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背中越しの恋人  作者: 雨宮 瑞樹


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諸刃の剣3

 翌日、朝から大学に行って講義が終わった後。

「今日この後、カラオケでも行かない? そのあと、ファミレスでも行ってご飯一緒に食べようよ」

 ひなは亮に託された任務を遂行すべく、唯に提案をしていた。

 何より唯をできる限り一人にしないことが重要。ならば、今日の夜は唯の部屋に押しかけて居座ってやろうと考えていた。だが、その唯からの返事はひなの意気込みを出鼻からくじいてくる。


「あぁ……でも、今日の夜はちょっと」

 という唯に、すかさず「何か用事でもあるの?」ひなは食いつく。唯の目は一周泳いでから、ひなの目を捉えて、考えるようにゆっくり答えた。

「母に久々に呼び出されたのよ。この前、家で同然で家を出ちゃったでしょう? それで、さすがに心配してきて今朝、電話がきたの。ちょっと話し合わないかって」

「あぁ、そうなんだ」

 ひなは「確かに母親としては、解決したい問題よね」と理解を示しつつ、唯を観察する。

「だから、ごめんね。また今度」

 ぱちりと視線が合う唯はニコリと微笑んでいた。

 確かに、もっともらしい言い訳だ。いかにも本当っぽくて怪しい。何よりも、無理やり笑っているあの笑顔。口元は笑っているけれど、目は全然笑っていない。うまく胡麻化しているつもりなんだろうけれど、私には通用しないわよ。

「何時にどこで、待ち合わせてるの? 私も普段唯にお世話になってるから、挨拶しようかな」

「ひなって、本当に付いてきそうだよね。でも今は母と私、険悪なんだからひながそこに来たら気まずいでしょ?」

 苦笑する唯は、そういってやんわりと話をそらしてくる。せめて、もう少し情報が欲しいのに。そんな焦りが、ひなの口を先走らせていた。


「じゃあ、せめて何時にどこ行くかくらい教えてよ」

 ひなの自然を取り繕っていたはずの幕が、焦りのせいで全部剥がれていく。唯の微笑みもそれと一緒に消えていた。

「……ねぇ、ひな。亮に……何か吹き込まれた?」

 代わりに唯の周りに分厚い壁が出来上がり、警戒という頑丈な鎧を身に着け始めていた。

 マズイ。どうしよう。そう思ったときには、はぁっため息を吐いて唯は踵を返していた。

「ともかく、私この後まだ授業あるから。また、明日ね」

 遠くなっていく背中。掴みかけたしっぽがするりと逃げていく。

 これは絶対何かある。間違いないのに。ひなは、道の真ん中で頭をかきむしり、自分の単純さに頭を抱えた。変な奴がいるぞ、と振り返ってくる学生たちの目線が痛い。でも、その痛みが自分自身への怒りに変化していく。

  あぁ、もう私何やってんのよ! こんなんじゃ、亮さんに合わせる顔がないじゃない! 唯のボディーガードになるなんて息巻いていた自分が情けなさすぎる。何とか挽回しなければ。小細工だとか、そういったまどろっこしいことは向いていないことは自覚している。ならば、もうこうなったら行動あるのみ。私の取り柄は、体力と突破力。唯に気付かれないように尾行するしかない。

 ひなは、立ち上がり拳を握った。


 唯が授業を受けている間に、ひなは夜まで尾行が続くことを想定してコンビニに駆け込んだ。おやつに、使い捨てカイロ、温かい飲み物を懐に入れて、ニット帽をかぶり、唯が今受けている教室の校舎前の影に隠れて対象者が出てくるのを待つ。

 数分後。ぞろぞろと学生たちが校舎から出てくる。その中に唯が含まれていることを瞬時に確認。人の波の中でもわかるほど唯が際立った美人でよかったと思いながらひなは唯の後を追った。

 駅に向かい、電車に乗る。離れたところから唯の後をつけていく。緊張しながらどこに行くのかと思ったら、普通にアパートに戻っていく唯。

 一旦、帰るのか。と少し安堵しつつ、拍子抜けするひなも、自分の部屋に戻ることにした。

 唯の部屋はひなの部屋の真上。しかも、唯の部屋のドアは、若干建て付けが悪いのか軋む音が響く。出ていくときは、わかるはずだ。その音を聞き逃さぬよう聞き耳を立てながら、冷蔵庫からジュースを取り出しほっと息をつく。

 しばらく寛いでいると、ギイっとという音が壁を伝って聞こえてきた。ふと壁掛け時計を見れば、時刻は十七時を回ったところ。


 ひなは慌てて外に飛び出すと、静かにカギをかけた。暗くなりかけている空に、コツコツと階段を下りてくる音が木霊する。

 唯がヒール履いてる? まさか。唯がヒールのある靴を履いているところなんか今まで一度もない。パンプスならまだ、分かるけれど。物陰に隠れて階段を降り切って、エントランスへと向かっていく唯の後ろ姿に驚く。

 白いロングコートにショルダーバッグを下げ、その下には青いワンピースが垣間見える。そこからすらりと伸びた足に水色のピンヒール。そして、ちらりと見えた横顔はメイクもしっかりと施されていた。同性でさえも釘付けになってしまうほどの美しさに息をのむ。元々の美人は、ちゃんと化粧をするとこんなに目を惹くんだ。私なんて、いくら化粧をしても人目を惹くどころか、やっと一般人と同等になれたというくらいのレベルなのに。あまりの自分との違いに気落ちしてしまいそうだ。そりゃあ、亮さんも唯を溺愛するわよね。純粋に羨ましい。

 いやいや、そんなことよりも、どうしてあの格好? 今日は亮さんは忙しいらしいから、デートではないはず。

 そんなこと考えていたら、唯はすでにアパートの外。

 ひなは、余計な事考えていないで集中集中。そう言い聞かせながら、そのあとを追っていった。


 再度電車に乗り、唯が向かった先は新宿。

 やっぱり。バイト先だと、ひなは直感する。行き交う人込みを掻き分けて、東口の改札を出る。そのまま唯がバイト先へ向かうのかと思いきや、飲み屋街を歩いていく。バイトじゃないの? 誰かと約束? まさか、本当にお母さんと会うというオチじゃないわよね。そんなことを考えながら、唯の背中をひたすら追った。

 時折スマホを確認し唯が立ち止まると何人もの男性が声をかけていたが、それを無視しながら進んでいく。そして、目的地に着いたのか。店の前で足を止め、店の入り口の横に立っていた看板を確認している唯に横から男性が声をかけ始めた。

 先ほどとは違って、唯はその人を無視することなく親しげに話始める。誰かしら。この距離だと声が全く聞こえない。幸い唯達はひなに背を向けている。唯が会話に気を取られている隙にひなは距離を詰めて、声が聞こえる程度の場所へと移動。そして、すぐ横にあった薄暗い路地裏を発見。そこに滑り込み息を潜めた。


「……声かけるのやめようと思ってたんだけど、周りが水島さんに声絶対かけろって煩くてさ。だから、佐々木先輩に頼んで、連絡入れさせてもらったんだ。体調は、大丈夫? やっぱり、この前ちゃんと送ればよかったって反省してたんだ」

「ただの風邪だし、もう全然大丈夫。それより、幹事お疲れ様。山形くん」

 宵闇にも映えるほどの美しい笑顔に、山形の顔が赤くなっていた。

「……なんか、雰囲気がいつもと違うね。更に、綺麗で……なんか緊張するな」

「ありがとう。今日は気合、入れてみたの。大阪さんと最後だし」

 そんな会話をしながら、二人は店の中に入っていく。それを見送りながら、ひなは記憶を掘り起こすと、唯が山形と大阪がしつこいとボヤいていた時のことを思い出していた。

 ということは、やっぱりこれはバイト繋がりの集まりだ。

 ひなは、スマホを取り出し画面に指先を滑らせた。

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