最終章 序章 《理論を超えて、存在となれ》
1.理論武装学園崩壊宣言
全学園生徒に向けて発信された、緊急構造通信。
そこに映し出されたのは、セオリア学園の最高演算統括機構──
《理論核》
「生徒、君影ナユタは、理論的“人間定義”を逸脱。
セオリアの演算秩序そのものを不安定化する存在と認定。
よって、彼の消去および“記録からの抹消”を開始する」
その瞬間、学園全体が変質した。
空が演算によって塗り替えられ、重力さえも書き換えられていく。
「……来たな。これが、セオリアという名の“神”か」
ナユタは、静かにその中心へと歩き出す。
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2.“人間とは、何か”という問い
「君は人間か?」
《理論核》の問いが、空間全体に響く。
「定義上、人間とは“不完全なる存在”。
だが君は、感情も理性も計算された“完成体”だ。
それは、果たして──“人間”と呼べるのか?」
ナユタは迷いなく答える。
「不完全だからこそ、僕は選び続けてきた。
迷って、傷ついて、それでも歩きたかった。
──それが、“人間”じゃないなら、何が人間なんだよ」
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3.最後の構造武装、《終端式Logia》
《理論核》が姿を現す。
それは無限に連なる数式構造と、光の輪で構築された“理論そのもの”だった。
「君の“自由意志”は、理論から生まれたものではない。
ならば、それは“存在エラー”だ──」
セオリアが、ナユタへ向けて終端演算を放つ。
《論理遮断・存在抹消式(Null-Trace)》
「対象の履歴を過去・現在・未来から完全に消去する」
──だが。
「構わないよ。僕が消えるってんなら、それでも。
でも、“僕の物語”は、もう他の人に受け継がれてる。
だから、これで終わりじゃない──」
ナユタが、自身の演算を重ねていく。
《最終構造展開:理論武装超越演算(Logia・ゼロ)》
《存在再定義:This is Me(これは、僕だ)》
「これは、“誰かにとっての物語”だ。
君影ナユタがいたと、確かに“残った”ってことを証明する──!」
演算空間が崩壊し、数式が涙のように空から降り注ぐ。
その中心で、ナユタは“理論”のすべてを抱きしめ、微笑んでいた。
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4.そして、世界は再起動する
光が収まり、目覚めたとき──
「……ここは……?」
御鏡シイナ、アラン、メグたちが目を覚ます。
セオリア学園は、いつものように朝を迎えていた。
ただ一つ、違っていたのは──
「君影ナユタ……? 誰、それ……?」
学園中から、ナユタの“存在”が綺麗に消えていた。
それでも、雨月メグは空を見上げ、涙を流す。
「……覚えてないはずなのに、胸が痛い……
誰か、大切な人がいた気がする──」
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5.終わりではなく、始まり
そして、丘の上の旧校舎跡。
ひとりの青年が、夕焼けを見つめていた。
「世界が忘れても、君の歩いた痕は、消えない」
彼が背負っているのは、再定義された“セオリア”の教科書。
その一番最後のページには、こんな言葉が記されていた。
『人間とは、存在を定義し続ける意思である。』
『君影ナユタ。理論武装・存在証明完了。』