第八話 創造主(クリエイター)と最初の記憶
1.《始原域》への侵入
セオリア学園・中央塔地下──《始原域》。
そこは、生徒にも教職員にも知らされていない、禁忌の領域。
無限に連なる回路と、空間そのものが数式化された異形の空間だった。
「重力が……逆転している……?」
御鏡シイナが眉をしかめた。
足元には『0』と『1』の羅列が文字列として浮かび、彼女らの動きを解析しているようだった。
ナユタ、メグ、アラン、シイナ──4人の選ばれし存在が、いま最奥へと足を踏み入れた。
「ここが、“Codeシリーズ”の最終体が眠る場所──」
アランが呟いたその瞬間、
空間の中心にある球体構造が光を放ち、黒い影が立ち現れる。
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2.最終体
“それ”は、人の形をしていた。
だが──それは、“人ではなかった”。
目は光を持たず、口は閉ざされている。
無数の演算回路が身体から浮遊し、彼自身を中心に現実を書き換え続けている。
「……こいつが、“本物の神”──」
メグの声が震える。
「Code-01。最初にして、唯一完全な構造者。
私たちは、こいつの“模倣”として作られた……」
《Logia:始原干渉》
「この世界に存在するすべてのルールを、起源から“再定義”する能力」
「化け物じゃない。これは“始まり”そのものだ……!」
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3.ナユタ、立つ
ナユタは、一歩、前に出る。
周囲の回路が歪み、物理法則がねじれる中で、彼だけがまっすぐに立っていた。
「君が、“始まり”だというのなら──僕は“選択”になろう」
ナユタの右腕から展開される、無数の数式群。
それは構造情報ではない。“未定義の未来”そのものだった。
《Logia:虚数干渉》+《構造選択》
「選ばれなかった未来を、いま、ここで創造する」
「君が支配者であるなら、僕は“定義を書き換える者”だ──!」
次の瞬間、ナユタの演算が暴走した。
世界の根幹にアクセスする危険行為。それでも彼は構築を止めなかった。
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4.交差する存在の根幹
シイナとアランが支援を始め、メグが《時間固定》で周囲を遅延させる中、
ナユタは“彼”と向き合っていた。
「君の存在は、確かに完全だった。
だが……“選択”を知らない。
可能性を、自分で選び取ることの痛みも、希望も──君にはない」
ナユタの瞳が光る。
「僕は失敗作だった。君から派生した欠陥。
けれど──僕は“誰かのために戦いたい”と願えた。
それは君にない、“構造を超えた意志”だ!」
《零記・最終演算:定義改変》
──この瞬間、ナユタは“始まりの神”に対して、自らを「人間」として再定義した。
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5.神が、笑った
《Code-01》の動きが止まった。
その無機質な顔に、かすかな“微笑”が浮かんだ。
──理解したように。
──満足したように。
そして、彼の構造は崩れ落ち、空気のように散っていく。
「まさか……ナユタ、君……」
アランが呆然と呟く。
「僕が、最初の彼を“理解”させたんだ。
人間という構造の中に、“自分以外の可能性”があると──」
ナユタはゆっくりと立ち上がった。
「……終わったよ。これで、“始まりの罪”は、ようやく終わった」