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背中越しの恋人  作者: 雨宮 瑞樹


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追跡6

 ひなに無理やり水色のワンピースを押し付けられて、ひなに強引に引っ張られてやってきたのは都内のレストランバー。

 店は全体的にガラス張りで外からでも中の様子がよく見えるようなっていた。店は全体的に照明が落とされて大人の雰囲気。元々乗り気ではない会にこんな洒落た店など入ったことのない唯は余計に気が重く全身が拒否反応を示していた。溜息ばかりつく唯に、ひなは唯に念を押していた。

「そんな露骨に嫌な顔するのは、ここまでにしてよね。ほら、いつもバイトで接客しているでしょ? 営業スマイルお願いね。さ、行こう」

 それとこれとはずいぶん話が違うと言いたいけれど、きらきら輝かせている今のひなの瞳に何を言っても今は鏡のように跳ね返されてしまうんだろう。諦めるしかない唯は鉛のように重い足取りでひなのあとに続いて、店の中へと入っていった。


受付スタッフに声をかけると、窓際のテーブル席に案内された。通路側には無精ひげを生やしたツーブロック男。窓際にたれ目が印象的な長めの黒髪にゆるふわパーマ男が先に席についていた。

「フミヤ、お待たせ」

 ひなが満面の笑みで手前にいたツーブロック男、フミヤに声をかけ一言二言言葉を交わすと。ひなの横で棒立ちになっている唯の脇腹を肘でつついてきた。仕方なく唯は伏せ目がちだった瞳を上げてを男性陣に向ける。

「こんにちは」

 唯が無理矢理愛想笑いを浮かべてそういうと、フミヤの瞳にぽっと熱が加えられたようだった。隣にいるゆるふわ男もやけに熱くるしい視線を送ってくる。唯は思わず一歩後ろに下がると、ゆるふわ男性にフミヤが「こっちに手を出すなよ」と小突いていた。


 ひなが奥のゆるふわ男正面席に座り、唯はフミヤの正面に座る。

「ね? 唯美人でしょ?」 ひながそう言うと

「本当に。ひなにこんな綺麗な友達がいたなんて驚きだよ」

 フミヤはにやけながらそういうのを、唯はどんな顔をしていいのかわからず溜息をかみ殺すのに必死になるほかなかった。

 それぞれに軽い自己紹介をした後は、ひなはすぐにゆるふわ男と打ち解けたようだった。唯はそれを横目で見ながら流石だなと思う。盛り上がりを見せる二人。ひなは、大学でも友人が多い。親しみやすい雰囲気は、ここでも例外なく発揮していた。一方の唯はフミヤの質問攻めに、答えるのに辟易としていた。出てくる料理に箸をつけても、何一つ味がしない。ただ胃が重くなっていくだけだった。


 最初は、趣味やバイトの当たり障りのない話に触れる程度だったが、少しずつ踏み込んだ話になってくる。

「今度デートしない?」とか「唯ちゃんは、僕の好みのど真ん中だ」とか「唯ちゃんは、僕の人生の中で出会った人の中で一番きれいだ」とか、ひたすらに誘いやら、歯の浮くような誘い文句を述べてくる。時折口に運んでいた食事が苦くなり始める。だが、フミヤは構わず怒涛の攻め一辺倒。

 ひなに助けを求めようと唯がそちらを見ても、期待は霧散してゆく。真っ直ぐにひながゆるふわ男に向ける視線に唯が入る余地などなかった。ここで、用事があるとでも言って帰ってしまおうかと一瞬頭に過る。でも、ひながせっかく楽しそうにしている腰も折りたくない。その葛藤の穴に落ちたように身動きが取れない唯はせめて視線だけは逃れたいと苦し紛れに忙しなく揺らしていると唯一の細い逃げ道をも塞ぐようにわざわざフミヤは視界に入ってくる。

「彼いるの?」

 更に唯を追い詰めようと真っすぐに視線をよこしてくる。

 そんな質問、ここ場を切り抜けるためならば「います」と即答すればいい話だと思う。けれど、隣にいるご機嫌のひなの顔と盛り上がっている二人の会話。そして、どうしても思い浮かんでくる亮の顔が唯の喉の奥で邪魔をして異物がつかえたように言葉が詰まる。けれど、変な隙は与えないほうがいいと冷静な頭が働いて、慌てて唯は口を開こうとした。すると、こちらの会話は聞いていないと思っていたひなが割って入り唯の代わりに答えていた。


「彼とうまくいってないのよ、唯」

「ちょっと、ひな!」

 唯はひなを睨むが、素知らぬ顔。

「別にいいじゃない、本当のことなんだから」

 それだけ言い置いて、またゆるふわ男との会話に戻っていくひな。

 ずっと我慢して平静を装っていた唯の顔も流石に険しくなる。一方のフミヤの顔はわかりやすく緩んでいた。より一層前のめりになってくる。唯はできる限り椅子の背もたれに体を押し付けていたが、自分にはどこにも逃げ道なんてなくて、檻に入れられたような気分になって追い詰められていた。

 

「僕にチャンスあるって思っていいってことだよね? 遠慮なんてしなくていいってことだ」

 最初は疑問形だったのに、断定的な言葉に変わって強引さを増してゆく。ずっとぎりぎりのところで避けていた攻撃が唯のみぞおちにまともに直撃してゆく。

「じゃあ、この後二次会に行こうよ。もちろん二人で」

 胃に大きな穴が出来上がってしまったんじゃないかと思えるほどに、キリキリ痛み始めて視界が歪んでいきそうになる。

 そして、その奥から浮かび上がる。悩んだとき、困ったとき、どうしても亮を思い出してしまう亮の顔。

 ダメダメ。何思い出してるのよ。内心で叱咤しても、逆効果。どんどん鮮明になっていく。

 首を振って、無理やり打ち消そうと俯き足掻いていると、突然。


「唯はあなたと付き合うことあり得ませんよ。唯にはここにれっきとした恋人がいるので」

 その声に、唯の心臓が身体からこの店の外まで飛んでいきそうなほどに、跳ね上がった。

 気づかぬ間に、唯の横に立っていた人物。ゆっくりと顔を上げれば、そこには。唯が一番会いたくて、一番会いたくなかった人物。唯は目が飛び出るんじゃないかというほど大きく見開き、絶句していた。


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