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003 ギルドと顔合わせ

「ちょっと、聞き捨てならないわ!」


男二人、盛り上がっていたところに水を刺したのは同じく11歳の少女カーティだった。


プンスカと怒りながらこちらにやってくる。元々つり目でキリッとした印象がさらに凄みを増していた。歩くたびにトレードマークのサイドテールが揺れて、彼女の怒りゲージを表しているかのようだった。


「マルルク、よりにもよって冒険者ギルドなんて危ない職業にリョウカを就かせるつもりなの?

3年以内離職率5ギルド中ワーストワン、1年以内怪我率70%以上、1年間の死亡者数は不動のナンバーワンで殿堂入りしているあの冒険者ギルドに?」


やけに詳しいな。そしてそんなランキングや統計があるのか。


「ああ、元より危険は承知だ。商業ギルドにしたって町の外にでたら冒険者じゃなくても危険を伴うんだ」


カーティは普段からお姉さん系の面倒見の良さがあって助けられることも多かったが今はその面倒見の良さが過度になってもはやオカンの域に達していた。


オカンはいつも、一言目には「それ、危なくない?大丈夫なの?」ときいてきたな。

なんとなしに戻れぬ前世を思い返す。みんな元気かな。店、誰か継いでくれただろうか。


「ちょっと、きいてるの、アンタのことについて話してるのよ?」


きいてなかった。


「いや、ちゃんときいてるよ。俺のこと心配してくれてるんだよな。ありがとう」


カーティは一歩二歩とたじろいだように足を引いた後、勢い良く俺にタックルをキメた。

ごまかすようにサイドテールを手で弾いて揺らした。


「そ、そ、そんなんじゃないわよ。勘違いしないでちょうだい」


……照れ隠しが物理に寄りすぎている。マルルクを見習って欲しい。照れてはにかむだけなんだぞ。

うぅ、綺麗に鳩尾に入った。痛い。


「ただ、冒険者ってのは、アンタらが思っているよりも、ずっと怪我とか死んだりとかしやすくって、一緒に暮らしてる家族とか、周りの人を悲しませる職業なの。夢とかロマンとか現実の見えてない甘い理由で選ばないで」


カーティはそれだけ言うと背を向けて走り去っていってしまった。

カーティの親は冒険者だったときいたことがある。もしかしたら……。


「………………よし。やっぱ冒険者ギルドにする!」


「えっでも…」


「でもって、外に行くのは強くなってからだ。地道に実績つけて、怪我ひとつしないくらいに強くなって、カーティのお墨付きもらった時にする!」


「…っ!じゃ、じゃあ僕はいつでも君をサポートして欲しいものを手に入れられるようにする!」


「おおう!」


「おー!」


再度盛り上がる二人を遠くから見つめる者がいた。


「仕方ないから、私が危険にならないようなモノを作ってあげるわ。そうと決まればシスターに相談ね」

くるりとサイドテールが揺れた。



あっという間に、ギルドとの顔合わせの時が来た。

顔合わせは会社の面接のようなもので、お互いにやっていけるかどうかを確かめるために行われる。基本的には人事クラスの人か直属の上司というか面倒を見てくれる人が来てくれるらしい。


面接か……最後にやったのはいつだったか……高校の入試、いや銀行に融資をお願いしたときの方が緊張したな。


「リョウカ!本当にいいんだね?冒険者は誰もが知ってる危険な職業だ。実入りはいいがそれだけにリタイアするやつは多い」


顔合わせ前に、シスターから尋ねられた。

眉間に皺を寄せて、腕を組む姿は後ろめたい気持ちがあればすぐにわかってしまうだろう。だが問題はない。


「はい、真剣に考えた結果です!」


自信を持って答えた。


「ならば良し!では入れ!先方はもう来ている」


シスターが部屋のドアをバーンと開け、顎をしゃくって入室を促した。


「失礼します!冒険者ギルド入りを希望したリョウカです!よろしくお願いします!」


相手は俺の登場にぎょっとしているが、シスターは満足げに頷いていた。彼女の基準に合格できたようだ。

シスター仕込みの行動や話し方にはよく驚かれる。同じ教会関係者も驚いているので少なくとも教会の方針ではない。


俺は相手の前になる椅子のそばまで近づき、相手をよく見る。これからお世話になる(はずの)人達だ。


相手は二人組で、ひとりは壮年でガッチリとした体格のスキンヘッドの男性だ。

こちらはそこまでは驚いていないようだ、もしかしたらこの顔合わせによく来ているのかもしれない。


もうひとりは、若手の男性、だと思う。線が細く、中性的な顔立ちをしており、性別を感じさせない。彼はとなりのスキンヘッドを見たり、こっちを見たりといいリアクションをしてくれている。


「あー、とりあえず座ってくれ。気楽にして問題ない」


スキンヘッドは椅子を進めた後、隣の男性を小突いて「落ち着け、舐められるぞ」と小声で言っていた。

男性は気を取り直すように軽く咳払いをする。


「ごほん、リョウカくん。まず、この度は冒険者ギルドを選んでくれてありがとう。ギルドに所属する者としてとても嬉しい。

まずは自己紹介を。私はシャーウッド。普段は受付などの事務を行なっているがシルバーランクの冒険者としても活動をしているよ。隣にいるのはこの町のギルド長、ガラル。これから君のボスとなる人物だ」


ギルド長……?ここは王都だからたしか国の中の一番偉い冒険者ギルド長なんじゃないか?なぜそんな大物がわざわざ……。


「リョウカ!言いたいことがあるなら質問をしな!」


「はい、シスター!」


反射的に答える。それを見てまた、シャーウッドさんが微妙な顔をした。


「すみません、純粋な疑問なのですが何故ギルド長のような地位のある方が俺みたいな孤児院の子供ごときの顔合わせにいらっしゃるんですか?」


「おおう、商人みたいな話し方だな。冒険者にはあまりいないタイプだ」


それはお前はうちのギルドに相応しくないって意味か?!でもタメ口なんてしたらシスターにブートキャンプスペシャルをやらされてしまう……。


「まぁいい。冒険者ギルドはその職の厳しさから、その町にいるギルド長が加入の判断をすることになっているんだ。孤児院はこの顔合わせが実質的に加入決めの場になっているからな。ここには俺と、入った後のフォロー役を連れてきているんだ」


「そうだったんですね」


「加入を決めるために、俺はいつもひとつだけ質問をしている。リョウカ、ふざけねぇでガチで答えろよ」


「はい!」


一度座り直し、居住まいを正す。


「じゃあリョウカきくぜ。お前は冒険者ギルドで何をしたい?何が目的だ?」


ギルド長は座った膝に両肘を置き、じっとこちらを見る。


ただ見られているだけなのに、圧迫感を覚え、緊張からか口が乾く。無理やり息を限界まで吸い、吐くその勢いで答えた。


「俺は……俺は、この国を出て、広い世界を自分の目で確かめたい!この世界にはどんな国があって、どんな人が住んで、何を作っていて、何のために戦うのか。森や平原、山、海、どんな自然が俺たちの生きている世界にあるのか、この目で見てみたいんだ!、です!」


ギルド長は目を見開いた後、ガハハと笑った。


「ほぉ、ほぉ、これはまた豪快な奴がいたもんだな、いいな、気に入ったぜ!リョウカ!お前の加入を許可する!」


嬉しさと興奮のあまり立ち上がって、お辞儀をした。


「ありがとうございます!これからよろしくお願いします!」


俺はこれから、冒険者になるんだ!


リョウカのいる孤児院が所属する教会は創造神を崇める教会です。

お告げや神具など、神の力を感じられる機会があることから種族を超えて広く信仰されている感じです。

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