6話:魔剣廃棄法
聖魔法は生命力を魔力に魔力を生命力に変換する魔法です、自分だけならゾンビアタックできます。
目を覚ますと、そこは見慣れた天井だった。
「……あれ? 俺、たしか遺跡で……ガーディアンと……」
「あっ、目が覚めた! よかった……!」
聞き覚えのある声が弾んだ。金色の髪が揺れて、顔をのぞき込んでくる。そこにいたのは、探索者になったときから何かと世話になっている治療師、フィーナだった。
「聖魔法で完全に傷は治したのに、全然目を覚まさないから……。ねえ、どこか痛むところはない? 魔力の流れに乱れは? 少しでもおかしかったら、すぐに言ってね」
心配そうにまくし立てるフィーナに、俺は自分の体の調子を確かめながら答える。
「いや、痛みはないし、魔力の流れも普通だよ」
その言葉を聞いたフィーナは、ようやくほっと息をついた。
彼女とは協会に入ったときの同期だが、そのころから変わらず心配性な性格だ。
俺は、ふと気になったことを口にした。
「なあフィーナ。俺と一緒に、魔剣みたいなものが見つからなかったか?」
彼女は不満げに眉をひそめる。
「ユーマ、こんなにひどい目に遭ったのに、まだ遺物の心配? あの魔剣なら、魔剣廃棄法に基づいて封印処理されたわよ」
「……なんだって?」
思わず声が上ずった。
魔剣廃棄法――それは、今から二百五十年前に帝国皇帝クロノによって制定された法律だ。
帝国領内では、魔剣の所持は原則として禁止されており、違反者には即座に帝国軍の精鋭部隊“魔剣狩り”が差し向けられる。
抵抗すれば破壊、捕らえられれば没収。情け容赦はない。
「……今、その魔剣はどこにある?」
焦る気持ちを押さえ、静かにフィーナに尋ねる。
「え? 支部の地下の封印室に一時保管してあるわ。でも――明日には、帝国軍が回収に来るって」
「……明日には、回収されるのか」
呟いた言葉が、自分の胸の奥に重く沈んでいく。
――ユニオンソード。
あの剣は、たしかにそう名乗った。規格外の力を持つ、ただの遺物とは到底思えない魔剣。
なぜ起動できたのか、理由はわからない。けれど、俺の中には――あの瞬間から――数えきれない剣技の記憶が、確かに刻まれていた。
今は距離があるからか、それらの記憶は薄れて曖昧だ。けれど、それが幻ではないと、確信している。
……だが、現実は厳しい。
帝国が定めた魔剣廃棄法。その決まりに、俺一人の力で抗うことなどできるはずもない。
そのときだった。
――ふわりと、頭の中に声が響いた。
「ユーマ、君は……剣を手放してはいけない」
やさしく、けれど強く語りかけてくる声。あの遺跡で、俺を導いた存在の声だった。
そして――次の瞬間、視界が白く弾ける。
……気づけば、まったく知らない光景が広がっていた。
空は、裂けていた。
巨大な亀裂が天を這い、そこから得体のしれない“何か”が、ぞろぞろと這い出してくる。
異形の群れが、地上にあふれ出しては人々を襲い、触れられた者たちは灰となって崩れていった。
叫び声。恐怖。混乱。そして、滅び――。
「な、なんだ……今のビジョンは……幻覚か? でも……あまりにも……現実的すぎる……」
再び意識が戻ると、そこは医務室だった。
「ユーマ! ユーマ、大丈夫? 聞こえてる!?」
フィーナの声が焦り混じりに飛び込んでくる。
目の前で揺れる金の髪。俺の肩を掴んで、真剣な眼差しで覗き込んでいた。
「いや、どこもおかしくないよ。大丈夫」
努めて冷静に答えながらも、俺の意識はさっきのビジョンに引きずられていた。
あの空の裂け目。そこから溢れ出す、化け物たち。
――あんな存在が、本当にこの世界に?
(いや……もしかして、これから現れるというのか?)
そのとき――。
「そうだ。あれ――《虚無の災厄》は、まもなく来る」
声が、頭の奥で響いた。さっきのような優しさではない。冷静で、理知的。どこか機械のように淡々とした響き。
(……虚無の災厄? あんなものが来るって?)
「それを止められるのは――ユニオンソードを使いこなす者だけだ」
心臓が、ひときわ強く脈打った。
(バカな。俺があんなのと戦えるわけがない……。俺は、ただの探索者で……剣だって素人なんだ。古代の英雄みたいに、なれるわけが――)
そんな弱音を打ち消すように、今度はまるで別人の声が響いた。
「強くなれ。お前の故郷には、強くなるための“答え”があるはずだ」
それは――懐かしい声だった。
俺が探索者を志すきっかけをくれた人。
故郷で世話になったあの引退した発掘協会員。
……おじさんの、どこか厳しくも温かい口調に似ていた。
夜も更け、支部内は静まり返っていた。
ユニオンソードを取り戻すまでの猶予は、もうほとんど残されていない。
隣ではフィーナが、小さな寝息を立てていた。
俺の枕元で、ずっと看病してくれていたのだろう。
聖魔法は、使いすぎれば生命力を削る。それを知っているからこそ、胸が締めつけられる。
「……ごめんな、フィーナ。俺、また無茶しなきゃならないみたいだ」
囁くように呟いて、そっとベッドを抜け出す。
足音を殺して服に袖を通し、腰のホルスターから愛用のグラップリングガンを取り上げた。
目指すは、支部の地下――封印室。
誰にも気づかれないように、俺は静かに医務室の扉を開けた。
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