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第13話 恋患い・前編 ⑬


 目の前には、眉間に深いしわを寄せ苦悶の表情を浮かべる、顔色のすこぶる悪い女性が立っていた。


 奇声を発しているのはその女性だったが、奇声の中には時々、聞き取れる単語も混ざっている。


「ギャー、イヤー……どうして、起こさないで……ピー、ギャー……幸せ、ない……」


 女性の体はみるみるうちに、腐るように皮膚が溶けていき、臭いを放つ。もはや、生きている人間には見えなかった。


「ミキちゃん! ミキちゃん、どうして……」


 真実子は涙を流しながら、その者に話しかけているのだった。


「もしかして、この人が三十年近く前に、小林さんのご友人だった女性……え、起こしたんですか?」


 目を丸くするジュンジは、ほとんど独り言のように言った。


 すると、意外にも真実子はちゃんと答える。


「はい。名前を呼びかけながら揺さぶったら、背中から出ていた変な管がポロッと取れて……そうしたら、こうなって……」


「よく起こしたな……」


 真実子の行動に、正直ノブオは引いていた。


“寝てる子を起こすなと言ったろう!!!”


 太母の低い叫びが、ノブオとジュンジ、真実子の腹の底で響く。


「やばっ! バレましたよ!!」


 焦るジュンジは声を上げた。


 真実子が女性を起こしたことをきっかけにして、その場で安らかに眠っていた五十人ほどの人々の管が、背中からプツプツとはずれていく。


「ギャー! 起こさない……で、ピーッ! ギャー……」


「幸せ……ピギャー! ない……ギャー……」


 真実子の友人と同じように立ち上がり、ピギャー、ピギャーと奇声を発する人々は、やがてドロドロに溶けだし、土になっていくようだった。


“お前たち、許さぬぞ!! 道連れじゃー!!”


 まぶしいほど明るかったはずの空間は暗くなり、天井から真っ白でまるで表情のない巨大な顔がふってきた。


「あっ、あれが太母か!?」


 ノブオは顔に向かって指をさした。


「そうですよ。皆さん、急いでここを出ましょう! こちらです!!」


 サノッチは皆をうながし、走り出す。ノブオら三人もサノッチに続いた。


“お前ら!! 許さん、許さんからな!! あっ、あぁぁ……!!”


 太母の悲鳴と人々の奇声を背に、われわれ便利屋花丸キュウ微商会のメンバーと真実子は無我夢中で走った。


 気づいた時には、入ってきた穴の外に出ていたのだった。


「はぁはぁ……で、出られましたね!」


 ジュンジがふり返った時、ドーンという音とともに穴はふさがった。


 盛り上がっていた地面は底が抜けたようになって、はじめから何もなかったように平らになった。


「太母……一体、俺たちは何を見たんだ……」


「さぁ……何だったのでしょう……」


 ノブオと真実子はぼやき、立ち尽くしている。


「皆さん、帰りましょう。早くしないと夜が明けますよ」


 サノッチが静かに歩き出すので、三人はそれに続いた。


 そうして車に戻り、ホワイトハウスを後にしたのだった。


                         つづく



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