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短編

年金を払おう、次の戦争で勝つために

作者: NOMAR

(* ̄∇ ̄)ノ ブラックジョークですよ


「せんぱーい」

「なんだ、後輩?」

「もう年金払いたく無いっすよ。なんで年金でこんなに給料から持ってかれるんですか?」

「お? お前あれか? 最近増えてる年金不信ってヤツか?」

「そりゃ不信にもなるっすよ。受給年齢が引き上げられたら、俺らの世代、年金払っても貰えなくなるっすよ。これまで払ってた分がパーですよ」

「年金の受給期間がだいたい20年ぐらいって計算されてるから、年金貰えるのが平均寿命80歳なら60歳からで、平均寿命が90歳に伸びたら70歳から、ってことになるんかな」

「えー? それじゃ平均寿命が100歳になったら、年金貰えるのは80歳から?」

「それどころか医療が更に進歩して平均寿命が150歳になったら、年金貰えるのは130歳からになるかもよ?」

「俺らの世代、年金払っても損するだけじゃないっすか」


「年金を払った分貰えるって考えるのが間違いなんだがな。日本の年金は積立方式じゃなくて賦課方式なんだから」

「なんすか? その積立方式とか賦課方式とかって?」

「積立方式ってのは、自分が未来で受け取る年金を自分で積み立てるってこと。これだと貯めた分が無くなった時点で打ち止めだ」

「それ、ただの貯金っすよね?」

「運用次第で増えたり減ったりするぞ。日本の年金は始めは積立方式で始まったから、自分が払った分を将来貰えるって勘違いする人もいるわけだ。今は賦課方式に変わってる」

「その賦課方式ってのは?」

「賦課方式ってのは高齢者に払う年金を、その時の若者に分担して払ってもらおうってやり方だ」

「それっすよ。少子化して高齢者が増えたら俺らの負担が増えるワケっすよね?」

「そういうのが世代間の不公平感に繋がるのか。1961年から始まった国民年金は、最初は負担額150円だったが、今では1万6410円まで上がったからなあ」

「100倍越えてるじゃないっすか。将来得するとも思えないものに何で1万以上も払わないとならないんっすか?」


「得するか損するかってなるとギャンブルみたいだが、国民年金保険料って言うから年金は保険と似たようなもんだ」

「保険っすか?」

「自動車保険は自動車の事故が起きたら保険金が出る。火災保険は火事になったら保険金が出る。老齢年金保険は歳をとったら保険金が出るってこと」

「あー、なるほど。それで歳とる前に死んだら貰えないってことっすね。で、年寄りが増えたから払う金を渋って、何歳から年寄りかっていうのを引き上げようってことっすね」

「ま、保険てのは未来の不確定な事柄をビジネスにしようってもんで、そこは賭博と変わらない。保険なんてのは必ず胴元が勝つようにできてる不幸の宝くじみたいなもんだ」

「なんで勝ち目の薄いギャンブルに強制参加なんすか。それならパチンコの方がマシっすよ」

「長生きできればパチンコよりは勝率高いんじゃないか?」


「俺、長生きするつもりは無いっすよ。それでも年金払わないといけないんすか?」

「年金を払うことでちゃんと利になるぞ。払わないと困ることになるんじゃないか?」

「何の為に年金払うんすか?」

「それはだな、日本が次の戦争で勝つためにだ」

「え? なんかまるで予想外の答えが? 戦争?」

「労働者年金保険法ができたのは1941年。太平洋戦争が始まる9ヶ月前。年金で戦費徴収しつつ、国民の士気を上げることができた」

「いや、年金って老後の為になんじゃ? 士気って?」

「年金に入ってたら、死んでも遺族にお金が入るし。たとえ戦争で手足を失うような大ケガしても、年金に加入してたらその後の暮らしもなんとかなる。だから安心して前線で戦ったり働いたりしてくれ、と」

「イヤっすよ戦争なんて! 平和が一番!」

「そうは言ってもな、年金は戦争の為に作られたもんだし。それが今も残ってるのは次の戦争に備えてだろ?」

「戦争の為に作られたものでも、その後は平和に使われてるものもあるっすよ。ロケットとかインターネットとか電子レンジとか。戦争いくない」


「そうか? 公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、やる気満々じゃないのか?」

「え? また年金の運用で何かやらかしたっすか?」

「GPIFは軍事部門の売上高が世界十位以内の企業の株式を保有しているぞ。世界の軍事関連企業トップ10の株式コンプリートだ」

「国民の年金を何に注ぎ込んでるっすか!」

「資金の運用ってことなら株価の上がりそうなとこ買うもんだろ。それに日本はアメリカの同盟国で、アメリカの軍事力が頼りの国だし」

「そりゃまあ、日本に軍隊は無いってことだし」

「アメリカの軍事力を上げるにも、アメリカの軍事関連企業に金出すのが同盟国の役目ってのもあるんじゃないか? それに日本が兵器を買うときにも、大株主なら株主優待割引とかあるだろ」

「戦車とか戦闘機買うのに株主優待割引使えるんすか?」

「そして、紛争が起きれば兵器の需要が伸びる。兵器が売れて軍事関連企業の株価は上がる。株を持ってるGPIFは儲かる。だから年金受給してる人は世界で紛争が起きたら、これで日本の年金は安泰だって喜ぶところじゃないか?」

「なんすかソレ!? 先輩、イヤな感じに逆転してるっすよ! ますますそんなモンに金払いたく無いっすよ!」

「そうは言ってもな。これまでお前が払った年金も、巡りめぐって軍事関連企業への融資になってんだが」

「知らなかったっすよ! 戦争反対!」


「そーいう人が多い国じゃ、皆の金を世界平和を乱すのに使うのはどーなんだよって話になる。オランダの年金基金ABP、スウェーデンの年金基金AP1・AP4は核兵器とタバコに関わる産業からは投資撤退(ダイベストメント)してたりとか。クラスター爆弾とか地雷とか作ってるとこに投資すんのはやめようとか」

「いいっすねそれ。日本もそれやりましょうよ」

「日本じゃ無理じゃないか? 戦争反対で世界平和の為に年金を払わないとか、GPIFのやり方を非難する為に年金の受給を拒否するとか、そんな人はあんまりいないだろう?」

「じゃ、俺、世界平和の為に年金払うのやめたいっす」

「公的年金を払うのは国民の義務で、未納してると強制徴収とか差し押さえとかされるぞ」

「なんで世界平和に貢献したら財産没収されるんすか?」

「戦争の為に産まれた年金は平和が嫌いだからだろ」


「だいたい日本の年金ってマーサーCFA協会のグローバル年金指数じゃ、ずっとランクDじゃないっすか」

「あぁ、日本の年金は、対応の必要がある大きな弱点・不備があるってランクDにされてるな」

「これが冒険者なら万年ランクDなんて、ギルドからもパーティからも追放される案件っすよ」

「いやいや、年金を追放しちゃダメだろ。それに日本はヨーロッパと違って、軍事関連企業に投資してるとか話題にならないし。お前も知らなかったろ?」

「知ってたらもっと激しく文句言ってたっすよ」

「お前、見た目はチャラいのに意外とマジメだな」

「俺の見た目なんてどうでもいいっすよ。先輩、どうしたら年金が軍事関連企業に投資するのやめさせられますかね?」

「お前が立候補して政治家になったら?」

「無理っすよ。俺、頭悪いし金持ちじゃ無いし」


「まー、誰でもできそうなことだと、銀行の預金とかになるか?」

「銀行っすか? え? まさか?」

「Fair Finance Guideじゃ日本の銀行の社会性を格付けしてるんだがな。国内大手の4つの銀行グループが、核兵器製造企業、クラスター兵器製造企業への投融資額が、合計で136億6900万ドル(約1.4兆円)だと」

「みんなの預金でなにやってるっすか!」

「そういう銀行からは預金を引き上げたりするといいんじゃないか?」

「さっそくマシな銀行を探してみるっす」

「ちなみにGPIFは、核兵器・クラスター兵器製造企業への投資額では、約3873億円の株式、約15億円の債券を保有しているそうだ」

「みんなの年金でなにやってるっすか!」

「そりゃまあ、日本は戦争で儲かるってのを知ってるからじゃないか? 日本が経済成長したのも、1950年代の朝鮮戦争特需。1960年代のベトナム戦争のいざなぎ景気だし」

「なんだか日本が死の商人みたくなってるっす」

「これまでアメリカの戦争の尻馬に乗って稼いできたから、他所で戦争してくれたら景気が良くなるってことだし。俺のばあちゃんも、戦後の方が暮らしやすかった。どこかでまた戦争してくれないかしら? とか言ってたし」

「ちょっと先輩、みんな戦争ダメって言うじゃないですか。そんな金の為に戦争したらいいなんて、なんか間違ってるっすよ。戦争になったらいいなんておかしいっすよ」


「そうか? 日本と韓国が戦争したら世界経済は成長するって話もあるぞ?」

「えー? なんで日本と韓国で戦争しなきゃならないんっすか?」

「コロナウィルスのパンデミックで世界経済は大打撃だけどな。コロナが無くても世界経済は、世界規模のデフレで低迷してた。だから日本と韓国が戦争してGDP上位国から転落。日本と韓国が持ってた市場をうちの国にって頑張る国が経済成長。そいで日本と韓国に輸出する国が戦争特需で景気は良くなる、と。日本と韓国を犠牲にすることで世界はデフレから一時的に脱却して、世界経済は成長するってことらしい」

「なんで日本が犠牲にならないといけないんっすか? ヤですよ、戦争なんて」

「ヤですよ、って言っても日本は同じことをベトナム戦争のときにしてたわけで、時代が巡って今度は日本の番が来た、ってことかもよ? そいで次の戦争で勝つためには、年金も必要だし軍事力を上げることも必要なワケだ」


「なんかもー、戦争になったときに負けないように年金を払おう、とか聞いたらますますそんなもんに俺の金を出したく無いっすよ」

「じゃ、日本が負けてもいいのか?」

「勝ち負け以前にもっとこうどうにかならないんすか? 戦争とか紛争とか軍事産業で稼ごうとか、そーいうのヤメにするような。先輩はどーすんです? 日本が戦争になったら?」

「俺か? 俺はそれなり考えてはいるが、だからなんとかなりそうだ」

「お? 先輩には何かいいアイディアでもあるんすか? 戦争にもならずに景気が良くなるような、みんなが平和で幸せになるような」

「そんないいもん俺が思いつくわけ無いだろ。あったら誰かやってくれんかな」

「じゃ、先輩はどーすんです?」

「俺は戦争になる前に退職してチェンマイに移住するから」

「は?」

「退職金でチェンマイに家建てて、向こうで年金生活するつもりだ。だから日本に残る若者は頑張って働いて年金を払ってくれ。俺の年金生活の為に」

「敵前逃亡だ! こんちくしょう!」



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