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第22話 恋患い・後編 ①


 この日、そろいの作業着姿でノブオとサノッチの二人は近所のスーパーへ買い出しに行き、その足であるアパートの一室へと向かっていた。


 というのも、瀬川せがわ一成いっせい(四十七歳、男性)から仕事の依頼があったのだった。


 彼の住む、その古いアパートに駐車スペースはないということで、また、われわれ便利屋花丸キュウ微商会の事務所から彼の家までは、徒歩十数分の距離ということもあり、二人はどんよりと曇る空の下を歩いていた。


「ところで、ノブオさん。瀬川さんはどんな方でしょうか? 確か、親しくされていたと、ジュンジさんから聞きましたが」


 タマゴやネギなどを買い込んだ袋をさげているサノッチは、並んで歩くノブオに尋ねた。


「あぁ、親しいというほどでもないんだけどよ。去年、町内会の手伝いがあってさ。そこで一緒に片付けなんかして、すごくいい人だったよ。俺も独身だけど、一成さんも独り身で歳も近いし……それで俺のことを覚えてくれていて、今日の依頼をしてくれたんだよな」


「風邪をひかれて寝込んでいらっしゃるということですが、心配ですね」


「そうそう、そうなんだよ。電話をくれた時もそうとう具合が悪そうで……

 大事に金魚を飼っているらしいんだが、一週間に一度は水槽をきれいに洗って水を換えなきゃならないのと、食事を作ってほしいということでさ。


 それだけなら、俺も近所に住んでいるわけだし、会社なんて通さないで手伝うよって言ったんだ。だけど、それじゃ申し訳ないからってさ。体調が悪いってのに、遠慮深いよな。

 だから、せめて料理上手なサノッチに精の付くおいしいものを作ってもらおうって。俺は金魚の、赤二郎あかじろうの水槽を丁寧に洗わせてもらうよ」


 そうして歩いていると、古い二階建てのアパートに到着した。


 瀬川は、ノブオらが来る際には鍵を開けておくからそのまま入ってくれて構わない、と告げていた。


 そこでノブオは一階の一番左奥のドアをノックすると、声をかけつつドアノブをひねってみる。


「おじゃましまーす……って、一成さん!? 大丈夫か!?」


 畳の上に敷かれたぺったんこな布団の上で、瀬川は仰向けになり天井の一点を見つめていた。


 ゼェゼェと荒い呼吸をし、その顔色はひどいものだ。


 急いで靴を脱ぎ家に上がったノブオは、瀬川の布団に近寄る。


「ノブオさん……ありがとう、来てくれて……」


 上からのぞき込むノブオの顔を、下からうつろな目で見つめ返す瀬川はそっと手を伸ばす。


 その手を、ノブオはぎゅっと握った。


「そんな、こんなに弱ってどうしたんだよ!? 病院は行かなくていいのか? 今から行くか?」


「いや、大丈夫……それより、赤二郎の水槽の掃除を……水もね、昨日からカルキ抜きしたやつを、そこのバケツにあるから……最後に使って……ゲホッ、ゲホッ、ゲェェ!」


 ノブオの手を離し、横を向いて瀬川はせき込む。


「本当に大丈夫かよ! なぁ、サノッチ。病院に連れて行った方がいいよな?」


 布団の横で正座するノブオは、後ろで同じように正座して様子をうかがっているサノッチに尋ねた。



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