第15話 マリー ルーの三女 ②
アパートの部屋に着き、連れてきた三人の和服姿の女性を見ると、彼女のエミはやはり驚いた様子だった。
「素敵なお着物だけど、寒くはないですか?」
そうエミが尋ねると、
「いいえ、大丈夫よ。それより、たまごサンドを作れるなんて、あなたすごいわね」
と、エミの手つきを横で見ていた若い女性は感心している。
「味は保証できませんけど……ところで私、エミっていいます。あなたは?」
「私はマリー・ルーよ。彼女と彼女も……私たち、三人ともマリー・ルーっていうの」
マリー・ルーだと答えた若い女性は、初老の女性と女の子を、それぞれ指さしながら言うので
「え、冗談よね?」
と作業する手を止め、エミは三人の顔を一人ずつ確かめた。
だが、彼女たちはうんと重々しく頷いて、私はマリー・ルーよ、と各々が答えた。
それを聞いたエミは、少々考えるようにして
「それじゃ、あなたはマリコさん、あなたはマリナさんで、あなたはマリモちゃんっていうのはどうかしら? そういうあだ名がある方が、きっといいわ」
と勝手に、初老の女性にマリコ、若い女性にマリナ、女の子にマリモと名前を付けてしまった。
そんなことを言って、三人の女性たちが怒り出したりしないだろうかと彼は案じたが、意外にも女性たちはとても喜んでいるようだ。
三人は互いを指さして、何度も名前を言い合い、楽しげにしている。
そうしているうちに、エミはたまごサンドを作り終えた。
「一人分しか作れなくて、ごめんなさいね」
そう言って、エミはタッパーに詰めたものを差し出す。
「坊ちゃんの分があれば十分よ。ありがとう、名前まで付けてくれて」
初老の女性、マリコが礼を言い、それを受け取った。
まだ外は暗かった。エミは三人を送ってあげてというので、必要ないとは思ったが、女性たちも断らないので、彼は送り届けることにした。
彼の住むアパートからその屋敷は、歩いて五分ほどの距離だった。
その家は近所でも有名なゴミ屋敷で、もとは立派な平屋なのに、広い庭からはみ出しそうなほどに、物はうず高く積まれている。
かつて彼が耳にした噂によれば、絵描きの男性が一人で住んでいる、ということだった。
「本当にここなんですか?」
と彼が問うと
「うん、そうだよ!」
とマリモは答え、ゴミの山を登っていく。
彼はここまで送ったのだから、帰ろうかと思った。しかし
「あなたも坊ちゃんにお会いして」
とマリコに言われてしまった。
そして、さぁとマリナに腕をひかれ断ることもできずに、マリモ、マリコ、マリナに続いてゴミの山をかき分けつつ、彼は敷地へ入っていく。