最終話《存在証明(プロトコル:ナユタ)》
1.空白の世界
“君影ナユタ”の名は、世界から消えた。
存在を記録から抹消された者──
それは、本来であれば「いなかったこと」になる。
けれど、その“はず”だった。
朝。通学路を歩く御鏡シイナの胸に、奇妙な違和感が残っていた。
「……昨日まで、何か……誰かと……」
指先で触れた制服の胸ポケット。
そこに入っていたのは──
一枚の、色褪せた紙片。
そこに書かれていたのは、たったひとことの文字列だった。
『This is Me.』
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2.再起動された“証明”
一方、学園では急激な再構築が進行していた。
学園の演算中枢が一新され、教科課程に“ある変化”が起こっていた。
「この講義……“人間存在論”? こんなの前からあったっけ……?」
アランが怪訝な顔でページをめくる。
その講義の冒頭には、こう記されていた。
『理論を超える存在が、理論そのものの証明になる。
──これは、誰か一人の“証明記録”である。』
演算値:N-Y-Tα(抹消コード)
通称:ナユタ・プロトコル
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3.“再定義”の奇跡
旧校舎の屋上。
かつて、戦いのすべてが始まり、終わった場所。
そこに一人、白い学ランを着た青年が立っていた。
「……ここが、始まりと終わりか。悪くないな」
彼の名を、誰も知らない。
だが彼は、確かに“そこにいる”。
そして──雨月メグが、階段を駆け上がってくる。
「はぁっ、はぁっ……っ、あなた……誰……なのに……」
言葉にできない衝動が、胸にあった。
彼は微笑む。
「ナユタだよ。……君がくれた名前。
君が、最初に“信じてくれた”俺の、証明さ」
涙が、メグの頬をつたう。
「……おかえり、ナユタ」
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4.世界は、“君影ナユタ”という物語を継承する
再び、セオリアには日常が戻った。
だけど、その空気の中には確かにある。
“誰かが存在を懸けて、守った世界”の温度が。
新たな教室、新たな仲間、新たなページ──
それはすべて、
「理論を超えて、存在する意志」が紡いだ物語だった。
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最後の言葉
君影ナユタ。
君の存在は、記録ではなく、
人の心に刻まれた“物語”となった。
理論武装完了。
存在証明、完了。
この物語を、君に捧ぐ。