第490毛 伝える
ヒルデ「…聴いて…ください」
ザワザワ…
ザワザワ…
ヒルデ「…私は、たくさん、たくさん、『処理』してきました。…いろんな人を、ただ、ただ…。その一人ひとりに、どんな暮らしがあって、どんな想いがあったかを、考えずに…」
黒猫「…」
ボールド「…」
ヒルデ「…みなさん…ごめんなさい」ヒルデは頭を下げる。
黒猫「!! ヒルデ‼ そんなこと」
ヒルデ「ううん。こうしたいの。…だって、立場が違ったら、私もみなさんみたいになっていたかもしれないですし…」
黒猫「…っ…」
ヒルデ「その時、私は、『痛くないように』『苦しくないように』動いていました。…今も、その想いはあるけど…結局、殺してしまったら、その人たちが、行いを省みることは、できなくなりますよね? 私は、そんな、みなさんの機会を奪ってしまいました…。本当に、ごめんなさい」
??「…」
?「…今更…謝られても…」
ヒルデ「…はい。遅いですよね…。ただ、今この瞬間、みなさんとお話しできているのは、きっと、みなさんにも『旅立てる』可能性があるからだと、思います」
???「…旅立てる?」
ヒルデ「はい。私も、ハザマにいた時は、あぁ、ずっとどこにも行けないんだな、と思ってました。私なりに、反省をしているつもりでしたが、それはあくまで『大切な人に対する自責』でした」
??「………」
子ども「……」
ヒルデ「私が出られたのは、勇者様…シゲル様や、大切な友人たち、後輩たちのお陰です。私だけでは…ひとりの力では、囚われ続けていたと思います。でも、出ることができて…仲間と一緒にいることで、『普通の暮らし』がどんなに幸せなのか、少しずつ分かってきました。そして同時に、『誰かの暮らし』を奪ってきた事も、ズシッと、私の中に圧し掛かってきました」
黒猫「………」
ヒルデ「私は、みんな…シゲル様たちのそばにいるべきではないのかもしれない、とも思いました。これは、今でも少し、思っています。…ただ、私は……先ほど、ボールドさんも言ってくれたように、私の犯してしまった罪は消えない。それならば、みなさんから奪ってしまった『暮らし』を、また蔑ろにするのではなく、少しでも多くの人の『暮らし』を支えていきたい、と感じるようになりました」
ボールド「…嬢ちゃん」
ヒルデ(ヨル)「…私が、名前を変えたのは、逃げたからではありません。…いや、もしかしたら、過去から目を背けたい、という想いもあったかも知れませんが…。でも、私は『ヨル』として、新たな私で、みなさんを助けたい。『奪う側』から『与える側』になりたい。そう、想っています」
?「……」
???「…綺麗ごとのように聞こえるぜ…」
??「…そう…そうよ‼ そんな…そんな簡単に…変われるとは…」
ヒルデ(ヨル)「はい。そうですね。簡単には変われません。だからこそ私は、シゲル様達と一緒に、旅をすることを決めたのです。そして、旅の中で、自分の過ちと向き合って、色んな方と出会って…責められても、失望されても、それで良いと思うんです。前を向こうと想うんです」




