006 護衛依頼(初旅行)の開始
「護衛依頼、なるほど。冒険者ならではですね」
シャーウッドさんが出した依頼書を受け取って内容を確認する。
◆依頼名:商業国への護衛(片道)
◆推奨ランク:シルバーランク以上
◆依頼概要:王都パルタからキルーティ商業国の都市シャータまでの護衛を依頼いたします。
◆予想期間:4日 ※片道の依頼となります。
◆募集人数:6名
◆推奨能力:特にはありませんが、馬車に乗っての移動となりますので酔わない方の方が望ましいです。
◆特記事項:特になし
依頼書を見るだけだと、簡単そうに見えるがそうではない。
国と国の間には道が通っているが、それでも野生の魔物が突然現れるためだ。
魔物は動物とは異なり、交戦的な個体が多い。
人間だけを襲うというよりかは、自分と異なる種族や群れに対してひどく敵意を持っており、種族間でも多く争いがあるというのが最近の有力説だ。
ちなみに、なぜ交戦的かについては、強そうな相手に対して倒せるうちに倒したいという思考をしているから、魔力回路を持つ生物を喰らうことで能力が高まる感じがするから、など様々だがこれについては推測の域を出ていない。
ホットな研究課題なのだ。
「商業ギルド所属員とその荷物の護衛だね。馬車数は2個、先に5人パーティーが申し込んでてね、ソロの人を探してたんだ」
「なるほど。行き先は、キルーティですか」
3つのお隣さんのうち一番近い位置にあるのがキルーティだ。
はじめての護衛依頼、もとい旅行先にはぴったりかもしれないな。
「じゃあこの依頼、受けますね」
「はいはーい、じゃあ後で私の方で決裁しておくよ」
依頼書をシャーウッドさんに返した。
「キルーティといや、そろそろ開国祭だろ?いい時期じゃねぇか」
ギルデルドさんが肩を叩いてきた。
彼にしたら軽いノリなんだろうけど、質量のある剛腕は割と痛いのだ。
「ギルデルドさん、その開国祭って言うのは?」
ギルデルドさんの肩たたきを避けつつたずねてみる。
「おう、キルーティ開国祭はなぁーーー」
ギルデルドさんの話してくれた内容はまとめるとこのような内容だった。
70年前、キルーティが国として認められたことを祝福して毎年行う祭りで開催期間は10日と長めの祭りとなる。
国中の至る所で市が開催されるほか、大都市ではパレードが行われたりと大賑わいになるそうだ。
また、中央都市ではオークションなんかもあるのだとか。
一度でいいから競り落とす、と言う体験もしてみたいかもしれない。
前世ではネットオークションすらやったことがなかったし。
なお、1日の金の動きが大きいため、キルーティの専属となっている自警団や傭兵団だけでなく、俺たちのような連合の冒険者も仕事がわんさかあるとのこと。
下手なことをしなければ破産はしないそうだ。
財布の紐の緩み具合には気をつけないとな。
「なるほど、本当にすごい祭りなんですね。孤児院にいた時には気づきませんでした」
「行くことがなきゃあそんなもんだよな」
「何で好き好んで人がゴミみたいに湧く場所に行くんだよ?ここでアタシ様の面倒を見る大切な仕事を放り出してまでさぁ」
ミリア師匠はからみ酒のターンだ。これは面倒くさくなってきた。
「まぁまぁ師匠、もう一杯。今度はリキュールなんてどうです?」
「ん」
俺は師匠にグラスを渡しておいた。
ちなみに師匠が人混みが嫌なのは、身長が低くてぶつかられやすかったり、見たいものが人の背で見えなかったりしたことがあったからだ。
浮遊魔法を使って憲兵隊にお説教を喰らったせいもあるに違いない。
「あ、リョウカくん。長距離の護衛依頼初めてだし、事前の準備とかキルーティのタブーとか教えてあげるよ。ついておいで」
助け舟が出された!乗り遅れてはいけない、この空前絶後の波に!
「お願いします!シャーウッドさん!」
翌朝、俺は依頼書に指定されていた待ち合わせ場所に来ていた。
「リョウカじゃない。君がもう一人の護衛依頼を受けた冒険者だったのね」
話しかけてきたのは、王都のギルドでたまに臨時でパーティを組んでくれて、その際に他のパーティとの合同依頼の受け方を教えてもらったりした【銀の牙】のパーティリーダー、マリィさんだ。
彼女はパーティの中では攻撃魔法を主とした戦い方をする。
「はい。俺、長期の護衛依頼は初めてだったんですけどマリィさん達と一緒なら安心ですね」
「うふふ、私たちが初めてになるのね。嬉しいわ。それに、私たちにとっても連携の経験がある人と組めるのは助かるのよ」
マリィさんは穏やかに、しかし艶やかに笑った。ずっとそのままでいてほしい。
「あ、リョウカさん。遅れましたがシルバーランクへの昇級おめでとうございます。同じランクの同志として切磋琢磨していきましょうね」
「ありがとうございます。俺もシルバーランクとして恥じないようにこれからも頑張りますよ」
次に話しかけて来たのはヒーラーのアッシェルトさん。ヒーラーらしい優しげな口調が特徴だ。
【銀の牙】は二人の他に、近接戦闘要員としてファイターのヘルムントさん、タンク役をしているダンテさん、斥候役のネルさんがいる。
それぞれ俺に手を振りながら、自分の武器や持ち物の点検をしている。
彼らにはずっとお世話になっていたが、これからは同じランクなのだ。
頼りにしてもらえるように俺も頑張ろう。
「あぁ、依頼主が来たわね。みんな、第一印象はしっかりとね、リョウカもよ?」
「はい!」
2台の馬車が待ち合わせ場所からやって来ると、中から商業ギルドの依頼主が出てきた。
中年の中肉中背の男性で人懐こそうなのにできる奴感がある珍しい雰囲気の人だ。
もうすでに印象がいいって感じてしまった。
これが凄腕の商業ギルド員の要件なのかもしれない。
「本日は、私共の依頼を受けてくださりありがとうございます。私はこの商隊の代表を務めます、カインズ・カムヒャットと申す者です。本日より商業国に着くまでの間、よろしくお願い申し上げます」
相手先は貴族の方を含むのか。ギルド所属の場合、貴族に対しても過剰に謙る必要はないとされてはいるが実際にはケースバイケースだ。これはいつも以上に礼儀には気をつけないとな。
そっと背を伸ばし、足を揃えて立つ。
俺たちの代表としてマリィさんが一歩前に出る。
「ご丁寧に挨拶してくださり感謝いたします、カムヒャット子爵。私は今回の依頼を請け負いましたマリィと申します。護衛任務は、私の所属する【銀の牙】5名、ソロ1名で行うことになりますので、どうかよろしくお願いいたしますね。
冒険者への依頼やご指示の変更などございましたら私にお申し付けください」
マリィさんは冒険者と思えぬ優雅な返答をした。
「【銀の牙】のお噂は私もよく耳にします。実力のある方々に依頼を受けていただけて幸いでした。もうお一人は随分とお若いですね。その年齢でシルバーランクを獲得されたということは素晴らしいですね、よろしくお願い申し上げます」
俺は慌てて礼をした。
「彼はリョウカと言いまして先日、昇級したばかりで、今回が昇級後はじめての依頼となります。ご迷惑をおかけしないよう私共も努めますのでご寛恕くださいませ」
「いえいえ、冒険者ギルドのランクは公正かつ正確ですから頼りにさせていただきます」
カムヒャット子爵は俺に対してにっこりと笑った。
「まぁ、実を言いますとリョウカさんのことは事前に知っておりました。ふむ、これも縁かもしれませんね。今回運搬する荷物はリョウカさんを良く知る方達によって企画されたものですので」
俺をよく知る人…?
冒険者ギルドの人達だろうか?大穴でミリア師匠という可能性も……いや、ないな。
「ほら、来てください。ご友人がお困りですよ」
カムヒャット子爵が苦笑しながら呼びかけると、馬車から人が出てきた。
すらりと背が長く、痩身。あの見覚えのある猫背の少年はーーー
「ってマルルクじゃないか!」
「あはは、お久しぶり。相変わらずリョウカも元気そうで良かったよ」
成長した友人はかつてと同じようにふにゃりとはにかんだ。
見切り発車で始めたのでストックが全くない…計画性がほしいです。