3
話が逸れてしまったが、あのイケメン少年、ひなと君は、確かな実力と天使のように美しい顔を持つ子役モデルだ。
それ故に、両親からの期待、過度な可愛がり、特に色欲を受けていた。
彼は風水晶でたまに見るものの、齢は知らなかった。
ぱっと見、立花と近そうだ。だから、幼いながらよく耐えていたいたのだと今になって気付く。
(情を入れちゃあ駄目だろ自分。)
夢斬りにおいて、これは重要なのだ。
そんな訳で言い方が悪いが、何故裏口から入る手続きをしなかったのか、少し疑問だった。
その彼が、あまりにもこちらを見ているからか、立花が背伸びをしようと騒ぐからか、前に並んでいたご家族、その前のご家族にと、どんどん譲られてしまった。
立花を微笑むご家族方を見て、お前も誤解されてるじゃないかと思う。
(良いご身分だな)
こんなに目立つのは立花のせいだ。といいがかりを付けつつ。
「入学おめでとう。……ごめんねひなと君。お約束はお忘れですか?」
耳元で彼にしか聞こえない声で問う。
「あ、え、ごめんなさい」
謝罪の言葉を頂いてしまったた。
(優しい口調で、と心がけたつもりだったんだけど)
大きくなったね、と柄でもないことを言おうと思ったら。
「うちのひなとに、何かご用?」
(あぁー)
そりゃあ、突然息子を謝らせた人間に良い感情はないだろう。母親に思いっきり睨まれる。
だが、発言が気に食わないのは、夜刀だけだろうか。
(突然、何かご用?と言われても)
母親に目を向ける。母親の鞄には、白紙の色紙とペンが入っていることに気づいた。なんとなく、一般の列に並ぶ理由は分かった。
(これは忠告すべきか?……いや。)
まだ突拍子もないことを起こそうとしているかどうか分からない。過去の事実とは区切りをつけなくては。
(でも一応俺も、王国臣下なんだよな)
騎士の卵に知り合いが多いのも、これが原因だ。
もどかしい気もするが、母親を向く。
「……いえ。大した用はないです。知り合いのひなと君を見つけたので、ただご挨拶をと。」
ちらりと鞄を見ながら言う。
(こんな理由じゃあ列を譲ってくれたご家族方に申し訳ないな)
改めて口封じに来たなんて言えない。自分のミスを悔やむ。ひなと君に申し訳ない。
「そうなのね」
嫌な目を向けてくるのは、自分が皮肉めいた発言をしたからだ。
「俺も学園には長くいます。分からないことあったら聞いてね」
立花の手を軽く引いて付き添いアピールをしつつ、
(営業スマイル、営業スマイル……)
夢霧師の活動は基本真夜中、対象者の睡眠中。死んだ顔で働いていても問題ない。だから、こういうのとは全く無縁なのだ。
これを理由に、夜刀は夢霧師が天職であって欲しいと願っている。