幻妖界編01-13 『茨城童子 vs 大嶽丸?』
ーーー『幻妖界で二番目に最強の鬼とはあたしの事よ!』
side 茨城童子
あたしは茨城童子こと、酒呑の次に強い鬼よ。
最強のナンバーツーなんだからちゃんと覚えておきなさいよね。
あたしがなんでこんな辛気臭い裏東北の恐山くんだりまで出張ってるのかとゆーとね、何か、大嶽丸がここに来たらしいのよ。
普段から全く鈴鹿山を出ないヒキニートが外に出たって聞いたときは仰天したわ。
でもなんか様子がおかしくて、ふらふらと出て行ったとかで要領を得なかったのよね。
「全く、あの大嶽は何やってんのよ。」
何となく嫌な予感がしてさ、追い掛けたって訳。
それで現地に着いて色々と話を聞いたらこれがとにかく、まー、酷い。
どうもあの大嶽、流れの巫女に付きまとってるとか。
引き篭りが拗らせると碌な事にならないわ。
引きニートのストーカーとかもう呼吸する資格ないでしょ。
とっとと首輪を付けて連れ帰らないと。
という訳でやってきたよ。
「おっすー、茨城だよ。クソニートを引き取りに来たよー。」
このでっかい家は裏東北で一番偉い人間の家って聞いたんだよね。
ここなら多分、大嶽の居場所も知ってるんじゃないかと思って凸ったんだけど。
「聞いてる?」
「あなっ、あな、貴女は。」
「茨城童子。幻妖界で二番目に最強の鬼よ。」
「す、すぐにお館様を呼んで参ります!」
「いってらー。」
なんかびっくりさせちゃったみたいで悪いわね。
しばらく門を眺めてたらさっきの河童が人間を連れてきたわ。
「お初にお目に掛かります、茨城童子様。
どうぞ、中へお越し下さい。」
あらあら、随分と年を取ったお婆ちゃんじゃない。
「ここでいいわよ。クソニートを引き取りに来ただけだからね。」
「それは大嶽丸様で相違ございませんか?」
「そうそう、やっぱあいつここに来てたのね。」
「今は燈の修行に付き添っておいでです。ご案内致しますね。」
「場所を教えてもらえればいいわ。」
「この時間ですと霊穴に居るはずです。」
「ああ、心当たりがあるわ。南西に『妖穴』があるでしょ?」
「おお、さすがは茨城童子様ですな。そこに相違ありません。」
「二番目に最強の鬼だからね、当然よ。
クソニートが迷惑かけて悪かったわね。ちゃんと首輪を付けて連れ帰るから安心して。」
「あ、あの、茨城童子様。」
「いいのいいの。」
話を聞かない事にかけては茨城童子は酒呑童子を上回る。
ここでもその力?を存分に発揮していた。
茨城は踵を返し、『妖穴』へと向かう。
「あー、あー、ほんと辛気臭いわね。強そうな妖もいないし。
寒いからかしら?鬼共も北には行きたがらないし。
でも『なまはげ』とかいう妖がいるんだっけ。
あれ?『ししまい』だったかしら?
どっかその辺に落ちてないかな?」
鬼族は基本的に喧嘩っぱやい。
それは闘争を好むという面もあるが、それ以上に序列を付けないと気が済まないのだ。
俺があいつより強い事を証明しなければ気が済まない。
俺があいつより弱いなど我慢ならん、再戦だ。
こうして永劫闘争を続ける連中だ。
もちろん、最強の二番手を自称する茨城もそのうちの一人だ。
そして大嶽もそうであった、これまでは。
「やーっと見つけたよ。
ってか、何やってんの?」
茨城の視線の先には滝行を行う二人の姿があった。
それは、まあ、いい。いや良くないが。
鬼が精神鍛練なんて他人から聞いたら噴飯ものだ。
敬愛する酒呑に伝えたとして、豪快に酒を吹き出すだろう。
問題はもう一人の幼女だ。
大嶽の野郎、ニートを拗らせるに飽きたらず、幼女の尻を追いかけ回すクソ野郎に成り下がっていやがった。
引きニート、ストーカー、ロリコン。
文句無しの数え役満だろう。
こいつはもう駄目だ。
生かしておいては鬼族の名が地に落ちる。
茨城の判断は早かった。
無言で背中に担いだ巨大に過ぎる丸槌を盛大に振りかぶる。
「くたばりやがれヒキニート!」
茨城の全力のスイングは見事に大嶽の脇腹を捉え、大嶽は遥か彼方に吹き飛んだ。
その風圧に一瞬滝から流れ落ちる水が逆流し、幼女は目を開いた。
目を合わせた茨城は一瞬違和感を感じる。
「うん?あんた、ちょっと、何か変だね。」
状況が飲み込めていない幼女は目をぱちぱちと瞬かせ、不思議そうな顔で茨城を見詰める。
「なあ、えーと、あたいは怖くない鬼で茨城ってんだけど、お嬢ちゃんは?」
「燈。」
「婆さんに聞いた通りね。さ、悪い鬼は退治したからもう帰r」
言い終えることはできず、今度は茨城が遥か彼方に吹き飛んだ。
その場には天に突き上げるように拳を振り上げた大嶽が立っている。
「おー、痛て。なんだいきなり、あのバカ女。いきなり殴りやがって。
相変わらず脳の足りんイカれ女だな。」
赤く腫れた脇腹をさする大嶽を、燈は心配そうに見詰める。
「大丈夫?」
「ああ、これぐらいどうってこたぁねえ。
だがあのバカ女があの程度でくたばったとは思えねえ。
ちっと仕留めてくらあ。」
「あの鬼のお姉さん、怖くない鬼って言ってたよ?」
「いやいや、ありゃあ目が合えば喧嘩を吹っ掛けるイカれた女だ。」
「だーれがイカれ女だ。腐れ外道にだけは言われたくないね。っ痛ぇな。」
二人は奇しくも同じ場所を赤く腫らし、仲良く擦っていた。
そして二人同時に同じことに気づいて慌てて手を離すと、何となく気まずい空気が流れる。
「ちっ、白けちまった。んで、どーいう事よ大嶽。」
「何がだ。」
「だからなんで幼女のケツを追いかけ回してんのかって聞いてんの。」
「貴様は相変わらず顔も汚ければ口も汚いな。」
「誰の顔が汚ねーだ?今度は逆の脇腹に捩じ込んでやろうか。」
「やれやれ、気に入らねばなんでも暴力で片を付ける。なんとも野蛮なことだ。」
「・・・」
茨城は大嶽の言葉に衝撃を受けすぎて口を開いて間抜け面を晒していた。
「いやいやいやいや、よりによって、お前が、それを、言うか?」
「その批判は甘んじて受け入れる。俺は間違っていたのだ。」
「・・・」
再び間抜け面を晒しそうになるのをなんとか踏み留まり、完全に停止してしまった思考を気合で再生する。
変だろ?
いくらなんでもこの変わり様は有り得ねーっしょ。
だとしたら原因は何なの?
そういえばさっき感じた違和感は?
「なあ、お嬢ちゃん。このおっさんに何かした?」
「何もしてないよ?」
ふるふると首を振る幼女を茨城はじっと見詰める。
「お嬢ちゃん、ちょっとあたしを見てくれるかい?」
「うん、いいよ。」
茨城と燈はしばし無言で見詰め合う。
「これは・・・魔眼?
あたしは詳しくないからなー。」
「昔、そう言われた事あるよ。」
「ん?そんとき、何の魔眼か言われなかった?」
「わかんないって。」
「そっか。
あれ?よく考えたら何も悪いことなくない?
ヒキニートは外に出てよくわからん修行を始めてよそ様に迷惑掛けないでしょ。
・・・掛けねーよな?
鈴鹿山は静かになるし。
あ、お嬢ちゃんは迷惑してない?このおっさんに変な事されてない?」
「貴様の腐れ切った脳が何を考えているのか想像するのも悍ましいわ。
俺は指一本触れておらんし、断じて今後も触れん。」
「お前まさか、見てるだけならセーフとか考えてねーよな?」
「・・・ばっ、馬鹿な事を。」
「くっそ怪しいなお前!やっぱここで死なすべきか?」
「ええい!疚しい事など何もないわ!」
「お嬢ちゃん、ほんとに大丈夫かい?こいつ生かしといて大丈夫?」
「うん。一緒に修行する人?鬼?がいると寂しくないよ。」
「そっか。まあ、困ったことがあったら婆さん経由で知らせてよ。
飛んできてすぐにこのゴミを冥土に送るからさ。恐山なら成仏できなくても別にいいでしょ。」
「ふん。邪魔しておる身で迷惑など掛けれんわ。」
「心底どうでもいいけど、鈴鹿山に伝言は?」
「伝言はいらん。だが、お前か酒呑で預かってくれ。」
「・・・そこまでイカれてんのか。
てか、多分うちらは夜行に付くよ。巻き添えになるけどそれでいいの?」
茨城は酒呑が夜行で一暴れすると聞かされている。
その結果、酒呑はどう転んでも夜行を利用しようとするだろう事は予想できていた。
そして茨城は酒呑が失敗するなどとは微塵も考えていなかった。
「そうか。それでも構わん。」
「ほんと変わったね、あんた。
なーんか、しまんねーけど・・・帰るか。
お嬢ちゃん、余計ななお世話だけどさ。
その目は専門家に見てもらった方がいいよ。」
「お婆ちゃんに聞いてみるね。」
「そうしな。んじゃ、またな。」
「ばいばい、鬼のおねーさん。」
左腕をひらひらと振りながら、茨城はその場を立ち去った。
茨城は首を傾げながらも裏東北を出て酒呑が居るであろう裏関東へと向かう。
どうも裏東北は鬼には性に合わない。
「ああ、裏鬼門だからかな?」
急ぐ旅でもなし、茨城の歩みはのんびりとしていた。
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ちゃむだよ? >_(:3」∠)_
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