気ままな猫のネコ目線
もう日が昇る頃。
ボクは目を覚ます。
ボクは猫だ。
名前は……特に無い。
無いけれど、あだ名はサンマと呼ばれている。
まあ、魚の中でも一番サンマが好きだからそう言われている。
▫▫▫
ボクは、小さな港がある街に住んでいる。
寝床は決まって、港近くにある古びた船の中。
雨風は防げるから、安心できるんだ。
「おーい、いるかいな」
お、聞き馴染みのある声がする。
ボクが出ると、麦わら帽子を被ったおじいさんが船の近くにいた。
「ほれ、朝ご飯だぞ」
このおじいさんは、毎朝ご飯をくれる。
魚の切り身、5枚もくれるんだ。
「……こやつ、今日も元気そうじゃのお」
ボクを撫でながらそう言うけど、当のおじいさんは何だか元気が無さそう。
……何か、あったのかなぁ。
「こやつ、ワシの事心配しとるのかの……あのな、菜実が昨日亡くなったんじゃ……」
菜実さんって、おじいさんの孫だったっけ。
何度も可愛がって貰っていたけれど、最近見て居なかったな……
そうだったんだ……
ボクに何か、出来るのかな。
「ワシャな、もうすぐ菜実に会えるかもなぁ。もう歳じゃから……」
そんな事言わないの。
ボクが居るし、おじいさんが居なくなったら寂しい。
「……こやつ、ワシの事分かっとるような気がするわ。ごめんなぁ、心配かけてな」
おじいさんは少し笑顔を見せた。
ちょっとでも元気になってくれたら、ボクは嬉しいな。
▫▫▫
お昼になると、御天道様が燦々としている。
今日はどこへお散歩しようかな。
「……およよ?この猫ちゃんは……」
学校の近くを通ると、少し高い声が聞こえた。
……この声、も、もしかして。
「やっぱり、いつものサンマちゃぁん」
この学校のジャージを着ている、女の子の姿が見える。
……げ、厄介な子と逢った。
ま、まあ、あの子は嫌いじゃ無いんだ。
嫌いじゃ無いんだけれど、凄い撫でたり触ったりするから……
「ふひひ、触ろーか」
……あの顔、絶対に何かしそう。
に、逃げるが勝ちだ!
「あ、ちょっと待ってよぉ!」
待つもんか!
……ここは、建物の隙間に入ってと。
「あーん、逃げられちゃった。……仕方ないなあ」
……あれ?今日は珍しく早めに諦めるのか……
いや、待てよ。怪しいな。
少し、目線を外に出して……
「サンマちゃん、出てこないかなァ」
小声でそう、待ち構えている女の子の姿が見える。
やっぱりな。
反対側の方から、出ようっと。
▫▫▫
夕方、ボクはこの街で大きな市場に向かった。
……まあ、単なる散策だけどね。
「サンマちゃん、此処に来るの珍しいねえ」
魚屋さんのおばさんが話しかけた。
おばさんにも、たまにご飯を頂く事があるんだよね。
「サンマちゃんが来てくれると、疲れが吹っ飛ぶよ」
そう言って、ボクを撫でる。
……じゃあ、たまに来ようっかな。
『あれ、サンマじゃん』
その声は、猫仲間のとらおだ。
丘の所にある、団地に住んでいる猫だ。
たまに、会う事があるんだよね。
『そういや、菜実さんの話は聞いたかい』
聞いた、聞いた。
おじいさん、哀しそうな顔をしていた。
そういや、おじいさん……とらおにもご飯をたまに出していたっけ。
『さっき、たまたま夕飯をご馳走になったとき、サンマの事を言っていたぞ。猫は人の気持ちが分かるってな』
とらおも一応、猫じゃんか。
『まあ、そうなんだけどな。お前みてぇな、器用じゃないから』
あれ、意外。気の強いとらおがそう言うなんて。
『な、何だと (笑) ……まあ、おじいさんが少し元気になってよかったよ。じゃあな、サンマ』
とらおは、その場を後にした。
▫▫▫
そして夜。
ボクは寝床に戻る。
うーん、今日も元気に何事もなく。
こうした何気ない毎日が幸せ、だね。
そんじゃあ、また……日が昇るまで。
読んで頂き、ありがとうございました。