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背中越しの恋人  作者: 雨宮 瑞樹


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追跡10

 唯が少しずつ落ち着きを取り戻そうとしていた時、満月が驚いて雲隠れてしまうほどの甲高い声が夜空に響いた。

「唯! やっと見つけた!」

 ひなの声に弾かれて唯は亮から慌てて身を離して涙を拭う。平静を装おうとしたが、それよりひなは瞬時に唯の異変を見抜いていた。ヒールを踏み鳴らしながら物凄い剣幕でひなは、亮の前に迫りくる。

「全然戻ってこないから探しに来てみたら、ちょっと、あなた! あの場をめちゃくちゃにした上に、唯を勝手に連れ去って泣かせてるってどういうこと? あなた、噂のりょうすけよね? 私の堪忍袋の緒もいい加減切れたわよ!」


 眼光鋭く亮を睨みつけてどんどん距離を詰めてくるひなに対して、亮は何度か瞬きをする。

「リョウスケ?」

 唯が一体どういう説明をしているのかわからず、唯の方へ目を向けようしたところで、ひなが割って入ってくる。

「すっとぼけないけないでよ!」

「ひな、大丈夫だから……」

 物凄い剣幕で亮に畳み掛け続けるひなの間に唯が宥めようとひなの肩に手をかけてもそれを払いのけて「唯がそんな生ぬるいことばっかりいうから、この男もつけあがるのよ!」と逆切れしてくる始末。唯は後退りして、苦笑いを浮かべるしかなかった。亮はどうしたものかと頭を掻いていると、亮の心臓にびしっと人差し指を突き刺し更に距離を詰め、亮の顔を真正面に見据えていた。

「あなたが唯をほったらかしている間、唯たくさん男に言い寄られていたのよ。私は何度もいい加減他の人と付き合えばいいって言っても、唯は一途にあんたのことばっかり。唯をどれだけ苦しめれば気が済む……の……よ……」

 あれだけ威勢がよかったひなのボリュームが一気に下がって口が完全に開けっ放しになる。急な変化に気づいて唯はひなに近寄ると、ひなの殺気が困惑の色に染まっていた。


「……ひな?」

「ねぇ、唯。毎日雑誌とか見すぎてとうとう私、おかしくなったのかしら……。私の目には、りょうすけという最悪の男が、宮川亮にしかみえないんだけど……」

「……えっと……」

 なんと答えればいいのか困り果てている唯に変わって亮は、間を置くことなくはっきりと告げていた。

「どうも。宮川亮です」

 そう言った途端、目が落っこちるんじゃないかというほどひなは目を見開いて物凄い速さで後退りしてゆく。そして大分離れたところで助けを求めるように唯に視線を寄越してくるひなに唯は観念するしかなかった。

「……ひな、隠しててごめんね」

 唯のだめ押しの事実に、ひなの魂はまたぼんやりと現れた満月に吸い込まれて、また雲の向こうに消えていった。


 完全に放心しているひなを亮と唯で何とかタクシーに乗せてアパートへと向かい、降りる頃には辛うじて魂の一部は戻ってきていたようだが、ひなの周りにはどんよりとした空気が漂っていた。それを受けて、唯には心苦しさと申し訳なさが押し寄せてくる。

 思い返してみたら、最近はひなに嘘ばかりついていた気がする。何を聞かれてものらりくらりと適当なことばかり言って。そのくせアパートを紹介してくれたり、気を遣わせて。これじゃあ、恩を仇で返したものだ。ぐっと手を握りしめて唯は肩を落とし前を歩くひなを呼び止めた。

「あの、ひな。どうしても言えなくて……。ごめんね」

 立ち止まったひなの横に並んで唯が頭を下げると、ひなにさっと手で制された。唯の謝罪は、ひなの手にあたって消えていく。俯いたままのひなはどんな表情なのかよくわからなかった。けれど、きっと今の言葉を受け入れてくれた顔では決してないことは立ち尽くすひなを見れば手に取るように分かって唯もこれ以上何といえばいいのかわからず黙り込む。ひなは、そんな唯を見ることなく静かに言った。

「……私が毎日宮川亮の話題を持ち込む度に、唯は内心私の反応を見て笑ってたんじゃないの?」

 ひなの辛辣な言葉が冷えた空気にまっすぐ唯の胸に向かってくる。

 そのあと用意しておいた言葉は止めを刺されたように行き場を失い、唯の眉間に悲しげな皺となって現れていた。それを見た亮は、いてもたってもいられず亮はひなの前に立つ。

「周りに俺のことを話すのはやめてほしいと、俺が言っていたんだ。余計な騒ぎになると思って。だから、唯は君に嘘を……。だから、唯を許してやってくれないかな?」

 亮が二人の間を取り持つように柔らかく声をひなに投げかける。と、ひなは俯いたままだというのに、ひなの顔は耳まで真っ赤になっていた。そして無言のまま激しく頷いたかと思えば、その場から逃げるように自分の部屋へと走って、亮と唯を閉め出すようにバタンと乱暴に閉じられていた。唯の視線はその音にぶつかってまた静かに落ちていく。


「……俺のせいで、ごめん」

「ううん。私のやり方がまずかったの。今度ちゃんとひなに謝るから大丈夫よ」

 唯はそういって平気そうに笑っていた。唯はいつも落ち込んだ時も、傷ついた時も無理やり笑顔を作って心配させまいとする癖があることを知っている亮には、余計に落ち込んで目に映る。そんな亮を察知したのか、唯は重苦しい空気を追い払うようにパチンと手を叩いた。

「実は、私実は一人暮らし始めたんだよ」

 知らなかったでしょ? といたずらっぽい笑顔を亮に向けてくるのを亮は呆れた顔を向けていた。

「そんなのとっくに知ってるよ」

「え? 何で?」

「唯を探してるときに聞いた」

「何だ、驚かせようと思ったのに、つまんないなぁ。夕方荷物置いただけで、何もないけど中だけ見ていく? 結構いい感じの部屋なんだよ」

 明るくそう言ってアパートの階段を上りながら作っていく唯の影を亮は辿っていた。



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