表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
背中越しの恋人  作者: 雨宮 瑞樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/54

帰結


『番組始まって早々ですが、驚きのニュースです。今世間をにぎわせている宮川亮さんの人気失墜を狙った陰謀計画があったとの報道が流れたのです。私もそれを拝見しましたが、内容は衝撃的なものでした。あまりに内容で私も懐疑的だったのですが、その音声データーまであるとのことで驚愕しました。その一部が公表され、宮川さんに報道陣が殺到しています。中継です』


 亮のホテルの部屋のテレビに唯と徳島は、噛り付き固唾をのみながら切り替わる画面を瞬きを忘れるほど見つめていた。

 

 あの日。唯からボイスレコーダーを受け取った徳島は週刊真話に駆け込み、頼み込んだ。

「宮川の記事とこれを差し替えてください。

 このボイスレコーダーには、宮川さんを陥れようとしていた大阪聡の汚い手口の一端が記録されています」

「でもなぁ。以前の山口アナウンサーとの熱愛記事は俺のところで出したし……」

 週刊真話の所長は、渋った。すべて大阪のガセネタだったことを公表すれば、週刊真話は嘘を見破れない二流週刊誌だと思われる。そんな思考が働いたのだろう。それを見破った徳島は、告げる。

「以前の記事。出せと大阪聡に言われたんでしょう? あなたは確かに世間の話題と金に目がくらんで承諾したことは事実。でも、そこにビッグテレビ社長、つまり大阪聡の父親の圧力もあったということを付け足してはいかがでしょう? 実際に、記事にすることを望んでいたわけですし。そうすれば、ビッグテレビ社長の座。今度こそあなたのところに転がり込むかもしれませんよ?」

 週刊真話の所長はビッグテレビの大阪社長を恨んでいた。そこを擽ってやれば、所長はすぐに首を縦に振っていたのだった。


 そして、唯はこの報道が流れると徳島から知らされ、同時に記者たちが殺到してくるであろうことを見越し、アパートから避難してきていた。灯台下暗し。この提案をしたのは徳島だった。今、彼女は唯の横で唯以上にテレビを睨むように真剣なまなざしを向けている。今まさに、亮が記者に囲まれている時間。なのに、なぜ徳島がここにいるのか。それは、唯がここに辿り着く数分前に遡る。 


「徳島さん、亮に付いていかなくていいんですか?」

「……今回の囲み取材。多分、その場に私もいたら『その質問は、やめてください』とか余計な口を挟んでしまうと思うんです。ですから、少しは成長したはずの宮川さんを信じて、私もここで見守ることにしました」

「……なるほど」


 あの厳しい徳島が亮を全面的に信じている。そのことが嬉しく誇らしい気分になった唯は、今徳島と並んでソファに座っている。

 テレビスタジオの男性アナウンサーが消えて、ざわついている記者たちに切り替わった。群がっている記者たち。無数のフラッシュ。テレビ越しでも暑苦しく眩しいくらいだから、きっとあの場にいる人達の視界も体温も正常に働いていないんじゃないかと思える。それほど、異様な光景のその中心に亮がいた。またパッと画面が切り替わって亮の顔が画面いっぱいに映し出されていた。

 その顔を見た瞬間、どこからともなく湧き上がってきた緊張が包み込み始めていた。唯は、固唾をのんで、祈るように両手を合わせた。


『宮川さんの人気を落とすためにさまざまなでっち上げ記事を用意されていた。その真実を裏付ける音声データーと共に公表されました。あの記事と音声は事実でしょうか?』

 この場の雰囲気に完全に飲まれ、興奮しているのか質問している記者の声が上ずっていた。

『はい、事実です。僕は、こういった業界に入ってからまだ日が浅い。まだまだ未熟者で、偉そうなことは言えません。ですが、純粋に夢を追い努力を積み重ねている者たちを、上に立つ人たちが自分の私利私欲、私情で気に入らないものを排除したり罠にはめたり……そんなことをするのは間違っていると声を大にして申し上げたいと思います。理不尽な道理が罷り通ってしまっているこの世界が変わればいい。努力が報わる世界であってほしい。努力するものが平等に手を差し伸べられ、舞台に立つことのできる環境になることを切に願っています』

『大阪さんにかける言葉は、ありますか?』

『僕からは何もありません。目が覚めることを願うまでです』

 記者と対照的に平然とそう言ってのける亮に、先ほどまでの緊張が吹っ飛んでいた。素直にすごいなぁと思う。

 あんなにたくさんの人の前で、いつもと変わらず、落ち着いている亮。私だったら、あんなところに放り出されたら冷や汗もので怖気づいて、立っていることさえもきっとできやしない。そんな比較は無意味だけれど、どうしてもそんなことを考えてしまいながら、思う。やっぱり、私は亮のことがどうしようもないくらい好きだ。この気持ちは、もう変えたくても、二度と変えられない。


『あの音声は女性と大阪社長の息子さんとのやり取りが主でした。あの女性がボイスレコーダーを忍ばせていたということですか?』

『はい。そうです。僕も彼女がそのようなことをするとは思っていなかったので、肝が冷えました』

『その女性は、どのような方ですか?』

『……自分の保身は二の次で、人のためならばどこへでも飛び込んでいくような勇敢な方です』

『宮川さんとは、どういった存在でしょうか?』

『僕の支えとなってくれているこの世で一番大事な人です』

『それは、お付き合いされている方という認識でいいんでしょうか?』

『はい』

 あまりに自然と頷く亮に、記者たちの口があんぐりと開いていた。まさか、そんな素直な返事が返ってくるとは思っていなかったようだ。しばしの沈黙は、失われた時間を取り戻すように質問が次々に押し寄せた。ざわざわと騒ぎ出す記者たち。唯の心もざわざわと騒ぎ出す。徳島は想定内だったようで、じっと画面を見つめたまま表情は変わらず見守っていた。

 

『その方は芸能界にいる人ですか?』

『彼女は一般の方です』

 そこまで、柔和な笑顔を浮かべていた亮だったが最後の一言で、波が引くようにすっと消える。

『ですから、追い掛け回すのは絶対にやめてください』

 急に雰囲気が変わり殺気立った亮に記者たちは目を丸くし息をのんでいた。これは、本当に彼女を追ったらまずいぞ。そして、この宮川亮という男は怒らせるととんでもなく怖いということを見せつけられたのか。しんと記者たちは静まりかえり、凍り付いたように固まっていた。

『じゃあ、そういことで』

 一転亮が営業スマイルを披露して、その場を切り上げようと背を向けた。

 唯はほっと胸を撫でおろすその横で、徳島は感動しているようだった。

「余計なことは言わずに、切り上げるなんて……宮川さん、成長しましたね……」

 徳島は呟き、目を潤ませていた。


 テレビ画面も左右に揺れて、亮が消え騒めく会場全体が映る。 これで、一連の取材も終わりか。これ以上聞きにくいなと、諦めムードが漂った記者たちに視点が切り替わったとき。

『待ってください。恋人について少しくらいきかせてください!』

 諦めきれないとばかりに一人の記者が声を上げた。僕も仕事をしているんだ。これだけじゃ、引き下げれないとばかりの声。亮は振り返り、その記者を見た。まだ学生なんじゃないかと思えるほど若そうな、スーツに着せられている若者記者と亮の様子が映し出される。固唾を飲む若者記者と亮の視線がぶつかっていた。会場が二人の間にできた緊張に包まれる。それを一蹴するように、亮が亮はニヤリと笑った。 

『僕は聞かれたことには素直にお答えしますよ』

 嬉しそうに言えば、怒涛の如く質問が二重にも三重にもなって押し寄せた。

『いつ知り合ったんですか?』

『お付き合いされた、きっかけは?』

『年齢は?』

『彼女のどういったとろこに、惹かれたんですか?』

『彼女とは幼馴染なんですよ。僕の初恋といっても過言ではありませんね。彼女は……』

 それに、楽し気に聞かれていないことにもペラペラ喋り始める亮に唯の顔は真っ赤になり、徳島の頭には角が生え始めていた。

「……前言撤回します。私は、宮川さんを過大評価しすぎていたようです。締めなおします」

「私も、加勢します」


 そんなことなど、知る由もない亮はキラキラの笑顔を浮かべて語り続けていた。

 この後、鬼と化した二人から滾々と説教されることも知らずに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ