001 転生面談
はつとうこう
…。
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『守屋さん、守屋良寛さーん、カウンターまでお越し下さい』
「え、あ、はい…?」
気がついたらどこかの病院のカウンターみたいな場所に立っていた。少し高級感と清潔感が漂う。
目の前には、受付と思われる女性と男性が1人ずつ。印象に残らない外見だが何となく神々しいような気がする。
『あら、珍しいわ。ねぇ、これの書類ある?』
『今、用意した。守屋さん、こちらの書類をお持ちになって、0番の部屋の前でお待ちくださいね』
はい、と言う前に空間が入れ替わった。
瞬きの間に場面が転換し、俺は0番と書かれた扉の前に立っていた。
「なにが、どうなっているんだ……?」
あたりをキョロキョロと見回し、次に先ほど渡されたらしい書類を見つめた。
【転生ガイドブック 特別版】
あなたは創造主との転生相談に当選いたしました。
この後、創造主と面談形式で次の転生先について相談を行えます。
このガイドブックは、相談できることの種類や限度、創造主と会う時のマナーについて記したものです。
相談の開始までこちらを読み、お待ちください。
ガイドブックをパラパラと開くと、転生先診断があった。
▶︎あなたはこれまで生きた世界についてどう思いますか?
次もまた同じ世界がいい/次は違う世界がいい
▶︎あなたが幸せを感じるのはどちら?
敵を打ち倒した時/仲間と勝利を得た時
▶︎あなたは精霊や悪魔といった存在をどう思いますか?
好ましい/鬱陶しい
▶︎人の価値は何で図れると思いますか?
数値化されたステータス/その人の言動や成果
一体何を聞かれているのかだろうか。ちょっと厨二っぽいな。
アホらしいとガイドブックを閉じた。
『守屋さん、お入りください』
マナーだけは見といたほうが良かったかもしれない……。
気づけばまた場面が転換し、俺は身分の高そうな男性の前にテーブル越しに座っていた。
ここは応接室のような場所だろうか。
男性をみると、華美ではないが、質の高そうなローブを来ていた。表情は柔らかいがこれまで会ってきた経営者や何かの代表をしていた人と同じような、人の心を見透かすような鋭さも兼ね備えている。
ガイドブックにあったように、本当にこの男性が創造主なのだろうか。
先程までは眉唾物だと思っていたが現に会ってみると、そうとしか思えなくなっている。
『呼び出してすまなかったね。そこの茶や軽食をつまみながら君の相談に乗るとしよう』
男性はいつの間にかテーブルの上に出ていた紅茶を持ち、俺にも勧めた。
飲まないのは失礼だと思い、近くにある紅茶を一口飲んだ。
「あれ、これは……」
俺が開いている八百屋カフェのメニューにある、フルーツティーの味だ。
『君の店で出していたものを取り寄せたのよ。馴染みのある方が安心できると思ってな。軽食も同じだから、遠慮せずに食べるといい』
よく見ると、たしかにほかの食べ物もメニューに載っているものばかりだった。
「では、お言葉に甘えていただきます」
よくわからないままにお茶をして、男性からのとりとめもない質問に答えていく。
それは、俺の学生時代のことであったり、農家の暮らしから出て、店を構えた経緯であったりした。
『では、君のご家族も君の始めた事業に心から賛同してくださっているのだね、良いことだ』
「はい。俺としても勝手をやらせてもらえて有難いと思っています」
男性は少し眉を申し訳なさそうに下げ、紅茶をソーサーに戻した。
『君ももうわかっていることだとは思うが……君は人生の幕を下ろしている。これまでの話を聞くからに、良い人生であったから名残惜しいだろうが、これからは別の生を送ってもらうことになる。』
「……はい、そう、ですよね」
気がついてからの不可思議の連続。夢でないならそうなのだろう。そう自然と思えた。
「ちなみに、死因は何だったのでしょうか?幸か不幸か俺はどのように死んだのか覚えていなくて」
「まあ君なら問題ないか。気落ちしないでもらいたいが、交通事故だ。玉突き事故に遭ってしまったと記録されている」
「そう、ですか」
『言いたいことや様々な思いがあるだろうが先に進ませてもらう。
こほん。今回の席は、君に望んだ形で新しい生を送るチャンスを与えるために設けたものだ。これまでの人生でできなかったこと、あるいは続けたかったこと、してみたいこと、君の望みを聞かせてほしい』
「俺の望み、ですか」
農家である実家から出て、家の野菜を使うカフェなんて小洒落た店を始めたり、離婚はしたが一度は結婚もした。毎日、充実していて、いい日々だった。
でも、あえていうならーーー
「旅行、をしたい、かもしれない」
『旅かね?少し意外ではある。理由を聞いても?』
「子供の頃から家の手伝いがあったり、店を開いた後は後で、毎日仕事をして。そういえば、旅行なんて学生の頃の修学旅行ぐらいしかなかったと思い出しました。
自分の住んでいるところ以外は動画や本の中でしか知らなくて、いつかは行ってみたいと思っていたんだって気づいたんです」
『なるほど。転生は大きな旅とも言える。きっと君は次も良い生を送れるだろう。だが、君のいた世界ほど、各地へと人が自由に移動できる世界はほとんどない』
「俺のいた世界でも、海外旅行に行けるようになったのはつい数十年前のことですし、そんなものだと思います」
『簡単なようで、意外と難しいのな。あやつらも上手くやっているようだの』
今回、俺がこの男性に相談することになっているのは、部下?の仕事体験のようなものなのだろうか。どこかの飲食店でも、アルバイトとして雇ったおっさんが実は本社のお偉いさんだった、なんてこともあるやうだし、抜き打ちチェックの面もあるかもしれない。
男性はどこからか分厚い本を取り出し、うんうんと唸っている。
『……ううむ。あそこなら……君、運動は好きそうだね。あと働くのも』
「ええ、まぁ」
『なら大丈夫か……。君を転生させる先を決めた。君がこれまで生きてきた世界よりは全体的なやや過酷であるが、逆にいえばある程度力があれば認められる風潮がある場所だ』
「弱肉強食的な?」
『飾らずに言えば。もちろん、穏やかな場所もあるがの。特に人の住む場所は魔力も弱いから住みやすいだろうよ。念のため、体を丈夫にしつつ、旅先でうまく立ち回れるように幸運プチの加護をつけておくかの」
「幸運プチ……」
微妙だ。いや、そんなものをつけられるのか。
『幸運∞などつけたら国の争いの元になること間違いないし、国に囲われて旅なんてできそうにもないしの、プチ程度で丁度いいのではないかと思ったのだの』
「プチでお願いします」
男性はうまくいったとうんうんと頷き、俺に手をかざした。
『せっかくだから、記憶も残して、すぐに旅に行けるようにある程度年齢もあげておくか。よし、では行ってらっしゃいな。次会った時、また話を聞かせてくれ』
「も、もう?!心の準備がっ」
できていない、少し待ってくれーーー