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002 進路相談会

俺は守屋良寛。読み方はモリヤリョウカだ。リョウカンでもヨシチカでもない。


俺は地球で生まれ、自分の中では割といいと思える人生を歩む最中に死んだ。ちなみに交通事故だった。

人間、頑丈なようであっけなく終わってしまうんだな。

感想はさておき、人間の生まれ変わり説が本当だと気付いたのは、死んだ後の事だった。


創造主らしい男性と話をして、旅をしたいという願望を叶えられるようにちょっとした贈り物をもらったりして、気づけば転生していた。


そして今はーーー



「リョウカ!教会の庭掃除は!」


いかつい声で、いかつい顔をしたシスターが声を飛ばしてきた。今日も修道服から形のいい筋肉が浮き出ている。間違いなくシックスパックだ。


「終わった!礼拝堂もバッチリだ!」


慣れたもんで、俺も同じように声を飛ばして答える。ノリと勢いが大事だ。


「よし!魔力不足になった奴もいないようだな。お前ら良くやった!準備できたやつから食堂に行け!朝飯だ!」


その声を聞くなり、俺と掃除当番だった子供達が我先にと食堂に消えていった。


現在、俺は教会付きの孤児院で暮らしている。


転生した当時は6歳で、俺は孤児院の前で眠っていたらしい。

その後、いかついシスターがため息と舌打ちをしながら俺を引き取り、今に至る。


そんな俺は今11歳。孤児院にいられる最後の年を迎えていた。


孤児院は12歳の誕生日で出なくてはならない。もちろん、12歳のガキが何もなしに外に放り出されてもすぐに非行に走ったり簡単に死んだりする。

そのためそこから3年間、15歳の成人を迎えるまでは孤児院と関係の深いいくつかのギルドで面倒を見ることになっているのだ。


「お前ら、主は存在している。今日食べるその飯もつまるところ主の恵みといえる」


食前のいつもの祈り。この時ばかりはシスターも静かに声を出す。


「聖水や聖武器を作り出せるのは教会の中でもより強く主を信じられるやつだ。食いっぱぐれたくなかったら今日も主に祈れ。では祈り終わったやつから食事してよし」


子供達はほんのちょっと祈った後、すぐに朝食を食べ始めた。今日のメニューは丸パンとスープだ。というか毎日これだ。


ちなみにシスターは、ガッツリ5分くらい祈ってから食べる。見た目によらず信心深い。


「ねぇリョウカ、君、行きたいギルド決まった?」


話しかけてきたのは俺と同じ11歳のマルルク。ひょろりと背が高く、もう170cmくらいになっている。将来はきっと2mの大台に乗る気がする。


しかし長身だけに、不安そうにいつも猫背でいるのがちょっと残念な友人だ。


「俺もちょっと悩んでいるんだ」


「そっかぁ……リョウカって決断力あるし、てっきり決まっているのかと思ってた」


「マルルクも決まってないのか。そろそろ、行きたい先とのギルドと顔合わせ入ってくるよな」


「来月だって……僕、シスターに早く決めろって会うたびに言われるんだ」


背の丸まりが大きくなった。

無性に真っ直ぐに戻したくなり、パンッと背中を叩いた。


「大事なことだもんな。後で一緒に決めよう。お互いにさ、やりたいこととか話したら案外決まるかもしれないしさ」


「うん、そうだね。ありがとう」


ということで、朝食後マルルクと相談会をした。場所は孤児院の中にある裏庭。芝生に座れば心なしかリラックスできる気がする。


「孤児院で紹介してくれるギルドは全部で5つだよな」


「うん、冒険者ギルド、商業ギルド、鍛治ギルド、薬師ギルド、魔法ギルドだね。

こんなにたくさんのギルドに紹介があるのは僕たちがいるのが王都だからだよね。僕の前に暮らしていたところは、各ギルドの合同出張所?とかいうのひとつだけだったし」


「そうなのか」


「あ、そっか。リョウカは孤児院に来るまでの記憶がなかったんだったよね。ごめん、嫌な気持ちにしちゃって」


またマルルクの背中が丸くなった。そのまま球体になりそうな勢いだ。


本当は記憶がないわけではないしなんなら前世の記憶を持っている。でも、面倒なので孤児院前の記憶がないことにしていた。


罪悪感をごまかすように首を振る。


「気にしてないって。今は結構楽しく生きられてるしさ。マルルクもそうだろ」


「うん!」


「5つの中で、候補はあったりするのか?」


「薬師ギルドか、商業ギルド…かな。消去法だけど」


マルルクはおとなしいが、能力は高い。孤児院で教えている文字の読み書きはもちろん、簡単な計算もこなすしよく本を読んでいたりと勤勉家だ。


「いいんじゃないか?なんとなくイメージ湧く。ちなみにその理由は?」


「僕は力がないから、体力的に問題なさそうなのがその二つだったんだ」


「体力の基準をこの孤児院基準にしてるから低く思えるだけで、全体から見ればそんなじゃないと思うけど……」


孤児院は、40秒で支度がデフォだったりシスターによるブートキャンプがよく開催されたりする。


「でも、マルルクは手先とか器用だし頭もいいからあっていると思う。この二つの中から選ぶんだよな。どっちも行けそうだから余計迷うな」


「あはは。リョウカの方が僕より真剣だ」


「もちろん、同じ孤児院で育った仲間の今後を大きく変える一大事だもん」


そう言うとマルルクは少し驚いた後、照れてふにゃりと笑った。


「そ、そうだ。リョウカは?リョウカはどのギルドかで悩んでるの?僕にも君の手助けをさせてよ」

と、今度は体を前のめりに、真剣に聞いてきた。


「えっと、冒険者ギルドか商業ギルドの二つ」


「対極的だね」


「うん。あのさ、笑わないで欲しいんだけど、俺外の世界に行ってみたいんだ。どっちのギルドも移動が多いだろ?だからそこでなら別の国に旅行とか行けると思うんだ」


「旅行、か。想像もつかないや……すごいな、国の外に行ってみたいなんて思ったこともなかった。でもリョウカらしいって思えるよ」


今度は俺が照れ笑いをする番だった。自分の意見が全面的に肯定されるのってこそばゆい。


「外ってどんなところなんだろう。自分がいるところ以外があるって言うのもなんだか想像がつかないなぁ…………あ、そうだ!」


マルルクの背筋がピンと立った。思わず彼を見上げて見る。


「君が伝えてくれればいいんだ!本とかにして、で、それを僕が他の人に伝えていく!」


「お、お、おう?旅の日記を書いてみせたりとか?」


「そんな感じ!よし、僕、商業ギルドに決めた!」


「そんなあっさり!?」


「それで、リョウカは冒険者ギルド!外に行くなら最後はきっと腕っ節の強さだろうし」


「そ、そうか?じゃあ冒険者ギルドにしようかな」


マルルクの謎の勢いに流されて進路を決めてしまった。


「ちょっと、聞き捨てならないわ!」

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