第9話 恋患い・前編 ⑨
「ええ、無理心中はありました。犯人は行方のわからなくなっている、小学校高学年の長女です。
彼女が包丁で父、母、そして妹の首を一撃で仕留めています。
ただ少し複雑なのは、それが彼女の意志ではないということ。
彼女は裕福な暮らしをし、両親や妹からの愛情を十分に受けていました。彼女に動機は全くありません。
それに、いくら高学年といっても、逃げまどう子供、まして大人二人を一撃で殺害することはできないでしょう」
「ちょ、ちょっと待ってください!! どうして、そんなことがわかるんですか!? 私たちと一緒にホワイトハウスの中には入っていないし、写真も見ないで家族構成がわかるなんて……
それに、無理心中が本当にあったとして、どうして犯人が長女だと? しかも動機もなく、一撃で無理なら……一体、どういうことですか!?」
真実子はサノッチをなじった。何かで調べた情報をもとに、適当なことを言っているのではないか、と疑ったのだ。
「ええ、わかります。家の中には入っていませんが、窓の外から少し、室内の様子をうかがいました。
家の中では、幽霊や魂ではなく、両親と妹の残留思念といいますか、白い影の残像のような存在が当時の状況を繰り返し再現していました。
しかし、そこに長女の残像はありません。詳しく知るために、久々にこっくりさんで交信を試みたところ、いろいろと教えてくださいました。
小林さんのご友人が行方不明になったのも、この家の長女が失踪したのも、やはり原因は同じです。
彼女らが今現在どこにいるのかを探るため、ダウジングを用いて山中を歩いていたので、ノブオさんやジュンジさん、小林さんとは別の行動をとってしまいました。
ご心配をおかけして本当にすみません……でも、嬉しい……」
分厚い前髪で表情はいまいちわからないが、サノッチは喜びで唇をかみしめている。
地面に転がって話を一通り聞いていたノブオは、やっと立ち上がり、おしりをパンパンとはたいた。