他の貴族令息達と親しく致しましたら、自分の事を棚に上げて、王太子殿下が切れました。
「ちょっと貴方、生意気ではなくて?王太子殿下はわたくしの婚約者。
それを男爵令嬢ごときの貴方が親しくしてよいと思っておりますの?」
「何をおっしゃいますのやら。学園は身分関係なく平等なんですっ。
王太子殿下と親しくしてどこが悪いというのですか?」
「ですから、王太子殿下はわたくしの婚約者。そこをはぐらかさないで頂戴。」
「ですからぁ。婚約者なんでしょうっ。婚約を白紙にすればいいじゃないですか。
王太子殿下は私の方が魅力的って言っているんですうっ。私の方が可愛くて癒されるっていつも言って下さいますし。親しくして何が悪いの?」
「可愛くて癒されるだけでは王妃は務まらないのですわ。貴方に王太子殿下を支える教養、マナー、ふさわしい物がありまして?」
「ええ?それって必要ですか?教養は無くても、笑顔ならピカ一番ですっ。王妃なんて、にこやかに王様の傍にいれて微笑んでいればいいんじゃないですか?」
「それでは困るのです。外交はどうするのです?わたくしなんて多国語は近隣5か国をマスターしておりますのよ。ですから、外国のお客様が来てもスラスラと応対できます。」
「ええええ?それって外交官に任せておけばいいじゃないですか。あと、宰相とかいらっしゃるのでしょーー。王妃様ってにこやかにニコニコしてればいいと私思うんですけどー。」
「それじゃ、この国の王族は無能と、外国に馬鹿にされますわ。王妃となったからには、諸外国と対等に渡り合って、それから、しっかりとした跡継ぎを作らねばなりません。
貴方は自分の子を未来の王にする覚悟がおありですか。」
「そんなのーー。生むのは構わないけどーー。教育は教育係に任せておけばいいじゃないですか。
もし、私が生めなかったら、側室とるんでしょ?王族ってそんなもんなんじゃー。」
王太子殿下ハーレスを挟んで、マリスティ・アレンシア公爵令嬢と、エリー・オルトレット男爵令嬢が言い争いをしている。
ハーレスは口を挟むでもなく、テーブルに置かれたカップを手に優雅にティータイムだ。
マリスティは、ハーレスに向かって。
「王太子殿下もこの常識もない令嬢に一言、何か言ったら如何です?」
エリーはニコニコ笑って。
「常識がないだなんてー。マリスティ様は頭がお堅すぎます。だから少しは柔らかくなったらいいんじゃないでしょうかー。」
ハーレスはマリスティに向かって一言。
「まぁ君は頭が固いからな。少しはエリーを見習ったらどうだ。」
「酷いですわ。王太子殿下。わたくしは一生懸命、頑張ってきましたのに。」
マリスティは涙を流して、その場を離れる。
何の為の王妃教育、何の為の苦労の日々。
あまりにも頭に来たので、少し頭を柔らかく考える事にした。
今まであまりにもお堅すぎたのだ。
今までは王太子殿下の婚約者という事で、他の貴族令息達とは一定の距離を保って応対してきた。
この国は16歳から夜会デビューが出来る。
婚約者として気を使い、王太子殿下以外とは踊らないようにしてきたのだが、
しかし、王太子殿下は、平然とエリーと何曲もダンスを踊ると言う行為をしてきたのだ。
だから、マリスティも、他の貴族令息とダンスを踊る事にしたのだ。
少しは頭を柔らかくしないといけませんわ。
マリスティはそれはもう、金髪碧眼の美しい高貴な令嬢である。
真紅のドレスを着た、華やかな顔立ちのマリスティは、
積極的に貴族令息達をダンスの相手に誘った。
マリスティのダンスの腕前は見事である。
マリスティが他の貴族令息と踊れば、あまりの華やかさとダンスの上手さに、
注目を浴びた。
ハーレス王太子は、つかつかとマリスティの傍に来てその腕を掴み。
「お前は私の婚約者のはずだが?」
「わたくし、頭を柔らかく、貴方様を見習う事にしたのですわ。
貴方様だってエリーと踊っているじゃないですか。ですから、わたくしも…
男女平等。そうではありませんか?」
「くそっ。」
学園でも、王太子殿下が魅力を感じるエリーを見習って、
色々な貴族の令息と話をするようにマリスティは心がけた。
マリスティは教養もあって、色々と知識も豊富なので、
自然と頭の良い高位貴族の令息達が、マリスティの周りに集まる。
高位貴族の令息といえば、婚約者がそれぞれいるはずだが、皆、マリスティの魅力に夢中になった。
マリスティは他の貴族の令嬢達に睨まれたが、
「わたくしは、王太子殿下を見習っているまでですわ。」
アレンシア公爵家は国一番、力のある公爵家である。アレンシア公爵は宰相を勤める程の出世頭だ。
誰も文句は言えなかった。
ただ、マリスティは貴族令息達とは親しくはしたが、キスをしたり一線を越えたりそのような関係にならないように気を付けた。
あくまでも友達である。
しかし、いつも高位貴族の令息達を数人、周りに従えているマリスティを見て、
ついにハーレス王太子が切れた。
「マリスティ。私と言うものがありながら、あんまりではないか?この男達はなんだ?」
「お友達ですわ。何か問題でも?」
「お前は私だけと付き合っていればいいんだ。お前は私だけに笑顔を見せればいい。
お前は私だけの為に…ともかくだ。友達付き合いだと?許さん。お前は私の婚約者だ。」
「それならば…王太子殿下。エリーと手を切って下さるわね。」
エリーが青い顔をして飛んできて、
「そんなぁ。私を王妃にしてくれるのですよね?王太子殿下。」
「王妃はやはりマリスティ以外にあり得ない。お前を王妃にしたら、我が国の恥だ。」
「あんまりですわぁ。」
高位貴族の令息達とは、王太子殿下も入れて、意見交換する会を設ける事で、
交流する事となりました。
他にも頭の良い令嬢達を加えて、未来の国の有能な側近候補を探す場ともなったのですわ。
あれから、ハーレス王太子殿下はわたくしだけを大事にして下さいますのよ。
エリーは…どうなったのか…
勉強なんてめんどくさいとばかりに、学園を辞めて、歳の離れた金持ちの大商人の元へ嫁いでいったとの事ですわ。
ニコニコしながら、お店の看板女将となって、幸せに生きているようですのよ。さすがですわね。
わたくしは、卒業後、ハーレス王太子と結婚し、後に王妃となり、今は、国の為にそれはもう、ニコニコ笑っているだけでなく、バシバシと王を助けながら、頑張っております。
ええ…それはもう幸せです。