第686毛 痛い/イタイ/居たい
メトリー「!! …それは……」
シゲル「はい。周りには誰もいない状況で、ラックスが『誰か』と会話を交えている場面の事です。『念話』というものがあると知った後は、それかな、とも思いましたが、我々が旅の途中で『念話』を用いる事になった際のラックスの様子から、どうも違うようだ、と感じました」
「……………」
シゲル「失礼。だいぶ長くなってしまいましたね。ここまでをお話ししたうえで、再度お尋ねします。私には、貴殿が主に『ラックスを心配している』ように感じられます。ただ、物事の捉え方や価値観、倫理観等の違いで、言い争いになっているようにも。…貴殿は、ラックスと良好な関係を築きたいのでしょうか??」
「……………」
その者の瞳が
揺れる。
シ「……………」
メ「……シゲル様」
シ「はい」
メ「…さすがはシゲル様です。……私も、シゲル様と同じく、この者……『この子』が、上手く自らの意志を伝えられないのではないかと、思っています」
シ「ほう」
「!! ……………」
メ「…実は、かなり前から、この子とは、交流をしてきました。その中で、少しずつではありますが、この子も言葉を話せるようになり、『想い』を…口にする事ができてきています」
シ「ふむ」
メ「……ただ、私が今まで、スカルプ様やラックス、キュレルへそれらを話せなかったのにも、理由があるのです…」
シ「ふむふむ」チラッ
シゲルは
その者を見る。
「……………」
メ「…シゲル様……私も、詳しい部分までは、知らないのですが…」
シ「失礼。メトリー氏」
メ「! は、はい」
シ「貴殿が知っている内容は、おそらく重要でしょう。しかしながら、私は『この者』の心持ちを知りたい。…もしかしたらこの者は、過去を知られたくないかもしれない。私がこの者の行いを問うているのは『今』です。究極、『過去に何があったかは関係ありません』」
「!!」
メ「……シゲル様………」
シ「少しややこしい言い方をしてしまいました。今まで少々、見させていただいた上で、ラックス達を含めたこの者の過去に何かがあったことと、程度はあれ『それを悔いている』と私は考えています。であれば、これ以上の深堀は、この者に対してのバイアス…いわゆる『偏り』『偏見』に繋がってしまうと思うのです」
メ「偏見…ですか?」
シ「はい。過去の詳細を聴くと、否が応でも『この者は○○だった』という『前提』がアタマに入ります。その上で話を聞いていくと、無意識のうち、その過去に思考が寄っていってしまい、『今、どうすべきか』を公平に考えることができなくなってしまう恐れがあるのです。つまり、『この者は元々○○をしていたから、きっと●●だろう』というラベリング…勝手な思い込みによる偏見が生じるかも、ということです」
メ「…な、なるほど……」
「………」
シ「まぁもちろん、過去があるから今があるので、いずれはお聴きしたいと思います。ただそれは、貴殿が口にできるタイミング…機会で問題ありません」
シゲルはそう言って、その者を見つめる。
シ「私は、貴殿のお気持ちが知りたい。貴殿は、ラックスを、どう思っているのですか?」
「………」
メ「………」
「……ラ…ラックス…ラックス…オレ…オ……キラ…キラワレ………」
シ「なるほど。ラックスに嫌われている、とお思いなのですか?」
「…キラワレ…キラワレテ…ラックス……オレ…イラナイ…デ…デナイ……オコル…」
シ「ふむふむ。言い方は分かりかねますが、ラックスは、貴殿へそのような言葉を投げかけたのですね。…貴殿は、なぜ、ラックスがそのような事を言ったのだと思いますか?」
「……ラックス…ラックス………オレ…カラス…カラシタ……キ…キュレ……エルター……イマ……ヒト……カラ…カラ…」
メ「!!」
シ「ふむ…。『枯らした』というのは、おそらく体力…いや、ミタマ(この場合、生命)かな? …『そのようにしなければならない』と、貴殿が思う出来事が、あったのですね」
「……エルター…エルター…クル…クルシイ……イタイ…ケル…ケラレル……クル…クルシ…ソ……カラ…カラシタ…」
メ「…(…まさか…これは、エルター様がキュレルを身籠っていた時の…??)」
シ「なるほど。お話しいただき、ありが…む?」
「カ…カラ…カラ……カラ…カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ」
メ「!! いけない…シゲル様! この子は、時折こうして」
シ「大丈夫です」
メ「!」
その者
そして
ラックスの身を案じ、立ち上がろうとしたメトリーを
シゲルが制する。
「カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ」
シ「………」
「カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ…」
シ「…大丈夫です。貴殿を、私たちは否定しません。貴殿の『チカラ』も、貴殿の大切な一部です」
「カラ…カラカラカラ…カラカラカラカラカラ…カラカラカラ………」
シ「貴殿は、ここに居ます。貴殿は、ひとりの存在であり、否定されるものではありません。枯らしてようが、肥やしてようが、そんなことで貴殿が無くなるわけではないのです」
「カラ………カラ……カ…」
シ「忘れないでください。私は、貴殿と話をしている。貴殿は、私と話をしている。これは、貴殿がここに存在する証明なのですよ」
「…カ…カ………オ…オレ……オレ…ハ………」
シ「はい。貴殿は、ここに居て良いのです」
「……オレ………オレ……ココニ……ココ…ニ…イタ……イ…」ポロポロ
メ「!!」
そう
吐露し
その者の瞳からは
想いとともに
涙が溢れた。




