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008 旅先の宿という贅沢

投稿初日から1週間が経過しましたが、自分の書いた作品を読んでくださる方がいて日々とても幸せな気分です。

ありがとうございます!これからもマイペースにですが更新していくようにします。

開店準備といってもテントのような簡易な出店ではなく、貸し店舗を利用したものであったため俺たちの手伝った仕事といえば主に力仕事だった。

馬車に運び込まれていた荷物の運搬と、出店時の看板の設置、商品の配置という具合だ。


なのであっという間に作業は終わった。依頼なんていらなかったんじゃないか?と思ったが、もしかするとこれは子爵やその商隊が冒険者に宿の手配をするための理由づくりあるいは好意だったんだのではないかと思い至った。これまでの護衛任務で相手にとっていい仕事ができたなら嬉しいが。


後日マリィさんにきいたところ、やはりそういうことだったようだ。高ランク依頼だと仕事の出来に応じて相手から正規報酬以外にも礼があったりするとのこと。ただし、好意以外の時もあるので注意が必要だということだ。




「おぉ、これは、人生一番の宿!」


期待を裏切らず、商隊の手配してくれた宿は質が良かった。

清潔感があり、広く感じる間取り。

絶妙な弾性をもつ広めのベッド。

魔道具を使ったシャワールーム。

冒険者用か防具や武器の簡易手入れセットもアメニティにある。


この得も言われぬ高揚感が旅の醍醐味かもしれない。


俺は荷解きをして、シャワーを浴びると持ってきた普段着に着替えて、宿に併設された食堂へと向かった。

マルルクと夕食を食べる約束をしていたのだ。


食堂は、これまた清潔感に溢れており、ホテルのレストランといった様子だった。

4人がけのテーブル席が10卓程度、2人がけも同程度。衝立がかかっており半個室となっている。

漏れ聞こえる会話内容から宿泊者だけでなく外からも来客があり、賑わっているようだ。

なお、このように開かれた場所では依頼主の秘密にしたいことや依頼内容などは話題にしないのがマナーだ。




「あ、リョウカ!こっちこっち!」


「マルルク、ごめん待たせたか」


「そんな待ってないよ、気にしないで。さっき、店員さんにおすすめをきいたから、いくつか注文しちゃったんだけど」


「すごい腹減ってたから早く料理が来るのは助かる!さすが、マルルクは気が回るな」


俺が席についてすぐに料理が運ばれてきた。

テーブルには、3皿が並んだ。


1皿目、様々な生野菜が盛られたサラダ。

これは嬉しい。前世では八百屋カフェをやっていたからこそ、この野菜たちの新鮮さがよくわかる。

特にこのキルーティは商業の集積地であるが故に国内に大規模な田畑や厩舎はほとんどない。

きっと、特殊な運送手段があるのだろう。


2皿目、前菜5種盛り。

チーズがチェダーとモッツァレラ、塩漬けの豚肉。しかもお高い魔獣肉だ。

あとは燻製卵、レバーのパテが乗ったクラッカー。

冒険者が教えてくれたり、自分でも見つけるのはどちらかといえばガッツリ量が食べられる場所が多かったため、こんな洒落た店はすごく久しぶりだ。胸が踊る。

俺はどうにも店の開拓とかが苦手なんだよな。


3皿目、フライドポテト。

シンプルにありがたい。食べ盛りの空腹には芋がよく効く。

ソースや塩もあって飽きがこないように工夫されている。


「一杯目だけ、その、お酒にしてみる…?僕たち成人してから初めて飲むし」


「カーティには悪いけど、彼女お酒は飲む気がないって言っていたし飲んじゃおっか。度数が低いものなら1杯程度なら明日には支障ないだろう、きっと、たぶん」


前世では、それなりに飲めていたけどそれと今とは別問題だしな。飲めなかったら少し、いやかなりショックかもしれない。


なおカーティにも定期的に会っているが、成人祝いしようって話した折、『路上の事故原因トップ10入り、不健康な人がしてることランキング常に上位キープ、他にも美味しい飲み物があるのにわざわざ飲む気持ちがわからないわ、ふん』と言われてしまった。


「そうだよ、ね!よし、頼んじゃうからね!」


マルルクが注文をしてくれた。きっとまたセンスのいいものを頼んでくれるだろう。


ちなみに、禁酒する年齢は定められていないため、飲もうと思えば子供でも可能だ。ただ、子供の飲酒は体に悪いという認識がサルマリアでは一般的であり、基本的に成人である15歳から飲酒を始める。


同じ連合王国でもケイタム諸国では、一部の民族で酒が体にいいとされており、子供でも誕生日や年越しなど定められた日に酒を飲むことがあるそうだ。


そして料理に加え、最後に乾杯の酒が登場した。

少し青みがかった黄緑色の透明な酒が上品なグラスに入っている。

よく見るとふつふつとごく小さな気泡がでていることから微発泡の酒、スパークリングワインといった感じか。色は珍しいけど。


乾杯の前にまずは祈りだ。孤児院を出てからも俺は続けている。

マルルクも同じようだ。


教会の祭る神というのは、主神と言われている神。名前はアルカディトス。

名前は恐れ多いということで基本的に言ってはいけない。呼ぶときは、主や主神、我らが神と言うのが通例だ。


主神は、もしかしたら俺があの転生の時に話をしたヒトだったのではないかと思う。

貴方のおかげで今世は楽しく生きているし、小さな幸運が舞い込んでいる感じがする、旅をしたいという願いも達成できた。ありがとうございます。と祈り、感謝を伝えた。


お互いの祈りが終わったらようやく食事だ。この瞬間のために働いているのだ!


「では、お互いの成人と、昇級を祝って……乾杯!」


「乾杯!」


軽くグラスを合わせ、グラスの中身に口をつける。


まず、最初に爽やかな果実感ある香りが鼻に抜けた。

次に舌先に少しピリリとした酒特有の辛さ、そしてくどくない甘さが広がった。


「美味しい」


「うん、こんなの初めて飲むよ」


飲んだ感じ、どうやら俺もマルルクも下戸ではないらしい。良かった。

この先も彼と飲みに行けるな。


今世、初めての酒を楽しんだあとは料理に舌鼓を打つ。

どれもこれも美味しい。酒とうまい料理を同時に味わうなんてほんと何年ぶりだろう。

やばい、気を抜くと泣きそうだ。


「よし、追加で料理頼もう。今度はガッツリと主菜として肉にしようか。マルルクはどうする?」


「僕もそれで。なんだか食べ始めてようやく自分がすごく空腹だったのに気づいちゃった」


「そういうことあるよな。よし、じゃあ適当に注文してみるよ」


その後、心ゆくまで飲み、よく歓談し、満足するまで食べた。

気づけば当初の予定よりも会計の値段が高くなっていた。


旅は普段から根付いているはずの節約思考を失わせるんだな。

なんて、ちょっとふところの具合が寒くなったが、それを上回るほど初めての長旅、そして宿泊ができたことに心が熱くなった。


この高揚感、非日常感を味わうためにまた頑張ろう。

この国での滞在が良いものになりますように。

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