9話:魔剣蒐集家
本文に書いてないけどレイノスは外套を付けてる。
魔導車から降りてきた男は、見たこともない魔導兵装をまとっていた。
全身を覆う装甲は帝国軍兵士が着用する黒い魔導鎧に似ていたが、紫色のエネルギーラインが縦横無尽に走り、まるで生きているかのように脈動していた。
右手には、プラズマジャベリンをも凌ぐ長大なライフル型魔導兵装。砲身には何層もの魔術刻印が施されており、重厚な魔力を帯びているのがひと目でわかる。
そして左手には、ひときわ目を引く――結晶状に輝く巨大な盾。
透き通る氷晶のようでありながら、周囲の空気すら凍らせるような冷気をまとっていた。
「驚かせることができたかな? 本来なら、通常の魔導車では明日までかかるのだが――私の《バーストゲイル》はとても速くてね。一日早く到着してしまったんだ」
男は微笑みながら、悠然と名乗る。
「突然すまなかった。私は帝国で魔導技師をしているレイノス。見ての通り、《魔剣狩り》に所属している。人によっては――“魔剣蒐集家”などと呼ばれているがね」
その瞳には、確かな自信と興味が宿っていた。
「どうしてピンポイントで追いつけたか、不思議に思っているかい? 君の《ユニオンソード》は特殊な魔力波を放っている。その波形は、《バーストゲイル》に積んである探知機で簡単に追跡できるのさ」
彼は肩をすくめ、軽く笑った。
「いやしかし、助かったよ。もし君が本格的に山道に入っていたら、《バーストゲイル》といえど追いつくのは難しかっただろうからね」
「できれば、徒歩で追いかけ回すような真似はしたくなかったんだ。感謝するよ、素直に」
「さて――お喋りはこのあたりにして、試させてもらおうか」
そう言って、レイノスはゆったりと右手の魔導兵装を構えた。次の瞬間――
ビシュン!
雷のような轟音と共に、雷槍が放たれる!
ピシュッ! バリバリッ!
目にも留まらぬ速さだった。避ける暇などあるはずもない。
「っ――!?」
反応する間もなく、俺の視界が白く染まった――
だが、ユニオンソードが咄嗟に反応する。
氷剣術《氷晶盾》が自動展開され、雷槍を正面から受け止めた!
ガガン!
盾が雷光を散らすが、威力を完全には殺しきれない。残った電流が全身に走る!
「ぐあああああっ!!」
焼けつくような痛みが体を貫き、意識が一瞬遠のいた。
……が、なんとか踏みとどまる。
レイノスは構えを崩さぬまま、静かに呟いた。
「ふむ……《デミ・イクス・フルグル》の攻撃を防ぐとは。
もっとも、手加減はしておいたんだがね――」
その声には、落胆というよりも、興味を失っていない“観察者”の色があった。
(あの雷撃をもう一度喰らえば、ただじゃ済まない。――ここは、一気に行くしかねぇ!)
俺はユニオンソードを握りしめ、剣先に炎を宿す。
構えるのは――《爆炎斬》の上位技、
《斉爆剣》!
《爆炎斬》を連続で重ね放つことで生まれる、極めて危険な剣技。
今の俺が使えば、反動で無事じゃ済まない――
だが、レイノスを退けられなきゃ、それこそ終わりだ!
「うおおおおおっ!!」
踏み込む!
剣に篭めた炎を一気に爆ぜさせ、**《斉爆剣》**を叩き込む!
しかし――
「……炎剣士の技か。残念だな」
レイノスは呟き、左手の結晶盾をそっと掲げる。
シュウウウィィィィン……
熱も衝撃も――まるで何もなかったかのように、掻き消えた。
「《ステイシスシールド》――
魔力が消えていく感触は、どうだったかな?
……なら、少し“お返し”しようか」
盾が眩く光り、次の瞬間――
ゴッ!
衝撃波が俺を吹き飛ばす!
「ぐああっ!」
宙を舞い、俺は地面を転がった。
地面に叩きつけられた俺は、意識が朦朧とする中で、どこか遠くから声を聞いた。
――「……あの技は《凍絶盾》。氷剣術の究極奥義よ」
それは、ユニオンソードに宿る氷剣士――マユラの声だった。
「なぜ魔導兵装で再現できているかは分からない。でも、今のあなたでは破れる術がないわ」
さらに、理知的な雷剣士――サイファーの声も重なる。
「……左腕の小手で魔力を増幅しているのだろう。
あれは、単一でも氷剣術との相性が極めて高い」
「本来は、《ユニオンソード》の真価を引き出すためのパーツだがな――
だが、今の状況では……手に入れるのは難しいか」
……つまり、現状で奴を破る手段はない。
「どうしようもないってことかよ……クソッ!」
俺は拳を握りしめ、地面を殴りつけた。
「――まどろっこしいな。見ているがいい」
それは、これまでのどの剣士とも異なる、冷酷で乾いた声だった。
すぐに、優しい声が響く。
「だめだ、兄さん。それはまだ早い……今は、無理だ」
だが、次の瞬間――
ユニオンソードが銀光を放ち、空間を裂くような剣閃が迸った。
ギィン――!
銀色の斬撃が、《ステイシスシールド》を貫き、レイノスの頬を浅く切り裂く。
「……なっ!?《ステイシスシールド》が……!」
初めて、レイノスの顔に驚愕の色が浮かんだ。
その剣閃の先――そこに、ユーマの姿はもうなかった。
「時剣術……か」
呟いたレイノスは、すぐに冷静さを取り戻し、ゆったりと《バーストゲイル》へと歩を進める。
「……まあいい。追うのはいつでもできる。まずは、陛下に報告をしなくては」
そう言い残し、レイノスは帝都へと帰還していった。
ここで1章は終わりです!ここまで読んで下さりありがとうございます。
ユーマの行方が分かる10話は頑張って執筆していますので今後もよろしくお願いします。
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