幻妖界編01-05 『彩葉と覚』
この結末は彩葉にとっては自身の半身ともいえる伊織の命を繋いだだけでも望外ともいえる。
だが今後のことを考えるなら西洋の最大勢力と友好的な関係を築くことできたことも好材料だ。
伊織が手の届かない所へ連れ去られる事を除けば。
伊織が異世界に渡るならば?
追いかける。
それだけの話だ。
その難易度はともかくとして、やるという事は決定事項なのだから。
だがそれまでの間、伊織の身を護る必要がある。
『現世』と『幻妖界』の間で使えているのだ。
伊織ならば『招聘』の術式に手を加えようとするに違いない。
その前提で考えるならば『第一陣』の人選を進める必要がある。
戦力が必要だ。一刻も早く。少しでも強い者が。
「鬼一」
「はっ。」
「『臨時大評定』の開催を通達してください。」
「御意。期日は最短で?」
「結構です。」
彩葉は目を泳がせながらチラチラと鬼一を伺っている。
長い付き合いの鬼一は知っている。
これはよくないやつだ、と。
「法眼さん」
「は・・・」
彩葉が当主の座の襲名以来、鬼一にはそう呼ばれた記憶はない。
鬼一は嫌な予感しかしなかった。
「『鞍馬』を獲っていただきます。」
鬼一は思い切り顔を顰めた。
「何よ、お館様に逆らうつもり?」
彩葉の揶揄うような砕けた口調は珍しいが、だからといって苦々しいことに変わりはない。
「ご褒美も用意してあるわよ?鬼は内、ってね?」
「鬼っ!?」
「『酒呑』と『茨城』、それから『大嶽』との交戦を許可します。存分に励みなさい、ももたろさん。」
「満願成就のぉ、大願成就の祈ァァァ祷!!!」
興奮覚めやらぬ鬼一は漆黒の翼の隠蔽を解いて飛び去ってしまった。
「いや、今すぐではないのだけれど・・・」
『鬼』さえ絡まなければ『妖の良心』といえるほどに理性的なのだが。
もっとも、挑発した立場ではあまり強くは言えない。
「覚さん。」
「はい。」
「貴女は『百々眼鬼』と協力してピクニックの調整をお願いします。」
「わかりました。何名ほど御用意致しましょう。」
「覚と百々眼鬼は確定でいいでしょう?荒事要員が薄いわね。」
「『村雨』が強く希望すると思いますが・・・
連れて行かなければ大暴れして『倉』が引っくり返りかねません。」
「村雨ねぇ・・・うーん、大丈夫?」
「その技量だけは信頼に値します。手綱を握りさえすれば十分に務めを果たしてくれるかと。
何より、伊織様との相性は疑いようがありません。」
「いいでしょう。補佐の候補は?」
「汎用性では『倉ぼっこ』『一反木綿』、荒事特化ならば『鈴鹿御前』、搦め手ならば『獏』あたりでしょうか。
無論、伊織様との相性を最優先に考慮しております。」
「いいでしょう。臨時大評定で第二陣を募るとします。」
「では覚を含め、『百々眼鬼』『村雨』『倉ぼっこ』『一反木綿』『鈴鹿御前』『獏』、以上七名にて伊織様の警護と補佐を担います。」
「それにしても・・・見事に女性ばかりね。」
「半数以上が伊織様に女にして戴きましたから。」
「言い方!」
「事実ですが?」
「誤解を招く言動はよくありません。
人化の際の性別はあなた達自身で選ぶものでしょう?」
「伊織様が主因である事には相違ありませんが?
やむを得ませんね。宮仕えの悲哀をそっと仕舞い、そういう事にしておきます。」
「貴女と話すのは今日が初めてですが、伊織の配下は皆いい性格をしてますね!」
「恐悦至極にございます。」
「褒めてないわ・・・」
「あちらで伊織様が『百鬼夜行』を使える可能性はありますか?」
「百鬼夜行は夜行家の秘伝よ。歴代当主にしか継承されないの。
ノルンに伊織を渡す前に伊織が意識を取り戻せば継承できたんだけどね。」
「是非もありませんね。ではやはり早急に相互を繋ぐ方法が必要です。」
「ええ。こちらでも召喚陣と招聘術式を改良するわ。あちらに渡り次第、貴女達も探してね。」
「はい。ですがその前に通信だけでもできるようにしたいですね。」
「『西』は伊織の補佐につけるレミエルに通信手段を持たせるはずです。それを間接的に使わせて貰うか、譲ってもらうか、解析するか。こちらについては私が『西』と交渉しましょう。」
「わかりました。それでは『倉』へ打ち合わせに参りますので、御前失礼いたします。」
「ええ、伊織のために励みなさい。
ああ、そうね、必要ならば本邸の『座敷童子』を使って構いません。」
「御気遣い、感謝します。」
静かに立ち去る覚の後ろ姿を見送り、彩葉もまた帰路につく。
気づけばもう明け方だ。
まだ神経が昂っているからか、眠気は全くといっていいほどに感じない。
「忙しくなるなー。」
呟きは誰の耳に拾われることもなく、朝日の中に吸い込まれていった。
______
ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄