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にゃんこの生活 のはじまり

作者: 中尾リョウ

なんだか突然猫になって


全然知らないところに捨てられた



助けてくれる人もいなくて


ただかくれていた


ご飯は食べられなかったけど


お腹はすかなかった


だから怖いいきものがいないところに


ひっそりと丸まっていた



最初はさむかったけど


だんだん平気になった


山の高いところにも行けるようになった


ひとりぼっちで見るきれいな景色は


なんだか目に染みた



さみしかった


同じいきものがいないから


おはなしできない


仲良くしてくれるのは


ふかふかの土がつまった木の穴や


ぽかぽかの日がさしこむ大きな石の上


誰も聞いてないけれど


気まぐれに歌っていた



だんだん怖いいきものがいなくなった


あちこち歩き回ってみた


でもやっぱり


同じいきものはいなかった


まあいいか


ひとりぼっちにはなれている




前と変わらないな



まえ?




ねて おきて さんぽして


ねて おきて さんぽして


ねて おきて


ねて おきて


ねて


ねて


ねる




ふと気がついたら


お尻のしっぽが増えていた


池を覗いてみたら


茶色かった目が


青くなっていた



他のいきものの気持ちが


なんとなくわかる


うれしい


楽しい


耳を済ませる


とおくとおくまで



居心地のいいところをつくって


まわりをたくさんさんぽした


色んないきものがいた


少しはなれたところから


いきものをながめていた


近づくと逃げちゃうから



あるとき叫び声がきこえた


それといっしょに


なんだかどろどろした気持ちが

伝わってきた


気持ち悪い


爪で引っかいてやった


しんだ



あるとき泣き声がきこえた


こっそり近づいたら


ちょっとだけ大きないきものが


血を流していた


そのいきものよりも小さな


おんなじいきものが


周りをぐるぐる回っていた


悲しそうな声をあげながら


なんだか気持ちがもやもやしたから


血を流していたそのいきものを


じっと見つめていた


そうしたら


突然元気になって


大きいいきものも小さいいきものも


うれしそうに鳴いた



あるとき怒っているような声がきこえた


よくあることだけど


すごく近くでさわぐから


大声で脅かしてやった


そのいきものたちは


ふっとんで


そしてしばらくしてたちあがって


にげていった



あるとき小さな小さないきものが迷いこんできた


ひとりぼっちだった


なんだかほうっておけなくて


自分の体で包んで


あたためてあげた


そのいきものは


柔らかい葉っぱや果物をたべてたけど


そのうち他のいきものが食べたいって言い出した


つかまえることがまだできないようだったから


代わりにつかまえてあげた



しばらくして


そのいきものは去っていった


死ぬ前に


生まれた場所がみたいんだって




うまれた場所かぁ


ぼくはどこだろう


捨てられた場所かな


いってみようかな


場所わかるかなぁ




わかった


というか


結果的にわかった



なんだか見覚えあるなぁと思ったら


きれいな石があって


えいってつっついてみた


そしたら突然


目の前ががまっしろになった




次に気付いたとき、目の前にいたのは

僕を全力で投げたあの人だった

直接触れてしまったことで力が流れ込んでしまって

あわてて投げたのだそうだ

説明もなにもできず



しかし結果として、一番長生きしてるから

わからないものだとわらっている


他にも僕と似たような人は結構いたらしい

でも今生きているの人はいないそうだ

無計画に冒険にでて盗賊にらやれたり

町で仕事を見つけてもならず者に絡まれてボロボロになったり

学校に行けてもついていけずに退学になって自暴自棄になった人

お金がなくて窃盗して捕まって長期労役の上死んだり

優秀でも派閥争いに巻き込まれて故郷から追われたり

ハーレム作ろうとして失敗して女の子に刺されたり

自然災害にまきこまれたり


華々しい活躍をしたやつも少しはいたらしいけど

あんまり長生きしなかったって

裏切りとか代償とか身代わりとかパトロンに飽きられたりとか

とにかく色々だって



僕はたまたま猫になったから

たまたま良い場所に落ちたから

色々な幸運が重なって

長生きできたらしい

あんなに寂しい日々が幸運かあ

人生って解釈しだいなんだな

いま猫だけど


そうそう

あのきれいな石は力のかたまりで

本来僕の身体にゆっくりと馴染ませるつもりだったらしい

直接僕を抱き上げてしまって

そこから力が入っちゃったから

もう使わないらしい

だからもらうことにした

キラキラしてきれいだから

落っことした場所の目印として

僕を投げた後にその石も投げたんだって

いつかまたこの場所にぼくが来たときに

わかるように


これからどうするって聞かれた

僕は猫だからわからないって答えた

頭は賢くなったかもしれないし

あまり考えられなくなったかもしれない

僕は猫を望んだから猫になった

気の向くまま

縛られることなく

やりたいことができたらやって

あとは日向ぼっこして寝ていたい

そう答えた


じゃあ、とその人は言った

観測手になってくれって

見続けてくれって

何かあったら連絡してほしい

こちらから連絡することもあるって

基本的にはなにもしなくていいらしい


かんそくしゅ、というの仕事はよくわからないけど

わかったと答えた

何かあれば連絡くれるんだろう



それまでは適当に好きに過ごそう





~サイド:管理者A-s~


同じではだめ 主観が混じりすぎるから

違いすぎてもだめ ヒトはミジンコを理解できないから

あと今回のケースは

任命時に命に執着がないことが重要だったから

死にたいでもだめ

生きたいでもだめ


以前の身体と似た生き物がいて

今の身体と似た生き物がいる

そういうケースの研究らしいから


なるべく長く居続けてほしい

またさがすの大変だし

まぁ基本的には暇な仕事だし

好きに楽しんでくれたらいい



ちなみに「似た生き物」に主人(猫?)公が気が付かなかったのは、猫のイメージがあまりに固定されていたためです。管理者側にとっては似た生き物でも、主人公にはそう見えなかった、というオチ。

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