第688毛 リオン
シ「む?」
「!!」
メ「……シゲル様。この子は、きっと、セカイでは『あぶれ者』…スキルやチカラの『残滓』として、か…もっと可哀想な…扱いを受けてきたと思います。……今も………」
シ「…おそらく、そうでしょうね」
メ「はい。……ラックスも、スカルプ様も、今はまだ、この子を……受け入れては居ないかと思います。だからこそ、せめて……シゲル様や、私からまずは、この子と向き合いたいのです」
「……………メトリー……メトリー……………」
シ「ふむ…。理由は分かりました。私も、それに関しては問題ありません。…が、名付けを、私がしてもよろしいのでしょうか?」
メ「はい。私は、シゲル様にお願いしたく思います」チラッ
メトリーは、その者を見る。
「……………」
メ「……この子がここまで、ミタマ(この場合、心)を開いたように打ち明けてくれるとは思っていませんでした。シゲル様は…物事を公平に……客観的にミタ上で、『今』必要なお言葉をかける事ができる素晴らしい御方だと感じます。ぜひ、この子をミタ上での、シゲル様が考えるお名前を、この子につけてあげたいのです」
シ「…なるほど……。私を、買い被り過ぎな気もしますが……」
「……カブリ………モノ……………」
シ「誰が何を被ってんだ」
メ「シ、シゲル様……」
シ「失礼。取り乱しました。…貴殿は、どうでしょうか?」
シゲルは、その者を見る。
「……………」
シ「名は、非常に重要なものです。名がつく事により、自身が自身として『周知』される事になります」
「………マワ……リ………」
シ「はい。そして、貴殿という存在が、より、このセカイに認められていく礎になるかと」
「………イシ……ズ……」
シ「ややこしい言い回しをしてしまい、失礼致しました。いかがでしょうか? 貴殿が良ければ、お名を、考えさせていただければと思います」
「……………」
その者の目が
幾ばくか『輝く』ように
ジッと
シゲルを見つめる。
「……ナ………ナ………シゲル………シゲル………ナ……………」
メ「! ……シゲル様………」
シ「はい。肯定、という事ですね。では、僭越ながら。………さて………どうするか………」
シゲルは暫し思案する。
「………シゲル………ナ…ナ…………ナ……………」
シ「………ふむ……私のセカイの言葉を、多少用いるとすれば、ひとつ、思いつく名があります」
メ「!」
シ「…まず、先程もモウし上げたように、貴殿は貴殿として、確かに存在しています。これは、何者にも代えがたい、『貴殿そのもの』が唯一無二という意味であり、私のセカイでは『オンリーワン』等とあらわす事があります」
メ「!!聴いた…と言いますか、書物で読んだ事があります!!」
シ「ほう。さすがはメトリー氏」
「……オ……オン……リ………」
シ「はい。…ただ、そのままですと味気ない。なので」
シゲルは
その者の目を真っ直ぐ見つめる。
シ「『リオン』。…この名は、いかがでしょうか」
ザワ………
メ「!! (……何だか………空気が……………)」
その瞬間
セカイに
ただひとり
唯一無二の
リオン「………リ……オ………ン………リオン………リオン……………」
シ「はい。いかがでしょうか?」
リオン「………リオン…リオン!!リオンリオンリオン!!オレ……リオン!!!!オレ………」
リオンは
小刻みに震えながら
興奮したように『自らの名』を繰り返し口にする。
シ「ハハハ。気に入っていただけたなら、何よりです」
リオン「リオン!!オレ、リオン!!シゲル!!リオン、ラックス!!ナカ…ク!!」
シ「ハハ、そうですね。ラックスともキチンと向き合い、仲良しになっていきましょう」
リオン「ナカヨシ!!ナカヨシ!!ラックス、ナカヨシ!!」
その者
リオンが心底嬉しそうにするのを
メトリーは感慨深げに
見つめていた。




