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第一話 吸い込まれた少年

 俺の名前は篠崎康孝(しのざきやすたか)。絶賛高校生活を謳歌している学生だった。


 俺は今、訳あって異世界にいる。辺りには何もない、あるのは青々とした草と、真っ青な空、そこに浮かぶ綿菓子のような雪色の雲。


 そしてなにより……


 「小さくなってる」


 俺がなぜ、こうなっているのか、過去を振り返る。


***


数時間前――


 

 「……」


 「おい、康孝。どうした?」


 「あぁ、いや。なんか、あそこの湖が気になって」


 俺はいつの間にか、歩き出していた。いつもの帰り道、何気ない日常だった。


 だが、その日俺はいつもは見向きもしない湖に惹かれた。それがキーになるとはこの時知る由もなかった。


 その湖は俺の地域では大きな方だった。深さは知らないが、縦横は40mくらいはあったと思う。


 「あ、おい! 康孝!」


 その湖では毎日のように、子どもたちや、その親が遊んでいた。


 夏になると一層人は増え、冬になると表面に厚い氷ができ、最高のスケート場になった。


 だが、この日事件が起きた。


 「誰か! 助けてください!」


 俺の耳に入ったのは、助けを求める声。


 声の方を振り向くと、一人の母親らしき人物が、子を抱えながら陸地へ向かって泳いでいた。


 周囲の人にも聞こえていたが、人々はなぜか助けようとしなかった。


 俺はバックをその場に捨て去り、湖へ何の躊躇もなく飛び込んだ。いつもなら、絶対にこんなことはしない。踏みとどまり、助けるか否か、迷っていた。


 「おい! 子供が飛び込んだぞ!」


 俺は一心不乱にその母子の元へ泳いだ。おかしいな、俺は人並みに水泳はできるが、自信があるわけではない。


 無我夢中で泳ぐと、母子の元へ辿り着いた。


 だが、それと同時、ボートが突然現れた。きっと、人々はボートが来るのを分かっていて飛び込まなかったのだろう。


 「さぁ! 早く!」


 母は真っ先に子どもをボートへ乗せ、次に自分が乗った。二人とも長く水に浸かっていたことにより、身体が震えていた。


 「さぁ、君も!」


 ボートに乗る初老のおじさんが手を伸ばす。俺はその手を掴もうとした。


 しかし、俺はその手を掴めなかった。


 俺の両足が突然、水中へ引き摺り込まれた。足を見れば、何もない。俺は必死に上へと上がろうとするが、上がれなかった。


 引きずる力が強く抵抗むなしく、俺は水中へ誘われた。


 そして、いつの間にか酸素は枯渇し意識が保てなくなってきたとき、俺が最後に見たもの。


 それは、日食のように太陽が多い隠され、暗闇に染められていくことだった。それは、俺が水中へと誘われていたから太陽が届かなくなっていたからなのかもしれない。


 


 俺がきていた服はいつの間にか変わっていた。ネクタイ、ワイシャツ、ズボンがなくなり、簡素な薄手の薄黄色の服、青い短パンになっていた。


 そして、先ほども言ったが歳が若くなっている。見た目が幼くなっているのではない。歳が若くなっているのだ。


 首を触れば喉仏がなくなり声も高くなり、体毛も薄くなり、身長も縮んでいた。


 推定年齢は小学生くらい。何年生かは分からないが、それくらい縮んでいた。最低でも十六の半分である八歳くらいだと思う。


 俺は目の前にあった川が目に入った。俺はその川の美しさに目を奪われた。日本の川とは段違いのレベルだった。万物を透かすかのように透明で周囲にある草とマッチして幻想的な世界を創り出していた。


 俺は川の反対へ移り、水を飲んでみる。


 不思議とその水は甘かった。普通、水は無味だがここの川の水は甘かった。


 俺は、その場に仰向けになった。いつしか、こんな場所で暮らしたかった。美しい場所で静かに暮らせること、それが俺の夢だった。


 俺の夢の半分が叶った、そう言っても過言ではない。


 「……なんか、意図的に誘われたら気がするなぁ」


 やはり、いつもの自分と違った。あんなふうになるのは正気の沙汰ではないと自分でもわかる。


 ヒューと優しく身体を打つそよ風が心地良かった。加えて春のようにポカポカとほのかな暖かみが身体を暖めてくれる。


 それは睡眠へと繋がった。


 俺はいつの間にか目を閉じて寝てしまっていた。どこかも知らない土地で、誰もいない場所で、ただ一人、誰にも邪魔されることなく。


 子どもがこんなところで寝ていると、良くないことへ繋がる。そして台本に書かれているかのように案の定、俺は何者かに連れて行かれていた。


 ***


 「おっ、起きたか?」


 次に目を覚ますと、俺は先ほどの幻想世界とは打って変わり、木材に囲まれた建物の中にいた。


 そして目の前には人がいた。人だ、先ほどまでいなかった俺の世界に人が訪れた。いや、俺の世界じゃないか。


 「あの、すみません。ここは、一体……」


 「まぁ君には説明しないとな」


 俺は純白のフッカフカのベッドにいた、その右には十字の窓が、そして、目の前に椅子に座る男が。


 年頃は三十くらい? だが、髪は大雪のごとく白く、眉毛は薄く、瞳は黄金の光を放っていた。


 「まず、俺の話を最後まで聞いてほしい。あっ、君に危害は加えないよ、そこは安心してね」


 と、男は優しく話してくれた。だが、こういうのはやや信用できない。とりあえず、話があるみたいだから聞いてみようか。


 「初めに、君はもう死んでる」


 「はぁ?!!!」


 「ま、まぁ最後まで聞いてくれ」


 「聞いてられっか! 死んでるだと!?」


 俺はその場で叫び出した。そんなことをいきなり言われて落ち着いてられるか!


 そんな俺をよそに、男は少しため息をつくと、人差し指を横へ振ると俺の口が強烈な何かにより強制的に閉ざされた。


 「!?」


 「悪いけど、時間がない。手荒な真似はしたくないだ、聞いてくれ」


 「さっきも言ったが、君は一度死んでる。先ほどまでいた世界は死後の世界だ。俺は死後の世界の管理人、君の世界でいうと死神かな?」


 俺の世界だと? どいうことだ。


 「ここは君がいた世界ではない。別世界だ。不思議なことに異分子の君が何かの手違いでこの世界にやってきた、原因は時空の歪み。すぐさま君を送り返そうとしたが、なぜか君を元の世界へ送れなかった。何度やっても、君だけは返すことができなかった。こんなことは初めてだ。

 元の世界に帰られない以上、君はこの世界に留まるしかない。この先も調査をして、原因が分かり次第君を元の世界へ帰す。だが、君が存命だった場合だ。もし、死んでいた場合、君の魂に残っている前の世界の記憶が消去されもう二度と戻れなくなり、この世界で輪廻転生することになる。以上だ」


 そう言うと、俺の口が軽くなった。つまり、喋ることが可能になった。


 「あの、聞きたいのですが」


 「?」


 「あなた方から、俺を連れてきた、ということはないですか?」


 そう言うと、男は顎に手を当てて考え始めた。考えている時点でその可能性もありうるのか……。


 しばらく彼は考え込んだままだった。そして、彼が口を開いた。


 「考えてみたが、それはないな。なにより前例のないことだ。それに、この世界の人間が君に召喚する理由がない」


 「なるほど。あの、この世界に魔法はあるんですか?」


 先ほどの俺の口を閉じさせたのは間違いなく超能力、いや魔法に違いない。


 そうとなれば俺は帰りたくないな!!


 「あぁ、あるぞ」


 「よし、では解決しました」


 「どういうことだ?」


 「俺は、この世界で暮らします。なので、元の世界に返す必要はないです!」


 「はぁぁあ?!!」


 先ほどの立場が逆になり、今度は男が驚いていた。俺は頷く。うん、この世界にどれほど夢見たことか……。


 正直この世界で生きていけるならば、俺は帰れなくても良い。この世界で生きていきたい。


 「……まぁ、君がそう言うならば良いが」


 「よっしゃ!」


 「生きていくなら、この世界のことについて教えるぞ」


 「あの、時間がないって言ってませんでしたっけ?」


 「お前が帰らないと言ったから、時間が有り余った」


 そうして、俺は男、いや死神とやらからこの世界のことについて沢山教えてもらった。


 この世界には俺の世界とは違い、魔法や剣がある。すごい! 本当にあったんだ!


 この世界の基本的なことに難しいことはない、俺がいた世界と生活の仕方は何ら変わりない。それにはしっかりと理由がある。


 俺がいた世界とこの世界はもともと、一つだった。だが、この世界を創り出した神が魔力のない人間が暮らしたらどうなるのか、という実験のために創り出したのが俺がいた世界だったらしい。


 つまり、兄弟のような関係性だ。だが、いつの間にか罪を犯した神を閉じ込めるために俺の世界へ送り込み、その神が戻ることがないよう関係が断絶されてしまったらしい。


 だから、俺のようにあちらの世界からこちらの世界へやってくるのは異例中の異例だったらしい。


 こんな感じだ。本当に大まかだが、俺はそんな感じで頭の中で整理していた。


 「あと、お前は孤児という設定であの人に世話してもらえ」


 死神さんが指差した先には一人の男がいた。その男は大柄の男で若く華やか、というわけではなく、歴戦の強者というイメージを彷彿とさせる男が立っていた。


 きている服は黒がベースの白銀色で縁取られた服装をしていた。眼力は強く、瞳は青く澄んでいたが睨んでいるかのようだった。

 

 「あの人睨んでませんか?」


 俺はこっそり死神へ耳打ちをする。それに呼応するかのようにコソコソと返してきた。


 「睨んでない。生まれつきだ」


 「聞こえているぞ」


 その声は低く、恐怖の象徴とも言えるほどだった。そして、こちらへと歩いてくる。


 俺は何をされるのか分からず、少し震えていた。


 そして俺の前で止まると、少し驚いた顔をし、ため息をつきながら言った。


 「人を見た目で判断するな。俺はお前に危害を加えるつもりはない」


 俺はその言葉にフーと息を吐き安堵した。いや、信用できないけど、確かに見た目で判断するのはよくないな。


 「まぁいい、とりあえずこの世界で生きる術をつける。明日からだ、今日はゆっくりしろ」


 そう言うと暖炉の隣にある扉から出て行った。


 「まぁ、そういうわけだ。頑張って生き抜いてくんだぞ。あっ、そういえばあそこに書物がある」


 指を刺したのは暖炉のさらに奥にある、本棚。それは三段に分かれており、いくつもの本が収納されていた。


 「あそこから、本を選んで読むと良い。少しでもこの世界について知っておくと良いよ」


 そう言うと、自称死神も同じ扉から出て行った。


 何が何なのか分からないが、どうやら俺は人生を再スタートする機会をもらえたらしい。別に後悔があったわけではないが、新しい自分を形成して生き抜いていくのも良いかもしれない。


 俺はこれから始まる生活を胸を躍らせた。

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