第二話『嘲笑う者たち』
翌朝。突如として、校内放送が鳴り響いた。
「本日、Iクラスに対する“適性試験”を実施する。
対戦形式:模擬淘汰戦。対戦相手はCクラス選抜とする」
その告知は、生徒たちの好奇の目を煽るためだけに用意されたものだった。
Iクラス、つまり君影ナユタと──新たに追加された雨月メグ。
彼女は初対面のとき、静かに名乗った。
「雨月メグです。クラス、変えられちゃったみたいで……一緒になった、みたい」
どこか影のある微笑み。けれど、ナユタの中に警戒心は生まれなかった。
理由はひとつ──彼女だけは、ナユタに“普通に”接してきたからだ。
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そして模擬戦当日。演習場《アリーナD》──
観客席には他クラスの生徒が集まり、嘲笑と期待が交錯する。
【Team I】君影ナユタ/雨月メグ
【Team C】煌堂ユウリ/西条レイ
開戦の号令と同時に、ユウリが前に出た。
「君影ナユタ。お前、Logia持ちじゃないんだろ?」
言葉と同時に、ナユタの体が動かなくなる。
腕も、足も、思考すら縛られる。Logiaの起動すら許されない。
「俺の《Logia:消却圏》はな、範囲内の能力を全て無効にする。
存在しない奴は消える。ただそれだけだ」
ナユタに殴りかかるのではない。ただ歩み寄ってくる。
だが──
「……なるほど」
ナユタの瞳に、銀の回路が浮かぶ。
脳内にある《零記の書》が、一瞬だけ開示された。
「君の能力……模倣させてもらったよ」
足元に描かれる模擬回路。
ナユタは同じ“無効化”の力を再現しながら、こう続けた。
「君の構築には“術者自身への耐性”がある。
だが僕の模倣には──それが、ない」
驚愕するユウリ。その体が、今度は自らの能力で縛られていく。
動けなくなった彼に、ナユタは無言で拳を突き立てた。
──吹き飛ぶユウリ。
静寂。
そして、沸き起こる喧騒。
「勝負あり!! Iクラス、勝利ッ!!」
その結果は、全校に衝撃を与えた。
観客席では、御鏡シイナが目を細め、焔月セラが口角を上げる。
アラン=クロフォードは舌を舐め、雨月メグは──静かに呟いた。
「……やっぱり、君だったんだね」
だがナユタは、それには気づかずに歩み去る。
──これは、まだ始まりに過ぎない。