ。なんの目的でこんは最果ての地に……?


 いや、可能性としてはあり得ないが一人いるじゃないか。ここまで俺たちを弄ぶかのようにして行動できる人物がただ一人だけ。


 その人物こそ黄金色の瞳をもち、百戦錬磨の豪傑を彷彿とさせる、俺の師匠。だが、あり得ない。こんなことをする理由はなんだ。そもそも、本当にあの人なのか……。


 「ルイ、今日中に行こう」


 「だね、もう家の中にあるものは全て燃えてしまった。使い物になるものは一つもない」


 もしも、師匠がこの家を燃やすことを前提にしていたのならば木製であることが納得できる。


 「ここから西に行ったところに腕自慢が集まるユトネル王国があるからそこに行こう」


 周囲の雰囲気とは裏腹に俺たちはもう現実を受け入れて次の目的地に向かって発とうとしていた。


 そうして俺たちは再び剣に乗り飛空して行った。それを見た人々の顔は驚きでいっぱいだった。


 次に師匠にあったら全てを聞き出す。



 ***


 「ここがユトネル王国か……」


 俺たちは数十分の飛空の旅を終え、着陸した。地面に降り立つ時の平衡感覚も先ほどよりも早く安定していた。


 俺の想像では煌びやかに眩しく、人々が賑やかで歩き回り、豪華な街をイメージしていた。しかし、現実とは大きく違っていた。


 街は確かに活気がありキラキラとして、高いビルのようなものが中心にそびえ立っていたが、人々の中には元気のない人もおり、ツルが巻き付いている石の建造物まであった。


 「おかしいね、ユトネルがこんな風になっているなんて」


 「こんな状態では仲間探しなんて難しそうだね。何があったか聞いてみよう」


 俺たちは早速、商店街のように賑わっている通りへ入りそこで聞き込み調査を行うことにした。


 はじめに声をかけたのは茶色の髭を蓄えて気前の良さそうな中年の男。俺はなぜこんな状態なのかと聞いてみた。


 「噂程度にしか聞いたことないが、つい最近一人の珍しい男が国王に謁見したらしいんだ。いきなり王様に会えるんだからすげぇやつに違いないんだが、そいつがきてからだ。街で子供の誘拐事件が発生しだしたんだ。例えばほら、あの女性を見てみろ」


 そう言われて男が見ていた方向へ視線を移す。壁にもたれていたのは顔がげっそりとやつれ、青くなっている若い女性。見た目的に病気、ではないだろう。彼の言う通り子供が連れて行かれたんだろう。それから、必死に探しても見つからず精神を病んでしまったのだろう。


 「あの人もこども三人全員連れてかれたんだ。あんたも気をつけるんだな、くれぐれも夜に出歩くなよ?」


 三人……全員か。というか、確かに今の俺子どもだ。俺も標的になるのだろうか。だとしたら好都合だ、返り討ちにしてやる。


 「うーん。ここ以上に仲間集めに適している場所はないから、留まるしかないね」


 ルイもやはりそう思ってるのか……。なら、やはり情報を集めないとな。その男とやらの情報を集めていかないと。


 「警告するけど、今の君が事件解決を目論んでも難しいよ。体格差があって君も巻き込まれちゃう」


 くそ……子どもの姿ってなんて不便なんだ! 何か行動するたびにに制限を設けられる。その理由のほとんどが子どもの姿だからか……。


 「ねぇルイ、身体の成長を促進させる魔法とかないの?」


 「そんなの呪いくらいだよ、呪いに当たったら姿が戻らないし。ともなく、急に君が成長することはできないよ」


 「はぁ……。じゃあ、とにかくこの状況で仲間を募ろう」


 俺たちは事件解決に尽力したかったが、現在は不可能なためとりあえず冒険の仲間を集めることとした。


 ていうか、俺たちは仲間を探さなければいけない、という課題もあるがそれ以上に困っていることがある。


 金だ。手元にあるのはたったの銀貨十一枚だけ。これで生活なんてできるわけもない。家にあった食材やらベッドやら安心して生活できる場所を奪われてしまった。


 耐えることができるのは数日だけだな。どうにかして金を稼がないと……。こうなったらバイトか、なにかしてみるか……?


 「なぁルイ、何かお金を稼ぐ方法はない?」


 「そうだなぁ、やっぱりいいのはクエストだよね。年齢関係なく受けれるし、報酬がもらえる」


 「よし、じゃあそれやろう」


 「じゃあ、ギルド集会所に行こうか」


 そうして俺たちはギルド集会所へ向かった。ギルド集会所はユトネルの街の中央にある。俺たちは人混みを抜けて中心部へと向かった。その途中でやはり、元気のない今にも死にたそうにしている人々がいた。


 俺は自分の無力感に押しつぶされそうになることに耐え前へと進んだ。


 「うわぁ……人が多いな」


 言うならば酒場。ほとんどが大人が酒を手に飲み食いをしてガヤガヤ騒いでいる。子どもも中にはいるがそこまで多くない。だが、大人が多いせいで逆に子どもが目立つ。種族も多種多様。多文化社会と行ったところか……。


 「すみません」


 俺たちは人の間を切り抜け、受付へと辿り着いた。教籍所(きょうせきじょ)にいたような身なりをした受付嬢がいた。


 身長が低いせいか初めはどこにいるか分からずキョロキョロしていた。やっぱり不便だな。


 「申し訳ございません……! いかがされましたか?」


 「クエスト一覧を見せてもらってもいいですか?」


 そう言うと受付嬢は「分かりました」と言って、クエスト一覧が俺の目の前にデジタル化して現れた。


 すげぇな! こっちでも情報化社会が少し進んでいるのか。やっぱり時代はデジタルだよね。


 俺はスクロールしながら良いクエストはないか探す。報酬にはものをくれる場合やお金をくれる場合もある。今はお金を稼がないと。


 「……これにするか」


 「……? どれどれ?」


 ルイはじっと見てタイトルを心の中で読む。そこに書かれていたのは「迷子のベビーキャット探し、報酬は弾みます」だ。なぜこれを選んだのか、簡単だ。ルイは猫だ。つまり周囲に猫がいるかわかるだろう。


 いやー、うってつけのクエストだなぁ。俺は満足そうに頷いていたが、ルイはやれやれと言って口を開いた。


 「言っておくけど、僕は猫と会話なんてできないからね?」


 「……え?」


 「僕は聖獣だよ? 忘れたの? 他の聖獣となら会話できるけど、この姿をしているからと言って猫と会話できないよ、種族が違うし」


 俺はその場に膝から崩れ落ちた。先に言ってくれよ……。めっちゃ良いクエスト見つけたと思ったのに。じゃあどうしようかな。どのクエストなら良いかな……。俺はそのままの体勢で考える。


 すると、声をかけられた。


 「お前何かあったのか?」


 えらく幼い声だが、声色的に男であることは分かる。俺は立ち上がりその人物を見た。獅子色の髪に髪と同じ色をした眉毛、目は烈火の如く燃え、色こそ異なるが俺と同じように青色のレースアップシャツを着て、腰には剣を携えている。


 「あぁ、いや、大した問題じゃないよ」


 「そうか、なら良いが。ん? なんだ、そいつ」


 ルイを見てそう言った。俺はそこではたと悟った、どうやら全員が聖獣を知っているわけではないらしい。俺が説明しようとしたがルイが自分から語り出した。


 「僕は聖獣だよ。この子のね」


 「へぇー、精霊なんているのか。お前なかなか可愛いな」


 そういうとルイの頭やら耳やら尻尾やらを触る。この世界で猫とはどんな存在なのだろうか……。珍しい生き物なのかな? もしそうなら、先ほどのクエストで報酬ははずむと書いていたのも頷ける。


 「で、何してたんだ?」


 その少年はルイを抱えながら言った。俺の時は暴れたくせに……こいつめ。


 「クエストを受けようかと思ってたんだ」


 「おぉ、奇遇だな。俺もそう思ってたんだ、どうだ? 一緒にやらないか?」


 おぉ、なんというベストタイミング! これなら多少難易度の高いものを受けても問題なさそうだ。本当は仲間としたいが、まだ出会って間もないしな、そこは仕方ない……。


 「そういえば、戦いの心得はあるのか?」


 少年は俺をみて少し怪しそうに言った。もちろん、つい最近ようやく魔物と戦ったけど、問題ない。


 「あるよ、大丈夫」


 「よし、それなら……これにするか」


 そう言って彼は一つのクエストをチョイスした。畑を荒らして回る、ベビーボアーの討伐らしい。報酬は銀貨十枚だ。


 「報酬は半分こにするか」


 「了解」


 そうして俺たちはベビーボアーの討伐のクエストを受諾した。集会所を出る寸前に一人の大柄の男に声をかけられた。


 「おいおい! ガキが剣なんて持ってどこ行くんだ? まさかごっこ遊びかよ? ヌハハハハハハ!!」


 男は荒くれ者のような姿をして、胸は毛むくじゃらで口周りには手入れされていないであろう粗末な髭が生えている。

 俺は突然の出来事に声が出なかった。種族は同じ人間だが、同じ種族でもこんなことあるんだな。こういうことをしてくるのは別のやつらだと思ってたけど、認識を改める必要があるみたいだ。


 俺たちはそれを無視していこうとしたが、俺は男に肩を掴まれた。その力は凄まじく、潰れそうなほどだった。


 「なんですか……?」


 「その剣を置いていけよ、俺様は金が欲しいんだ!」


 そういうといやらしい笑みを浮かべた。なんだよ、結局金かよ……。しかも子どもに手をあげるなんて大人気ないやつもいるもんだなぁ……。


 「なら、俺たちみたいなひ弱なやつよりも中にいる強そうなやつに言えば良いじゃねえか。もしかしておっさん、弱いやつにしかイキれないのか?」


 彼がそういうとおっさんの腕の血管が隆起した。俺を雑に飛ばすと彼に向けて背中にある大斧を手に取った。


 「ガキ、調子乗んなよ? お前らごときは黙って金を渡してママのもとに帰れば良いんだよ」


 それを見た彼は慌てなかった。剣を抜くこともなく落ち着いて話をした。俺とルイは黙って見届けるしかできなかった。


 「だいたいおっさん、みっともねぇぞ。こんな子ども相手にムキになって武器まで持ち出すとは」


 「うるせぇ! さっさと金を置いていきゃあ良いんだよ!」


 男はその後も大声で話していたため、周囲には人が続々と集まって来た。


 その中で集会所から出て来た一人の男が暴漢のそばへ行く。彼よりも一回り小さい男はやれやれと、眠そうな瞼をあげてコツコツと歩いて行く。その瞼のしたには紫水晶の瞳が顔をだしていた。サラサラとオレンジ色の髪を揺らしながら暴漢の肩を叩きながら言った。


 「その子の言う通り、お前みっともねぇぞ。だいたい、金なんて稼げば良いだろ?」


 「引っ込んでろガイル! 俺は今、このガキと話してんだ」


 そう言うと肩に乗っていた手をどかした。ガイルとやらは「はぁ」とため息をつくと、突然勢いをつけて肘を暴漢にねじ込んだ。


 「ゴリっ」という鈍い音とともに暴漢はその場に仰向けになって倒れた。


 それと同時にガイルは少年に謝罪した。


 「申し訳ない、彼に代わって謝る。彼にも事情があってな、今のうちに行くんだ」


 そう言うとガイルは周囲の野次馬にも謝罪をした。良い人なのになぁ、あの暴漢には勿体無いな。


 「行こうか」


 そうして俺たちはベビーボアー討伐に向けて出立した。


 

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