第一話『最底辺の天才』
“理論を力とする者たちが支配する世界”──セオリア学園。
そこでは、すべての生徒が《Logia(論理装置)》と呼ばれる超知能型能力を持ち、その理力をもって競い、淘汰され、成り上がっていく。
だが、君影ナユタはそのどれにも属さなかった。
入学式当日──
校内中枢にある《審断塔》の前に、配属クラスの一覧が電子パネルで表示される。
【Aクラス】御鏡シイナ、焔月セラ
【Cクラス】煌堂ユウリ
【Dクラス】アラン=クロフォード
……
【Iクラス】君影ナユタ
周囲の空気が凍った。
「Iクラス……? そんなのあったっけ?」
「1人だけ?処分待ちってやつ……?」
「ヤバすぎでしょ、関わらんとこ」
視線の痛み。嘲笑のざわめき。
けれどナユタは、感情の起伏ひとつ見せなかった。掲示板から目を逸らすと、無言で歩き出す。
その背中に──肩を叩く気配。
「へー、君が“最底辺”の新入りかあ」
振り返ると、燃えるような赤髪の少女が立っていた。焔月セラ。Aクラス最上位、そして戦闘狂。
「Iクラスなんて、マジで初めて見たんだけど? バトルしようよ、面白そうだし!」
「……断る」
「えー、つまんな〜い。でもさ……」
少女はにやりと笑った。
「アンタ、ほんとは私たちより、ずっと上でしょ?」
ナユタは返答せず、そのまま立ち去った。
──戦う気がないのではない。
戦えば勝ちが確定してしまう。
それでは、何の意味もない。