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幻妖界編01-03 『女神ノルン』

side (さとり)


(さとり)は目が見えない。


より正確に表現するならば、彼女は視覚のみを消失しており、それ以外のあらゆる感覚が図抜けて発達している。

それは視力以外の四感でもあり、所謂(いわゆる)第六感と呼ばれるものでもであり、妖力を知覚するものでもあり、音や光の『波長・波形』を精密観測するというものでもあった。

それらが複合的に絡み合うことで、彼女はひとつの異能を手に入れた。


覚りは心を読む。


(私はこの頭の緩そうな小娘の真贋(しんがん)を見極める為に()ばれた訳ですね。

そしてその内容は伊織様案件ですか。

なるほど、伊織様の為ならば気を引き締めて参りましょう。)


覚が『いろは』の招聘に応えたのは鬼一(おにいち)の読み通り、敬愛する主である『伊織の大事』ということが理由であった。

だが実のところそんな理由付けなど無くとも彼女は招聘に応じただろう。

そこが伊織の病室であり、そこに伊織が居る。

ただそれだけで。


(ああ、伊織様。

僅かながらも拝見できた由、サトは果報者にございます。

邪魔者ども(・・)が居らねばこのサトの温もりをお伝えすることが叶ったものを・・・)


荒御霊(あらみたま)()いたかのように荒ぶる心の内を淑女の仮面で丁寧に蓋をして、覚は(うやうや)しく(こうべ)を垂れる。


「覚・・・そこは伊織様ではなくお館様に向ける所であろう。」

遺憾(いかん)ながら、私は不器用者にて。我が忠誠を二分することは叶いませぬ。」

「構いません。私の(・・)弟をくれぐれもお願いしますね。」


終始無表情の覚と、薄く笑ういろはの言葉を額面通りに受け止める程に察しの悪い者はいなかった。

それが幸か不幸かの評価は兎も角として。


「御両名、小競り合いはどうぞまたの機会に。

尋問を始めましょう。」


鬼一は妙な方向へと向かいかけた流れを強引に修正する。

淡々とした様子は慣れているのか開き直っているのか。

ともあれ『尋問』の一言はレシエルにとっては非常に重いものだった。


「ふぁい!にゃんでも答えましゅ!

正直に答えましゅ!

ミンチイヤ!」


言語野(げんごや)が数年若返る程度には。


「そうね、まずは貴女の所属とお名前を伺いましょう。」

「は、はいっ!私はレミエルなのです!第九位階天使(エンジェル)なのです!

底辺です!最底辺のよわよわなのです!ミンチにしても美味しくないのです!

あ、ノルン様の(しもべ)なのです。」

「なるほど、『西』の運命の女神様で相違ないかしら?」

「ノルン様をご存知なのですか!?」

「ええ。残念ながらお会いする機会には恵まれておりませんが。」


前述の通り、覚は心を読む。

とはいえそれは対象の思考とトレースする(たぐい)のものではなく、感情の動きを明確に察知するものだ。

身も蓋もない言い方をするならば『超高性能嘘発見器』といったところであろう。


そんな覚ではあるが、この時は穴が空くほど真剣にレミエルの様子を観察していた。

本人が主張するように、レミエルは弱い。

いくら隠行の腕が優れているとはいえ、(さとり)にかかればあっさりと看破できる上に逃走技術が優れているようにも見えない。

使い捨て要員なのだろうか?

もしそうでないとしたら夜行(うち)も随分と舐められたものだが。


だがそんなことよりも、覚はレミエル本人に興味を抱いていた。

レミエルには悪感情がない。欠片も、微塵も。

人であれ妖であれ、そんな者はいない、少なくとも覚は()たことがない。

『西』の天使は確かに色々と薄い(・・)が、それにしても・・・

覚にとってそれは恐ろしく、(おぞ)ましく、眩しく、興味深いものでもあった。

眼帯の奥の覚の瞳は本人の自覚するところなく、爛々(らんらん)(あか)く輝いていた。


「それで、貴女の任務は何かしら?」

「はい!私の任務はそちらの男の子の魂を回収することなのです!」


この返答は極めて危険なはずであった。

『殺して回収する』と解釈するのが一般的だろう。

だが、めげることなくハキハキと答えるレミエルの様子に三者三様、仲良く毒気を抜かれていた。

この段階でレミエルの嘘を疑う者はいなかった。

それは覚が興味を持ったある種の才能かもしれない。


それでも彩葉は淡々と事実確認を進める。


「それは伊織の命を奪うことと同義ですか?」

「えっ?違います!殺すなんてとんでもないのです!

伊織さんはもう・・・えっと、あの、その・・・」

「さすがは運命の女神というべきなのでしょうか。

もうすぐ伊織は召されるのね?」


いたたまれなくなったのか、レミエルは悲しげに目を伏せる。

一見、彩葉に変化はないようだが、その実、内心は嵐のように荒れ狂っていた。


「・・・続けます。

貴女は何故、伊織の魂を回収に来たのかしら?」

「それは・・・すみません、口に出せないみたい(・・・)なのです。」


しょんぼりと項垂(うなだ)れるレミエルから目を逸らし、彩葉はチラリと覚を一瞥(いちべつ)する。

彩葉の視線に気付いた覚はほんの少し顎を引く。

さて、どうしたものかと思案していると、不意にレミエルの黄金色の瞳が輝き出す。

明らかな異変に最初に反応したのは戦闘経験が最も少ないであろう覚だった。

一瞬遅れて察知した鬼一はごく自然に彩葉の前に身体を差し込む。


「小娘は第三者からの干渉を受けています。気質が似通っていることから、恐らくは・・・」

「遠方より突然の訪問を失礼いたします。先にご紹介に預かりましたノルンと申します。」




「こちらへの敵意は伺えません。」

______

ちゃむだよ? >_(:3」∠)_

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

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