第七話 矯正者たちの対話
1.戦いの、あと
あの夜の戦闘から一日が経った。
演算区画《γ》は一部封鎖され、修復用の無人構築兵が往来している。
生徒たちの話題は、すでに“謎の黒いナユタ”に集中していた。
「アレ、マジでナユタだったのか?」
「いや、幻影か、能力の暴走じゃね?」
「でもさ、あいつ、あの戦闘の後でまるで別人みたいだった……」
それは、間違っていなかった。
君影ナユタは、“あの戦い”で何かを捨て、何かを手に入れていた。
──それは、“自分自身の定義”。
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2.メグの告白
夕刻、旧図書塔。
その最上層に、ナユタと雨月メグはいた。
二人きり。
「……話したいことがあるの」
メグは静かに切り出した。
「あなたと“オルタ・ナユタ”が戦ったあの夜。
あのとき、私……あなたを止めようと思ったの」
ナユタは黙って彼女を見ていた。
「でも、私のLogia……“時間固定”は、
感情が乱れると、未来がブレてしまう。あの時、私は未来を見失っていたの」
「それは……恐怖かい?」
「違うわ。……“哀しみ”よ」
メグは、懐から一枚のメモリカードを取り出す。
「これに入ってるのは、あなたと私の“実験データ”。
私たちは、もともと《コード・ゼロシリーズ》の初期試作体だった」
ナユタの瞳が細められる。
「つまり、“人工的に作られた構造者”──?」
「そう。そして……」
メグは一歩、近づいた。
「“あの夜、あなたを襲った存在”。
あれを送り込んだのは……セオリア学園そのものよ」
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3.“矯正者”の役割
「セオリア学園の本当の目的は、“矯正”」
メグの声が、暗闇に落ちていく。
「能力者を育てるための学園なんかじゃない。
彼らは、構造異常者──“人間の枠を越えた者たち”を監視し、
必要なら“調整”するために存在している」
「つまり、僕は“調整対象”だった」
「ええ。だけど……私には、あなたが“壊すべき対象”には思えなかった。
だから私は……“観測者”という立場を裏切って、あなたの隣に立ったのよ」
ナユタは静かに目を伏せる。
これまで“何者かに見られている”感覚。
唐突に起きた《オルタ・ナユタ》の出現。
すべては“試験”であり、“矯正”だった──。
「じゃあ、君は……ずっと“嘘”を……?」
「いいえ」
メグの目が揺れる。
「出会ったときは、任務だった。
でも……一緒に演算した夜から、君が泣きそうな目で回路を組む姿を見てから、
私はもう、“監視者”なんてやってられなくなった……」
その目に、涙が浮かんでいた。
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4.自分を、選ぶ
静かに、ナユタは彼女の手からメモリを受け取る。
過去の記録。失われた記憶。作られた存在としての己。
全てを知って、それでも──
「ありがとう、メグ。
君が“僕の選択”を見守ってくれるなら、僕はもう迷わない」
「ナユタ……」
彼女がそっと、ナユタに寄り添ったその時。
モニターが点灯する。
「緊急通達。特別区にて、未確認構造存在を観測。
《Code-01》反応。指定:Sクラス脅威」
「これは……!」
メグが青ざめる。
「“実験最終体”。私たちすら制御できなかった存在──
《本物の神》が、目を覚ました……!」