第584毛 波
エ「…ぇ…え?? どういう…こと? やっぱり、夢???」
自分と瓜二つの顔を持つ者を見つめ、エクステは困惑する。
「…夢のようでもあるけど…厳密には違うかな。私は確かに、『現実のセカイ』には存在していないが、もうすぐ『目覚める』。そうしたら、私の方が『現実のセカイ』に戻ることができるかもしれない…」
ザワッ
エクステの全身に
悪寒が走る。
エ「!?どういう…こと…??」
目の前の者は
薄ら笑いを崩さない。
「そのままの意味だよ。…私は本来、君だった。…いや、もう過去形じゃなくても良いかな。本来の私として、本来の姿に戻るだけだ」
エ「なにを…いって……っ!! ヴッ……」
エクステは突然
猛烈な頭痛に襲われる。
同時に
エ「…(…っ…な、なに…⁉)」
幾つかの『背景』が
脳内をぐるぐると駆け巡るように垣間見えてくる。
「…そろそろ…か…」
エ「っな…なに…これは、あなたが…」
「いや、私ではない。…覚醒、という意味では、私も関わってはいるが…。エクステ。君は間もなく『記憶』を取り戻す。私と同じ志を持った『古の英雄』の『器』によるスキル保護がなくなるためだ」
エ「…き…記憶…? …それに…英雄とか…器…とかって…」
「君もよく知っているものだよ。昔から懐いていただろう。かの情報屋、ウェーボ君だよ」
エ「!!え!?」
その言葉を聴くと
まばらに出てくる『背景(光景)』が
脳内でさらにハゲしさを増していく。
エ「…っう…」
「さぁ、思い出すがいい。…その先には……」
エ「……ぅ…ぅぅ…ぅぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!」
ピシッ
グルンッ
エクステの脳内で
ナニカが弾け
ナニカが回る。
そして次々と
『記憶の波』が押し寄せる。
…
ウェーボとの会話
謎の存在による圧
シンシューク・セウスの帰還
女神アリガトネの顕現
オニガシマの主の登場
そして
そして
…
『ごめんエクステ。さよならだ』
ウェーボ・ワックス=ヘルセウスによる、命を賭した植え込み
その全てが
その想いが
その覚悟が
………
シンシューク・セウス「!!!! グッ…ぐぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!」
鉄壁三人衆「「「!!!!」」」
シンシュ「グゥゥ…グ…これっ……は………!!!!」
コモルル「シンシューク様!!」タッ
シンシュ「くるな!!!!」
コモルル「!!」ビクッ
シンシュ「…っ…だ…大丈夫…です…っ……これは…この『記憶』…は……」
ハヤメ「…こ、こんなに…お辛そうなんて……」
イヴ「……相当量の…記憶が…戻ってきている…というか…そこまで強く『植え込み』されていたとは…」
コモルル「…ハヤメ!!イヴ!!私たちは、シンシューク様を全力でお守りしましょう!!なにがあっても…」
ハヤメ「!!うん!!」
イヴ「とうぜんっ!!」
鉄壁三人衆は
シンシュークの様子を心配しながらも
己の責務を全うする覚悟を固めた。
………
…
エクステ「…ぅぅう……そ…そんな…」
やがて
「……『植え込み』効果が切れ、全ての『記憶』が戻ったようだね…」
涙を流すエクステへ
『心なしか』優しい雰囲気で
その者は話しかける。
エ「……ぅっ…お、お兄ちゃん……そん…そんな……。私の…私たちの…ために……」グスッ
「……彼は、ずっと前から、こうなることは覚悟していた。…もしかしたら、そういう『サダメ』だったのかもしれないが…。彼は、君やシンシュークさんの事を、本当に大切に思っていたようだね」
エ「……私…なにも…知らないままで……」
「まぁそれはかれの『植え込み』の影響だから、そんなに悲観しなくても良い。…それに、大分衝撃を受けているところ悪いけど…そろそろ、私の『チカラ』も覚醒する」
エ「……え??」
目を伏せて泣いていたエクステだが
目の前の者を見る。
目の前の者はジッと
エクステを見つめ返す。
「……先に言おう。私は古、『英雄』と言われていた。名を『テーセウス』という。…そして君は、私の『器』だ」




