第九話 英雄として、欠陥として
1.英雄、帰還
“神”との交戦から二日後。
君影ナユタたちはセオリア学園に帰還した。
だが──
「《理論武装学園・特別評議会》より通達。
君影ナユタを始めとする四名の生徒は、“規定外構造干渉”の疑いにより、
全権監視下に置くものとする」
「……は?」
御鏡シイナの声が鋭くなる。
「私たちは学園の脅威を排除したのよ? それを“規定外”って、どういう──」
「違う、シイナ」
ナユタは静かに呟いた。
「僕たちは“神に手をかけた”──それが、この学園にとっては“冒涜”なんだ」
彼の表情には、どこか諦観の色が浮かんでいた。
そして、空気が凍りつくような冷たい気配が、構造空間の彼方から──
⸻
2.“処理部隊”との遭遇
その夜、学園の演算中枢区にて。
「《選別部隊・イレギュラーチェッカー》──ナユタ、君影。
貴様を“欠陥構造”と認定し、排除する」
姿を現したのは、漆黒の戦闘制服に身を包んだ、
“処理部隊”と呼ばれる完全戦闘特化型の選抜生たち。
その中心に立っていたのは──
「やはり来たか、エリナ=クォーツ……」
ナユタの視線が、その紅い瞳を射抜く。
「“解析の貴女”が、僕を狩る役か」
「君が超えてしまったのよ、“観測限界”を。
私たちはこの学園の秩序を守る義務がある」
⸻
3.戦闘:制御不能構造演算
「ナユタ、行け!」
アランが飛び出し、構造剣を展開する。
しかし──
「遅い」
エリナが指先を動かすと同時に、アランの演算が中断される。
「これは……強制構造遮断……!?」
《Logia:構造遮断領域》
「対象の演算中枢に直接干渉し、“展開”という概念そのものを無効化する」
「そんな……化け物かよ……」
「いいえ。これは“秩序”よ」
エリナが冷たく言い放った瞬間──
「────その秩序ごと、書き換える」
ナユタが、爆発的に跳躍した。
彼の周囲に浮かぶ演算円が、赤から“漆黒”へ変わる。
「君たちは“正解”を使ってくる。
だけど僕は、“間違い”で戦う──!」
《虚数干渉・再定義》×《構造逆演算》──《Error-State Deployment》
世界が、一瞬バグった。
ナユタの手から放たれた構造光が、空間そのものを断ち切る。
⸻
4.「それでも、僕は──」
「君は、“破壊者”じゃない。君は、“君影ナユタ”だよ」
叫んだのは、雨月メグだった。
ナユタの眼差しが、一瞬揺らぐ。
「メグ……?」
「何者として生まれたって関係ない。
君が選び、迷って、それでも前に進もうとした──
その全部が、君という人間を証明してる!」
その言葉が、ナユタの核心に触れた。
世界の定義は、誰かに与えられるものじゃない。
“自分で選び取る”──その行為こそが、人を人たらしめる。
そして。
「もう“構造”なんてどうでもいい。
僕はただ、守りたいだけだ。君たちの“未来”を!」
ナユタが拳を構え、力を解き放つ。
《再演算構成・終端形式》
──“自分”という存在の定義を、最大出力で世界に刻みつけた。