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背中越しの恋人  作者: 雨宮 瑞樹


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追跡8


「色々考えていたら、ここまで時間が経っちゃった。本当なら、亮がわざわざ私に会いに来るようなことさせる前に言うべきだったけど、できなかった。余計な時間を使わせてごめんね」


 頭をフル回転させて、感情に追いつかれないように口先だけを必死に動かすことに集中しながら唯は口を開いた。


「私思ったの。私達は同じ舞台に立っているって思っていたけれど、本当はちょっと違う場所にいたのかもしれないって。亮はいつも一段高いところにいて、私はそんな亮をずっと見上げていた気がする。

近いところで、ちょっと上にいる亮が色んなことを危なっかしく仕出かすのを声が枯れるくらい怒ったり、応援したり、喜んだりしてさ。時々、サボろうとしたり、何でも直球でいこうとする亮の背中を叩いて、窘めてみたり、ぐいぐい押してながら文句を言いながらも少しずつ私の手から離れてまた飛び出してく亮の背中を見ているのが、大好きだったよ。

亮と一緒にいた毎日は、本当に楽しかったし穏やかだったしかけがえのないものだった。渡米してからだって毎日ドキドキしながら亮のことを考えながら過ごして、亮が帰ってくるのを待ったりして。そんな何気ない日々が宝石を散りばめたみたいに輝いていたよ。私の手じゃ余るほどに、たくさんの幸せを亮からもらった。だけど、もう十分よ。これ以上は私のちょっと小さい手じゃもう抱えきれない」


 亮から視線を落として唯は自分の手のひらを見つめる。失いかけた光が一瞬だけ光って、すぐに闇のまれて消えていく。終わりの時は、こんな風に色を失っていくものなのかもしれない。


 幼い頃は、一緒に手を繋いで家まで帰るのが当たり前で。小学校もずっと毎日登下校してたけれど、いつの間にか手を繋ぐのは恥ずかしくなって、中学生の頃は少し距離を空けながら隣を歩いていた。付かず離れず。そんな距離を保ち続けていたけれど、その距離がなくなって、何十年ぶりに繋ごうとした手にはずっと握りしめていた種があった。それを二人で埋めて、また繋いだ手は記憶にあるよりもずっと大きくて、温かかった。

 そして、気づけばその種は大きく育っていて、亮を思う気持ちが彩り豊かな花となって咲いていた。だけど、その花はいつかは枯れてしまう。

 点滅していた白い光が繋ぎ止めていた糸を切るようにパチンと音を立てて消えた。

 闇夜に包まれると、置いてきた感情が追い付いて振り返らせようと必死に腕をつかんでいた。それを振り切るために、唯は笑顔で断ち切る。


「だから、もうおしまい。たくさんの夢を見させてくれて、ありがとう」


 唯の声は、闇に溶けるように静かに震える。何も言わない亮の息遣いだけが響いてくる。沈黙の隙間を見つけて、何とか抑え込んでいた感情が一気に溢れ出しそうだった。本当は、亮とずっと一緒にいたい。本当は、どうしようもないくらい亮のことが好きだ。

 せっかく逃げ切った思いがこのままじゃ、涙に変わりそうで、そうはさせないように唯は口元を引き上げて明るい声を発した。


「それに亮には、もっと光を与えてくれるようなそんな人がお似合いだよ。ほら、この前噂になってた山口さんみたいな。キラキラしていて、亮と一緒に輝けるような人。私みたいに辛気臭いのといつまでも一緒にいると、輝けるものも輝けなくなっちゃうよ」


 冗談っぽく言ったつもりだったのに、やけに沈んだ声に自分でも驚いてしまう。感情に飲まれてはダメだ。そう言い聞かせるほどに、視界が歪んでくる。これ以上亮の前にいたくなくて、踵を返そうと背を向けようとしたのに、亮の手は素早く唯の腕を掴んでいた。

 本当は顔を見たくない。けれど、掴まれた腕がやけに熱くて仕方がない。思わず掴まれた腕からゆっくり亮へと視線を移せば、今までに見たことのないほどに真剣な眼差しとぶつかった。


あまりに真っすぐに見つめてくる黒い瞳。ぶつかったところから、本当の感情が溢れ出しそうになる。厳重に包んでいたはずの本心。包まれた薄い膜が呆気なく破れて決壊しそうだった。それを阻止するために唯は口の端を引き結び喉の奥もギリギリ息ができるほどに細く閉ざして、ぐっと抑え込んでいた。

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