幻妖界編01-06 『女神様のお仕事』
ーーー『運命の女神ノルンよ。あんまりおいたすると紡ぐわよ?』
ーーー『運命の女神ノルンよ。あんまりおいたすると紡ぐわよ?』
side女神ノルン
ちょっと、あなた暇なんでしょう?
え?私は運命の女神よ。
というかここにいて私を知らないなんて、教育係は何してるのよ。
私は地球の管理者代理の一柱で、『西』では運命の女神として結構偉いんだからね?
そんなことより、ありがたく女神様の神託を聞きなさいよ。
聞いてくれる?あら、いい子ね。
もうね、寿命が縮んだわよ。ないけど、寿命。
だってあの夜行と一歩間違えば戦争になるところだったんだから。
我ながら上手く纏めたというか、勝手に纏まったというか。
とにかくそれはよかったのよ。
あ、夜行と言ってもよくわからないわよね。
しょうがないから女神様が直々に教えてあげるわ。
『現世』ってなんでしょう?
これは想像できるわよね。人の子達がそこに住んでるんだし。
じゃあ、現世と瓜二つの、まるで双子のように似通った世界があることは知ってるかしら?
その双子の片割れの世界のことを『裏』とか『裏世界』とか言うのよ。
夜行では『幻妖界』って呼んでるみたいなんだけどね。
『幻妖界』ってかっこいいわよね?
あら、あなたもそう思う?
正式に採用しようかしら。
それでね。
別位相の世界だとか、次元が云々とか、世界線がどーたらとか、そういう小難しい話はいいのよ、ここではスルーするわ。
とりあえず『双子のような世界が複数の道で繋がっている』と理解しなさい。
その道というのも『竜脈』とか『特異点』とか色んな呼び方があるけど、とりあえずここでは特異点としておきましょ。
特異点は世界各地にあるんだけど、やけに日本に偏在してるのよね。
確か七つだったかしら。
さっきは現世と幻妖界を双子という表現をしたけど、それはあくまで地政学上の話ね。
それ以外については正しく異界。
例えば人ならざる『魔物』が跋扈していたり。
魔力の濃度が濃すぎたりとか。
余談だけど魔力の事を夜行では『妖気』とか『妖力』とか言うらしわ。
知ってる?なによ、ちゃんと勉強してるじゃない。
ご褒美に飴ちゃんあげるから食べなさい。
とにかく人間がまともに住めるような環境じゃないわ。
ちなみに地球の現世にマナないわよ。これぐらい知ってるか。
尤も、地球がそういうコンセプトで造られたから幻妖界が、って話が逸れたわね。
話を戻すわ。
幻妖界のモンスターなんだけど、たまに現世に迷いこんで来る事があるのよ。
でも最近じゃそんな話は聞いたことがないでしょ?
定常的に特異点を監視して、必要に応じて間引く。
それを生業にする連中がいるからよ。
お察しの通り、そのひとつが夜行家よ。
夜行家の起源は・・・安倍だったかしら?役だったかしら?
確かどちらかの傍系で、千年以上続く家系よ。
え?安倍なの?へえ、あなたほんとに勉強してるのね。
彩葉殿が九十八代って仰ってたから、短命な家系なのかもしれないわね。
とにかく、彼らは長年に渡って『青木ヶ原特異点』の監視をしているの。
その実力は高く評価されていて折り紙つきね。
彼らは好んで『魔物』を使役するんだけどね・・・どういう訳かその魔物は死なないのよ。
わけわかんないでしょ?
夜行の謎は色々とあるけれど、最大の問題はこれね。
厳密には死ぬのよ、多分。
でも肉体的な死を迎えても、いずれ復活すると言われているわ。
ちょっとわかりにくいかしら?
夜行のモンスターが『縄張りの外』で死んだとしましょう。
それがいつの間にか『縄張りの中』で復活するの。
復活の瞬間に外の遺体が消滅するから探査系の魔術を伏せておけば簡単に証明できるわ。
ちなみに復活前に遺体を消滅させたり、傀儡化しても無意味ね。
同一個体が複数存在することを世界が許容しない、ってこの話は余計ね。
似た特徴を持つモンスターを聞いたことがあるんじゃないかしら?
そうそう、ヴァンパイアとか、ノスフェラトゥとか、エインフェリアとかね。
でも夜行のモンスターは大きな差異が二つあるの。
まず、『復活の周期が異様に早い』のよ。
下手をすれば数日とか。
最近ゾンビアタックって言葉を聞いたんだけど、まさに夜行のためにある言葉ね。
出所は夜行じゃないかしら?
そんな気がしてきたわね・・・
なにかしらの魔法の可能性が高いとは言われているけれど、どうかしらね。
次に、『あらゆるモンスター』が復活する。
これはもうあり得ないのよ。
生命を司る神の領域なのよね。
エインフェリアですら制限のない不死とはいえないわ。
一体どんなトリックを使っているのやら。
夜行と隣接する地域のモンスターにその特徴がないというのも謎よ。
それにもっと謎なのは・・・まあこれは未確認だからいいか。
え?聞きたい?あなた、おねだり上手ね。
しょうがないわね。運命の女神様が話してあげるわ。
夜行にはある秘術があって、いつでも、どこでも、何度でも、一瞬でモンスターを生き返らせることができるとかいう話よ。
え?どこでもは無理?
どこで仕入れたのよそんな情報。あなた、見かけによらず有能ね。
まあいいわ、続けるわよ。
本当に聞きたがりなんだから。
じゃぁ、そんな夜行とやりあう事になったらどうするか。
対応策として最もポピュラーなのは『封印』ね。
でも封印って割と高難易度なのよ。
基本的に単体しか対象にできないし。
実行できる術者が限られるし。
燃費は悪いし。
実力差で弾かれることもあるし。
それに苦労して封印しても、さくっと封印を解かれたりして鼬ごっこになるわ。
え?他の対応策?
こっちが聞きたいわよ・・・
なにかわかったら奏上しなさい。
とにかく間違いなく言えるのは、絶対に敵対してはならないということね。
触らぬ夜行に祟りなし。
誰が言い出したのか知らないけど、至言だと思うわ。
さて、夜行について一定の理解を得られたところでようやく本題よ。
この間、惑星『モイラ』の部下というか管理者から『探索課』宛に緊急要請があったのよ。
え?モイラはマナが存在する、つまり魔法技術が発展した世界よ。
何をそんなに興奮してるのよ。
そんなに珍しいものでもないでしょ。
それで要請といっても魔王が大暴れして手に負えないだとか、隕石で生命の命が危ないだとか、そういった喫緊の話じゃなくて、魔力が枯渇しつつあるっていう、まぁ、深刻ではあるけど比較的穏やかな問題だったのね。
残念だけどこの手の問題は大なり小なりよくある話なのよ。
対応法がしっかりとマニュアル化されている程度にはね。
あなたもこの手の案件に関わることはあるだろうから、しっかり勉強しておきなさい?
まあ、あなたは知識が豊富みたいだし、すぐに慣れるでしょ。
わからないことがあれば私に聞きに来なさい。
それで、『無いならば足せばいいじゃない』っていう単純極まりない発想で、『マナジェネレータ適性』がある生物をよそから引っ張ってくるの。
そうすれば、空気清浄機よろしくあとは勝手に問題を解決してくれるのよ。
マナ濃度が上がりすぎないようにたまに調整が必要ではあるけど、それほど手間じゃないわ。
乱暴に聞こえるかもしれないけど他に上手い解決法がないの。
ただ、マナジェネレータの適性者は人間でいうところの一億人に一人ぐらいかな。
だから『探索課』がそれこそ血眼になって日夜探し回ってる訳。
さて、そんな探索課から届いた忌々しい報告書がこれよ。
三つ問題が発生したからなんとかしてくれ、ってね。
ひとつ、把握している適正者の在庫が一人しかいないこと。
ふたつ、適正者の命が風前の灯火であること。
みっつ、適正者があの夜行の係累であること。
話が繋がった?
だったら報告書に目を通した直後に破り捨てなかった私の忍耐力を褒めて欲しいものね。
え、なによ・・・ありがと。
それからはレシエルを送り込みつつ、こっそり回収しようとしたんだけどさ。
ばれちゃって危うくレシエルがミンチにされるところだったわ。
本当に恐ろしい女よ、夜行の当主は。
もし出会うことがあったら気を付けなさい。
あなたなんか一瞬でミンチにされるわよ。
さすがにこれはまずいと思ったから急遽レシエルに同期して交渉したんだけど・・・
まぁ、これはなんとかうまくいったわ。
マナジェネレータも回収できたし。
そのときの様子を詳しく知りたいならこの報告書に目を通しなさい。
私の口からは言いたくないわ。
いいのよ、慰めなんていらないわ。
あ、そろそろマナジェネレータの調整が終わる頃ね。
暇なんでしょ?
あなたは見所がありそうだし、一度彼を見ておくといいわ。
運命の女神様が直々に連れていってあげるから感謝しなさい?
え、うん、どういたしまして。
ところであなたお名前は?
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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