第四話「過去は今を表し、今は未来を変える。」
第四話「過去は今を表し、今は未来を変える。」
あれは小六の頃の話だ。
(回想)俺は小学校の修学旅行で東京に行った。班員は俺と神崎と劉淵と奥沢だ。先生同伴での自由行動で僕たちは秋葉原に行った。その帰り道で、事件は起きた。高校生十人グループが先生を突き飛ばし、神崎と奥沢を拐った。俺は当時、奥沢に幼いながら恋心を抱いていた。俺は怒り狂い、高校生十人を意識不明の重体にした。僕は英雄だ、誘拐犯を倒した真の英雄だ。そんな気でいた。しかし、現実は違った。よほど怖かったのだろう神崎と奥沢は震えていた。俺は安心させようと近づく。すると奥沢は俺を睨み、
「近寄らないで、この化け物。化け物は死んじゃえー。」
大声で叫んだ。
「そんな・・・・・・。」
俺は心の底から傷ついた。好きな子に化け物呼ばわりされ、死ねとまで言われた。劉淵は彼女たちを落ち着かせ先生と共に走って帰った。ただ一人俺を置いて。俺は泣いた。誰一人として俺を助けてくれる人はいなかった。俺は歩いて秋葉原から集合場所の両国周辺のホテルに戻った。
「蒼龍君。助けてくれてありがとう。私にとってあなたはヒーローよ。」
ホテルで俺に優しく声をかけてくれる人は神崎と劉淵以外いなかった。周りの先生は俺を危険物として両手両足を縛り、柱に括り付けにした。多少動けば仕掛けが発動し、俺を殺す仕掛けだ。俺は拘束されたまま一夜をすごした。途中で抜け出すことも可能だった。でもしなかった。それをしたら俺は彼女のヒーローでいれなくなる。何度も泣きそうになった。神崎の言葉にどれほど救われただろう。それ以来俺は残り五ヶ月の小学校生活を家で過ごした。中学に入り新しい生活が待っているのかと思ったら違った。好きだった奥沢は海外へ留学し、俺のあだ名は「人殺しの怪物。」庇ってくれるのは神崎さんと劉淵のみ。俺はそれに屈することなく二年間登校した。ある日に神崎が虐められるのを見た。俺はこれ以上自分のために傷ついてほしくないと思いまた、不登校へと戻った。(回想終)
「そういう事があったんですね。」
「だから俺の経験論からにして間違いなく俺はこの国にとって脅威とみなされ殺される。」
俺はなんで昔のことを話してるんだろう。話したって何の解決にもならないのに。
「それはありえません。」
「なぜ?」
「私もあなたと同じ境遇だったからです。」
「同情で言っているのか?」
「どうですかね。」
ハムちゃん先生はクスクスと笑い、
「では先生からいくつかアドバイスです。」
「アドバイス?」
「一つ、周りはあなたを恐れているのではない、理解しようとしないだけです。誰だって狼やライオンを飼い慣らすことは難しい。ましてやそれが人間ならもっと難しい。だからあなたは自分を理解して貰えるように努力しなさい。いつになるかは分かりませんが努力をすれば少なくともこのクラスの人間は理解してくれます。今の現状を続ければあなたの言う通り国に殺されます。」
「はい。」
「二つ、あなたは化け物ではない。誰がなんて言おうが関係ない。あなたは立派な人間だ。歴史で例えると、あなたは呂奉先ですね。」
「俺が?」
「えぇ。あなたの武勇は呂奉先以上と言っても過言ではありません。蒼龍政則は人間だと誇りを持ちなさい。」
「ありがとうございます。」
「最後に一つ。あなたの力をこの教室で存分に発揮してください。蒼龍君は素晴らしい才能を持っている。それにあなたは優しい。」
「俺が?」
「えぇ。あなたは神崎さんのヒーローであり、地球を救うヒーローでもあるんですから。しかし、やり方を間違えるとそれは脅威になってしまいます。でも正しいやり方だとあなたを蒼龍政則という人間を知ることができます。」
ハムちゃん先生は何かを書くと蒼龍に渡した。
「これは?」
「なんでしょうかね。ではこれで。」
そう言うとハムちゃん先生は職員室を出た。俺はその紙を見た。俺は驚いた。
《なんでもお見通しだな、ハムちゃん先生は。あなたみたいな素晴らしい先生ともう少し早く会いたかった。》
彼は短冊に「ハムちゃん先生みたいな先生。」と書いた。
「やはりあなたでしたか。」
職員室から聞こえた音の正体は奥沢だった。でも、ハムちゃん先生の声は彼女には届かなかった。
《私は彼のことが気になり後を追った。そして聞いてしまった。そして知った。彼は昔私に好意を抱き、あの時私が酷いことを言ってしまった命の恩人だということを。今さら言えない。言ったら余計に怒らせてしまいそう。止めよう。私もあなたと同じ気持ちだったということを伝えるのは・・・・・・。》
私は涙が溢れてきた。嬉し涙?悲しい涙?違う。そんなんじゃない。悔し涙でもない。一体なぜ私は泣いているの?泣きたいのは蒼龍君のはずなのに。なぜ私は泣いているの?
「盗み聞きとは趣味が悪いですね。奥沢さん。」
ハムちゃん先生がニヤつきながら言ってきた。私は驚いた。
「いつからそこに?」
「最初からいましたよ。初日でなんですが、奥沢さんあなたは蒼龍君に恋をしていますね?」
「・・・・・・。」
「黙っているということはその通りなのですね?」
私は頷いた。言えるはずがない。むしろ言ってはいけない気がした。なぜなら、私にはその資格はないのだから。この気持ちは奥底に沈めよう。
「聞いてしまったなら仕方がない。率直に言いましょう。あなたは彼を理解できなかった。いや理解しようとしなかった。違いますか?」
「その通りです。私は自分の価値観を蒼龍君に押し付けて勝手に失望した。私には彼を好きになる資格はなかった。」
何カッコつけて言ってんだろう私。
「それは違いますね。」
「え?」
思わぬ答えに私は素っ頓狂な声を出した。
「人を好きになるのに資格など必要ありません。あなたは彼を好きになったのならそれを伝えればいい。」
「でも・・・・・・。」
「伝えないと分かりませんよ。たとへ両思いであっても、片思いであっても。好きという言葉を言わなければ、いつか彼はあなたから離れていき、あなたの存在を忘れるでしょう。私の恩師がこう言いました。好意を伝えるだけが好きを表すのではないと。好きという言葉で伝わらないなら行動で示せと。」
「私はどうしたら?」
「先生は生徒間の問題は生徒自身で解決するものだと思っています。二人の関係に私が口を挟む必要はありません。ですがヒントなら言えます。知りたいですか?」
「はい。」
「なら、まずは彼を知ってください。ヒントは以上です。」
「ありがとうございます。」
蒼龍は職員室を出ると奥沢が待っていた。
「どうしたの?」
「なんでも。」
私は彼を理解しようと思った。いや、彼を理解するんだ。
第四話「過去は今を表し、今は未来を変える。」~完~