7話:奪還
ユニオンソードには複数の古代魔剣士の疑似意識が宿っています。
真夜中の支部内は静まり返っていた。
建物は縦に広大だが、横にはあまり広がっていない。
封印室は地下にあり、医務室のある一階からは比較的簡単に辿り着ける場所にある。
もっとも、警備システムは整備されているし、守衛も配備されているだろう。
なるべく穏便に済ませたいが――やむを得ない事態も想定しておかなければならない。
医務室にはグラップリングガンは残っていたが、スパークジャベリンの姿はなかった。
遺跡内で壊れてしまったのか、それとも他の場所に保管されたのか。
いずれにせよ、見つかれば丸腰での戦闘を覚悟しなければならない。
俺はこの二年間の協会生活で培った知識を総動員して、警備システムの網をかいくぐる。
気配を殺しながら、地下へと続く階段へ滑り込んだ。
「ここまでは順調……でも、さすがに守衛はいるよな」
階段の影に身を潜め、封印室の通路をそっと覗き見る。
――そこに、守衛の姿はなかった。だが代わりに見慣れた三人がいた。
彼らは魔導兵装を装備していた。ひと目でそれとわかる、戦闘態勢。
「ペーターさんに、ゼータさん……ヨウタさんまで……」
その三人は支部でも屈指の実力者であり、固定チームを組んでいる精鋭だった。
かつて、俺が目標としていた存在たち――その背中を追いかけて、ここまでやってきた。
「――よぉ、そこに隠れてるんだろ、新人」
静寂を破ったのはゼータさんの声だった。
気配は完全に消していたつもりだったが、彼には通用しなかったようだ。
俺は意を決して、三人の前に姿を現す。
「まさか本当に来るとはな。……賭けはヨウタの勝ちか」
「だから言っただろ。魔剣士は、魔剣とは離れられないんだって。
――守衛と交代しておいて正解だったな」
ペーターさんの肩越しに、ヨウタさんがニヤリと笑う。
三人とも完全に余裕の態度だった。俺を制圧するのはたやすいと、そう確信しているのだろう。
それも当然だ。
今の俺が持っているのは、グラップリングガンただひとつ。
攻撃手段にも乏しく、身を守る盾すらない――。
「ずいぶん思いつめた顔してるけど……まさか、俺たち三人を相手にして強行突破しようなんて考えてるんじゃないよな?」
ゼータさんが皮肉っぽく笑みを浮かべる。
「俺たちも鬼じゃないさ。そのまま回れ右して帰るなら、見逃してやるよ。――変なこと、考えるんじゃないぞ?」
言葉とは裏腹に、ゼータさんもペーターさんも、その眼光に鋭さが宿っていた。
だが――俺は一歩も引かず、三人の前に立ちふさがる。
「……ペーターさん、ゼータさん、ヨウタさん。
どうか、そこを通してください。俺には……どうしてもユニオンソードが必要なんです」
万が一に賭けて、俺は懇願するように言った。
「ユニオンソード……それが封印魔剣の名前か。
……悪いが、あんな危険な代物を渡すわけにはいかない。魔剣廃棄法もあるしな」
ペーターさんはそう言い放つと、冷たい視線のままプロテクションシールドを展開した。
「――悪く思うなよ」
ゼータさんが静かに構える。
手にしたプラズマジャベリンは低出力モードに切り替えられていたが、その切っ先は間違いなくこちらを狙っていた。
一瞬の膠着――
そのとき、ユニオンソードの意思の一つ、《炎の魔剣士ライオウ》の声が頭に響いた。
『お前には、もう“戦う力”がある。そこらの資材でも十分にな。
この距離なら、俺たちがサポートしてやる。気にせず暴れろ!』
その言葉に応じ、俺は近くに立てかけてあった魔導パイプに手を伸ばした。
「おいおい、俺たち相手に魔導パイプかよ。流石に自暴自棄すぎないか?」
ヨウタさんの呆れ声。だが――
次の瞬間、その目が見開かれる。
俺は《炎纏い》の技を魔導パイプに施し、瞬時に赤熱化させた。
「バカか!? 相手が技を出してるのを黙って見てるヤツがあるかっ!」
ゼータさんが素早く照準を定め、雷槍を放とうとした。
しかしそこに、俺の姿は――もうなかった。
グラップリングガンで高速移動、真っすぐペーターさんへ接近!
「くっ、プロテクションシールドは抜けんぞ!」
迎撃しようとするペーターさん。その目前に、灼熱の斬撃が走った――
ズシャァッ!
赤熱した魔導パイプが、プロテクションシールドを容易く切り裂く!
「バカな……!?」
驚愕するペーターさんを横目に、俺は一閃。
後衛で構えていたゼータさんの《プラズマジャベリン》を切り落とす!
「お、俺の!? それ高いんだぞ!?!?」
「……本物の“魔剣士”ってやつか!」
ヨウタさんが臆せず詰め寄り、《ヒートアックス》を振り下ろす!
ガキィンッ!
俺はパイプで受け、炎纏いの出力を上げる。
次第に、熱に強いはずのヒートアックスの刃に――ひびが入った。
そして、両断される。
「うっそだろ……」
呆然とするヨウタさんをすり抜け、俺はさらに出力を高めた。
狙うは封印扉。技は――《爆炎斬》。
「おい、待て! よくわからんが、そんなもん建物内で放つなッ!」
ペーターさんの制止も振り切り、俺は全力で扉へ放つ――!
ズガァァァン!!
封印扉は、跡形もなく吹き飛んだ。
赤熱した魔導パイプは、役目を終えて崩れ落ちる。
そして、その先に――
《ユニオンソード》が、静かに横たわっていた。
「取り戻したぞ……ユニオンソード」
ビーッ! ビーッ!
再会の喜びも束の間、警報が鳴り響く。
扉を破壊した衝撃が、警備システムを起動させたのだ。
俺は、驚愕と混乱の中にいる三人の協会員たちを横目に、
支部の出口へと、全力で駆け抜けた――!
警報が鳴り響く中、彼は誰にも止められず、まっすぐに走り去っていった。
その姿を――フィーナは静かに見送っていた。
廊下の影に身を潜め、息を潜めながら。
それでも、目だけは、ずっと彼を追いかけていた。
(……やっぱり、止まらなかったのね)
どれだけ傷ついても、どれだけ孤立しても。
あの人は、自分の信じたもののために突き進む。
それが、どんなに危険な道でも。
「……ユーマ」
名前を呼ぶその声は、怒りでも哀しみでもなかった。
ただ、どこか寂しげで――誇らしげでもあった。
(私も……もう、決めなきゃ)
フィーナは迷いを振り払い、ユーマの背を追って走り出した。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
一区切りまであと2話となります。頑張って執筆しますので気に入っていただけたなら
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